フェアリー・エフェクト(完結)   作:ヒョロヒョロ

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誤字報告ありがとうございます……自分で読んでも脳内補正しちゃうのか気づけないんです……
あと、ちょっとしばらく更新ゆっくりになるかもです。申し訳ない。

【前回のあらすじ】
パンドラ「父上も妻も守り抜きます」キリッ
シャルティア「埴輪のくせに格好良いとか生意気でありんす」
マスター(割ったグラスを無言で片づける)とばっちり


君臨者、勘定する

「──おお、陽光聖典が来てくれたのか!」

 宰相の報告を聞いて、幼い姿の女王──ドラウディロンは大きく破顔した。

 竜王国という名の通り、竜の血脈を継ぐ女王にとって、外見年齢など飾りでしかない。普通に大人の姿にもなれる──というか、そちらの方が本来の姿なのだが、何故かこちらの姿の方が周りの士気があがるので、仕方なく幼い姿をとっているだけだ。

 竜王国は、長らくビーストマンの脅威にさらされている。もはや自国戦力だけでの防衛は不可能で、少なくない額の寄進と引き替えに法国から送られてくる援助で、どうにか持ちこたえているレベルなのだ。

 陽光聖典は法国の戦力の中でも亜人討伐に特化した部隊であり、竜王国への援軍として来てくれる顔なじみたちでもあった。──任務の関係で、割と顔ぶれの入れ替わりは激しいが。

「法国め、今年は援助が難しいかもしれん、などといっていたが……なんだかんだちゃんと援軍をよこしてくれたのか!」

「いえ……どうも、法国からの援助、という訳でもないようなのです」

 微妙に煮え切らない口調の宰相に、女王は眉をしかめる。

「は? 陽光聖典は、法国の──まさか、部隊が独断で応援に来てくれたのか!?」

「それ以上です。──陽光聖典は、『我らは既に法国に属する者ではない。陽光聖典という名も、もはや我らに相応しいものではない』と」

「──はぁッ!?」

 ドラウディロンの喉からひっくり返った声が飛び出した。──あの信仰心の塊のような連中が、祖国を捨てた?

「……そ、それで、我が国に移住したいとでも……?」

「いえ、そういう訳でもないらしく……『相応しい対価を払うなら、我らの真なる神が、貴国を瞬く間に救うだろう』と──つまり、一種の勧誘というか、交渉に来たようで」

「……真なる神ぃ……? ──そうか、“百年の揺り返し”か!」

 それに思い至って、ドラウディロンは目を見開いた。

 竜の血脈を継ぐ女王は、血だけでなく断片的な知識も伝え継いでいる。

 法国が祀る六大神の正体が、六百年前にこことは違う世界からやってきた異邦人であるということ。そして、それ以前、それ以後も、およそ百年周期で異邦人とおぼしき強大な存在が、この世界に現れるということ。

(百年前はそれらしい存在は現れなかったというが……そうか、今回は、“神”と呼ばれるような存在が来たのか……)

 おそらく、陽光聖典はたまたまその“神”と接触する機会を得て、祖国よりも“神”をとったのだ。

(しかし……だとすると、その“神”とやらは、法国自体とは接触していないのか?)

 陽光聖典が敬う以上、その“神”とやらは、人類にとってある程度有益な存在のはずだ。少なくとも、八欲王どもの同類ではないだろう。──法国がその存在を知れば、喜び勇んで祀りあげるはずだ。

(──陽光聖典と出会って、『こんなのの同類が大量にいる国とか、ちょっと……』とか思ったのかもしれんな……)

 狂信的な感情を向けられるというのは、案外キツい。

 まあ、“神”の正体や心情は、ぶっちゃけドラウディロンにはどうでもいい。国を──民を助けてくれるというなら全力で縋りたい、が。

「……対価を払う余裕なんか、あるか?」

 これにつきるのである。竜王国は、金銭的にも国力的にもカッツカツなのだ。

「──五年後以降は、年に一回羊百頭を捧げることで、国境防護を確実に約束すると。しかも、餌はあちらから配給してくれるそうなので、実質かかるのは手間だけです」

「えっ、そんなのでいいのかっ!?」

 もちろん家畜を百頭世話するとなれば結構な手間だが、国全体で手分けすれば訳もない程度ともいえる。あまつさえ、餌代向こう持ちとか、それだけで負担は激減だ。

 今現在防衛費や法国の寄進に使っている額を考えたら、なんかもう、破格のお手頃さである。

 思わず飛びつきそうになって、しかし、寸前でそれに気づいた。

「──いや、五年後以降? 最初の五年分の対価は?」

「それは……色んな意味で、とんでもない対価を請求されました」

 大きく溜息を吐いてから、宰相はそれを告げた。

 

