フェアリー・エフェクト(完結)   作:ヒョロヒョロ

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題でネタバレてくスタイル。


黒スライム、脱社畜する

 盛者必衰。諸行無常。

 一時は一世を風靡した『ユグドラシル』というゲームも、今日をもって終わる。

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の拠点、ナザリック地下大墳墓。その最深層にある玉座の間に、ずらりと並ぶシモベ達。

 諸事情で持ち場から動かすのが難しい一部を除いて、ギルドメンバーが作成したNPC達が勢ぞろいしているその様に、ヘロヘロは筆舌に尽くしがたい情感に身を震わせた。

「──ああ……お前達も……」

 戦闘メイドだけでなく、自身が作成した一般メイド達もその列に加わっているのを見て、ヘロヘロは静かに目を伏せる。

(──ここまで来て、良かった)

 本当は、メールをくれたギルド長のモモンガに挨拶だけして、すぐログアウトするつもりだった。──今日も仕事でへとへとだし、明日も朝早くから仕事だから。

 きっと、いたのがモモンガだけだったら、その通りになっていた。気遣いの人であるギルド長は、こちらを無理に引き留めはしなかっただろうから。

 ──だが、その場にいたもう一人の存在が、ヘロヘロがログアウトするタイミングを奪った。

「うわぁ! すごい! 壮観ですね~!」

 若々しい少女の声で歓声を上げながら、整列するNPCの間をひゅんひゅん飛び回る小さい人影──透明な翅を持つ、手のひらサイズの小人。

 彼女の名は、ルイ。種族は<フェアリー>という、妖精系統のレアらしい。

 ルイは、モモンガによって同盟者として登録され、同陣営扱いにはなっているが、『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーではない。『アインズ・ウール・ゴウン』の加入条件を、彼女は満たしていないからだ。

 ──『ユグドラシル』のサービス終了が発表された、まさにその日、モモンガはルイと出会ったらしい。

 ルイは、とある動画でナザリックに魅せられ、アカウントの新規登録ができなくなる寸前に『ユグドラシル』を始めたという新人だった。

 サービス終了の報せに焦った彼女は、推奨レベルにまるで届いていないにも関わらず、ナザリックへ特攻したらしい。

 『ユグドラシル』終了の報せに落ち込んでいたモモンガは、低レベルのソロでナザリックに特攻してきた、見覚えのない種族に気を惹かれたらしい。

 思わず、撃退ではなく、対話を選び──ルイのナザリック賛美に絆されてしまったのだという。

 「なくなってしまう前に、一緒に創った仲間以外の誰かに、ナザリックを自慢したかったんです」──そう、モモンガは言った。その気持ちは、ヘロヘロにもわかる。

 その相手として、ルイは完璧だった。どこまでも純粋に、ナザリックと『アインズ・ウール・ゴウン』に憧れる彼女は。

 けれど、彼女は、モモンガの好意を理由にナザリックを見せてもらうことへ、抵抗を示したらしい。

 曰く、「関係者でもないのに、たまたま終わり間際に来たと言うだけでただで見せてもらうのは、『アインズ・ウール・ゴウン』の皆さんにも、かつて突入して返り討ちになったプレイヤーさん方にも、失礼な気がします」と。

 そうして、玉砕覚悟で自力でナザリックを巡ろうとするルイ。そこまでのリスペクト精神がある彼女だからこそ、ナザリックを案内してあげたいモモンガ。二人の話し合いはすったもんだの末に、妙な所に着地した。

 

 ──関係者でない(たにんである)ことに気後れするなら、関係者にしてしまえ(たにんでなくなれ)ばいい。

 

 結果として、ルイは、モモンガのNPC(むすこ)に嫁入りした。

 

 どうしてそうなった!? と聞いたヘロヘロは思ったし、実際そう叫んだ。モモンガ曰く「話の中で、ルイさんがシャルティアを“爆撃王さんの嫁”って言ったの聞いて、これだ!って思って……」とのこと。

