王者に期待の新人   作:Rain Blue

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2話

手塚国光、同年代の中でも圧倒的な技術力とセンスで頭一つ飛び抜けた実力を持つ全国区のテニスプレイヤー、その実力はプロに匹敵するとまで言われおそらく中学生で1番未来を期待されている選手であろう。その男とその弟の存在を知ったのは小学校の頃に参加したとある大会だった。当時小学6年生だった俺は幼馴染の幸村と一緒に大会に参加していた。それまで同年代で自分と張り合うだけの実力を持っているのは幼馴染の幸村や噂に聞く手塚くらいで他は有象無象に過ぎないとまで考えていた。今回の大会もきっと幸村と当たるまでの消化試合をこなして行くだけだと思っていた時に彼は立ち塞がった。圧倒的な技術力とセンスによりその頃の自分は圧倒的な大差をつけられて敗北した。そして手塚とのリベンジに燃えた俺は練習により一層打ち込み力を蓄えることで立海大のレギュラーにまで上り詰めた。長い間待ち続けたリベンジは未だ果たせていないがいつか来るその時をじっくりと待ち続けている。

そんな中で中学3年になり1年が初の授業を迎える今日、懐かしい顔を見ることになった。手塚真琴、中学テニス界でも全国区の有名人でもある手塚国光の弟であの大会で知ることとなった人物だ。あの大会以降には何の音沙汰もないためまさかテニスを辞めたのでは?と考えていたが杞憂であったようだ。何故ならここは全国優勝を2連続で果たした王者立海大附属中学校、中学でテニスをするなら最高の環境でありテニスをするのにここに入ることは十分に考えられることだ。おそらく今日の体験入部に来ることを考えると自然と口角が上がった。そんな中1人の男が話しかけてきた

 

「どうしたのだ弦一郎?そのようなにやけ面を晒すなど貴様らしくないな」

 

この男は立海大BIG3の1人でもある柳蓮二、豊富なデータを元に戦略を立てる頭脳とそれを実現する技術を持ったプレイヤーだ。

 

「いや何、懐かしい顔を見てな。手塚真琴、お前のデータにもしっかり記録されてるのではないか?」

「ああ、手塚真琴かそれなら俺のデータにもある。確か3年前から情報が途絶えたから何らかの理由でテニスを辞めたとばかり思っていたがうちに来る以上はまだテニスを続ける意思はあるのか。それにしても手塚真琴か、中々に面白い巡り合わせだな」

「そうだな、本来なら公式の場で戦いたかったがこういうのも悪くない」

 

その後は柳と今日の体験入部で行う練習についての話をしていく中で部活動の開始時間が始まった。その場には噂の彼も姿を現し今回の体験入部への期待が自然と高まっていった。走り込みや素振りを終えていよいよ試合が始まる。1年生の人数がちょうど奇数であるため運が良ければ試合をすることが出来るだろう。そして1年にくじを引かせていき全てのくじを引かせ終わったあたりで彼が来た。

 

「あの、くじが白紙だったのですが」

「ああ、お前がそのくじを引いたか。しかしなるほど、早速やるとはな」

 

俺は歓喜した。今日でかなりの運を使い果たしてしまったのではないかとも考えた。それだけ彼との対戦を楽しみにしていたのだ。あの手塚真琴と戦うということは俺にとってそれだけの意味を持つ。手塚真琴、プロテニスプレイヤーと同等の実力を持ち中学テニス界でも全国区の実力者でもある手塚国光を兄に持つ少年。そして何より

 

「それではお前との対戦楽しみにしてるぞ、手塚真琴」

 

あの大会で手塚国光や幸村しか敵がいないと思っていた俺を完膚なきまでに叩き潰した相手であり俺が長年リベンジに燃えている選手だからだ。1年の試合が段々と消化されていく中で俺の期待は限界まで上がっていった。そして因縁の2人が3年振りにコート内で向き合うことになった。あの時からどれだけ自分がこいつに近づいたか、あるいはどれだけの差をつけたかを楽しみにコートに立つ。サーブは相手からだった。昔と比べてもあまり変わりのない打球に対してこちらはサービスエースで返す。真琴は返した球に反応こそしたものの得点を許してしまう。

 

「どうした?大分反応が鈍いようだがこのままではすぐ終わるぞ?」

「まだ小手調べってところですかね。なんせブランク空いちゃってるんで」

「それなら早く追いつくがよい」

 

ブランク、その言葉を聞いて納得した。昔と比べて成長しているものだとばかり想定していたが想定と違いこれは復帰戦といったところか。だがその後も真琴は調子を取り戻すことなく2-0を迎えて俺はあることを確信した。俺はパワーアンクルを取り外しそれに合わせて周囲は騒がしくなった。観客の中から蓮二が不思議そうな顔をしながら声をかけた。

 

「弦一郎どうしたのだ?まだそれを外すには早すぎると思うのだが」

「止めるな蓮二、俺はどうやらこいつを全力で潰さなくては気が済まないらしい」

「何故そこまでして奴を潰したがる?お前らしくもない」

 

確かに一度負けた相手というだけならばここまでの感情は湧かなかっただろう。だが奴と打ち合っていく中で違和感を覚えた。最初はサーブから始まった、その後ブランクがあると聞いたためその時は流したが徐々に違和感は溜まっていった。彼のテニスは、彼のプレーは、それを思い出していく中で違和感の存在に気づいた。

 

「奴のテニスには情熱が無い、ただそれだけだ」

 

だがそれが許せなかった。俺は手塚真琴という男に期待しすぎていたようだ。それは熱が大きかっただけありそれが怒りへと姿を変えるのに時間はかからなかった。王者立海大、その掟でもある常勝という掟、奴はこの立海大において一切勝つ気がないのにコートに立っている。その事実が俺には。王者立海大において皇帝と二つ名を持つ真田弦一郎という男にはこの事実は自身のそしてその誇りの立海大に対する最大の侮辱であった。

 

「だから勝つ気のない者はこの俺が叩き潰す」

 

王者の逆鱗に触れ皇帝が動き出す。

 


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