 『ユグドラシル』に婚姻システムはないが、NPC相手の婚姻なら、NPCの設定文に『誰それと夫婦である』とでも書き込めばそれで済む。

 「これでルイさんもナザリックの関係者です!」というモモンガの理屈に納得した──というより、有料ガチャで当てたレアアイテムを“嫁入り道具”としてナザリックに納めることで、ルイも折り合いをつけたらしい。

 昨日まではモモンガのガイドでナザリック内を見学しまくり、最終日の今日はログインしてくるギルメンに『ギルド長の息子の嫁』として挨拶していた、という訳らしい。

 23時間過ぎに眠気マックスでログインしたヘロヘロは、モモンガに「うちの嫁になったルイさんです」とルイを紹介され、意味を勘違いして眠気を吹っ飛ばすほど驚いた。

 ──“息子の妻”を“うちの嫁”と呼ぶのは正しいはずなのだが、“俺の嫁”という言い回しのせいで混乱してしまったのだ。おのれ、ペロロンチーノ。

 諸々の事情を聞いて誤解も解け、そろそろログアウトしようとヘロヘロが思ったその時、「玉座の間にNPCを集めてあるので、行きませんか?」とルイが言い出したものだから、完全にタイミングを逃した。

 遠慮がちにこちらの反応を伺っているモモンガの様子に気づいてしまえば、ヘロヘロにNOという選択肢はなかった。

 そうして、流されるようにここまで来て──忙しさにかまけて置き去ったものの価値を、思い出したのだ。

「……ソリュシャン……」

 特に力を入れて創った戦闘メイドの前で、彼女の名を呼ぶ。

 AIに従って一礼するその仕草すら、懐かしくて愛おしい。

(──モモンガさんに、お礼を言わなきゃ)

 ずっと、彼が一人でナザリックを維持してくれていたから、ヘロヘロは彼女たちともう一度会うことが出来たのだ。

 そう思って、モモンガの姿を探せば、

「──うわっ……」

 彼は玉座の側に控える女性NPCの設定を開いて、何とも言えない声で呻いている。

「……どうしたんです?」

「いや、ヘロヘロさん。見て下さいよ、これ」

 歩み寄って、言われるままにコンソールをのぞき込み、ヘロヘロも呻いた。

「……これは酷い」

 まず字数制限限界まで書き込まれた設定の長さがヤバいし、最後の一文が強烈すぎる。──『ちなみにビッチである。』とは。

「……アルベド、ですか。誰のNPCでしたっけ?」

「……タブラさんです」

 モモンガの答えに、ヘロヘロは深く納得した。

(設定厨で、ギャップ萌え……その結果がこれかぁ……)

 しかし、この設定をこのままにしておくのはいかがなものか。

「……これ、変えません? 新婚もいるのに、まずいでしょ、これは」

「確かに……よそのNPCいじるのは気後れしますけど……女性に、これはちょっと酷いですし……」

 コンソールをいじって、モモンガが最後の11文字を消去する。

「……なんか、せっかくめいっぱいまで書き込まれてたのに、もったいない気もしますね」

「代わりに何か書き込みます?」

 モモンガの問いに、ヘロヘロの脳裏で閃くものがあった。手を伸ばして、すすすっと手早く書き込む。

『モモンガの正后である。』

 文字列を見たモモンガが、裏がえった声を上げる。

「ちょっ!? ヘロヘロさん!?」

「いいじゃないですか。お似合いですよ、魔王とその后って感じで!」

「えぇ……?」

「息子さんが嫁もらったのに、お父さんが独身じゃ格好つかないでしょう?」

「けど……」

「──何してるんです~?」

 NPCの間を縦横無尽に飛び回っていたルイが、ごそごそやってるのに気づいたらしく寄ってきた。

「今、このアルベドが、モモンガさんと結婚したところです」

「ちょっ!?」

「わあ、おめでとうございます! ──あ、じゃあ、私にとってはお義母(かあ)様になるんですね!」

 綺麗なお義母様で嬉しいです! と、はしゃぐルイに、モモンガも観念したらしい。設定をそのままに、コンソールを閉じた。

「ふふ、観念しましたか」

「まあ、もう、あと十分もないですから……」

「あ、最後に記念写真(スクショ)撮りたいです!」

 ルイの提案に、ヘロヘロもモモンガも賛同した。

「じゃあ、モモンガさんは玉座に」

「いいんですか?」

「逆に、ギルド長の他に座る資格のある人はいないでしょう。ほらほら!」

「じゃあ、ヘロヘロさんは玉座の横に並ぶ感じで……」

「私は撮影に専念しますね~!」

「いや、ルイさんも一緒に写りましょうよ!」

「だって、序列的にどの辺に並べばいいのか、よくわかんないです!」

「え~っと……名前出てこないんですけど、モモンガさんの息子(NPC)って、アルベドの反対側にいる軍服のやつですよね?」

「あ、パンドラです、パンドラズ・アクター」

「パンドラの肩にルイさんが留まる感じにしたら、いい感じじゃないですか?」

「……下手に接触すると18禁に抵触しません?」

「ああ……腰掛ける(尻をおく)のは、アウトかも……?」

「なら、立った状態で!」

「……この絵面、なんか、見たことあるような」

「……巨大ロボの肩に立つパイロットみたいですね」

「それだ!」

 わちゃわちゃと撮影会をしている間にも、カウントダウンは進んでいく。

 いよいよ時間が差し迫ってくると、誰からともなく黙り込み、しみじみとした空気が漂い始めた。

「……楽しかったなぁ……」

 玉座についたままのモモンガが呟き、飾られたギルドメンバーの旗を指さした。

 ルイに解説しているのか、それとも述懐しているだけなのか、ギルドメンバーの名前を呼び上げていく。

「──そして、俺」

 最後に自分の旗を示してそう言ったきり、口を閉ざしたモモンガに代わって、ヘロヘロは口を開いた。

「──楽しかったですね」

 先ほどのモモンガの呟きの繰り返し。──けれど、その言葉には、我ながら万感の思いが込められていた。

「えぇ、本当に……」

 モモンガが頷く。──と、そこで、ヘロヘロは礼を言いそびれていたことに気がついた。

「モモンガさん、長らくナザリックを守ってくれて、本当にありがとうございました」

「いえ、私はギルド長として、当然のことをしたまでですから」

 モモンガはこともなげに言うが、ここまでできる人は希有だろう。

「それでも、今日、最後にこうやって過ごせたのは、モモンガさんのおかげですから。──ありがとうございます」

「……はい」

 照れたような声音で礼を受け入れたモモンガに、ヘロヘロは笑う。

 そうして、その息子(NPC)の肩に立つルイへ、声をかけた。

「──ルイさんも、ありがとうございます」

「ひゃい!? え、何がです!?」

「あなたがいてくれなかったら、きっと早々にログアウトしてしまっていたと思うんです。ログインするまで、眠気マックスだったんで。──あなたの存在にびっくりして、眠気吹っ飛びましたけど」

「そ、それは良かったです……? え、よかったの……?」

「ええ、良かったんです。──だから、ありがとうございました」

「そ、そうですか……?」

 困惑しきりのルイ。ひょこひょこ揺れるアバターの様子が可愛くもおかしくて、ヘロヘロは笑う。

 

 ──カウントダウンは、10秒を切った。 

 

「──最後は、びしっと締めますか」

「ですね。──ルイさん、次の私の言葉、繰り返して下さい」

「はい!」

 一拍おいて、モモンガが声を張り上げた。

「──アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

「アインズ・ウール・ゴウンに、栄光あれ!」

 ヘロヘロとルイの声は、綺麗に唱和し──

 

「──アインズ・ウール・ゴウンに栄光あれ!!」

 

 地をどよもすような大唱和がその後に続いて、ヘロヘロ達は飛び上がったのだった。

 

 




ナザリック1500人迎撃動画より抜粋
「よくも、シャルティアを……俺の嫁をぉぉおおおおっ!」
(第1~3階層の守護者撃破後、某爆撃王の絶叫)


【嫁】って言葉で辞書引くと、『息子の妻』って意味と『新婚の女性(花嫁)』って意味の二つが出てくる。
つまり、“俺の嫁”は“俺の花嫁”の略なのでしょうか。改めて考えると、結構紛らわしい言い回しですね、これ。


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