「──陛下の“タレント”……“始原の魔法の行使能力”をもらう、と」

 

 ──“神”とやらは、生まれながらの異能(タレント)にさえ干渉できるのだと悟り、竜の末裔は盛大に顔を引き攣らせた。

 

 

「おお、交渉成立か! よくやったぞ、ニグン!」

『──あ、ありがたきお言葉ぁ……っ!』

「……うん、じゃあ、仕事するから切るな……」

 号泣し出した男の声にどん引き、モモンガはそそくさと《伝言(メッセージ)》を切った。

「よし、マーレ、作戦通り始めるぞ」

「は、はい!」

 意気込んだ様子のマーレが、巨大な巻物を広げる。──【山河社稷図】という世界級(ワールド)アイテムだ。

 途端、マーレの姿が消え──少し離れたところにある人里からの気配も消えた。

 このアイテムは、使用者を含むエリア全体を異空間に取り込んで隔離する。例外は、モモンガのような世界級(ワールド)アイテム保持者だけだ。

 隔離先の異空間には、ダメージを含む様々なエフェクトが存在し、そのエフェクトの対象者は、使用者によって選別できるのだ。

 【山河社稷図】でビーストマンに侵攻されているエリアを竜王国民ごと取り込み、“眠り”のバッドステータスエフェクトで全員まとめて眠らせる。他にも行動阻害系のバステを大量に盛っているので、“眠り”が効かないビーストマンがいても、マーレなら余裕で対処できるはずだ。

 ビーストマンを()()した後に【山河社稷図】を解除すれば、あとには無事な竜王国民が残るだけ、という訳だ。

 ──ちなみに、この使用法は“八本指”の捕縛の際に、パンドラズ・アクターが考案したものだ。

 WI保持者(例外)のモモンガも、自身の意志で入ろうと思えば【山河社稷図】に入ることはできるが、今回、中はマーレと彼について行ったシモベたちに任せた。

 【山河社稷図】の対象にしたエリアは、人間とビーストマンが混在している人里のみ。──つまり、まだ人里に入っていなかったビーストマンはそのままだからだ。

 【妖精の輪(チェンジ・リング)】のスキルを切り──モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>の姿をとった。

 魔法で上空に浮かび上がり、意図的に低く作った声音を紡ぐ。

「──ビーストマン諸君」

 国境にたむろする何万もの侵略者たちに、魔法で拡大した声が届く。

「このまま大人しく帰って、二度とこの国の民を脅かさないと約束してはくれないか。そうすれば、私はお前たちに手を出さない」

「──なんだこの声は!」

「どこからだ!?」

「……おい、上だ!」

 戸惑うようなどよめきのあと、虚空に浮かぶモモンガの影に気づいたらしい。

 ビーストマンたちからの殺気と、投擲武器が飛んできた。

「たった一匹でふざけたことを! こんな良い餌場を誰が手放すものか!」

「──そうか。それが、お前たちの答えか」

 わかってはいたが、それでも少しの落胆と共に、覚悟を決めた。

 白黒の対の籠手──世界級(ワールドアイテム)である【強欲と無欲】を装備してから、百時間に一度しか使えないスキルを発動した。

 

「《あらゆる生ある者の目指すところは死である(The goal of all life is death)》」 

 

 モモンガの背に、巨大な時計が浮かぶ。──絶対の死へのタイムリミットを刻む、時計が。

 

「魔法詠唱者か!」

「ええい、何をする気かしらんが、先に殺してしまえばいい!」

 見た目でわかりやすく()()()()を示すスキルに、ビーストマンたちが猛攻を仕掛けてくる。

 しかし、殆どの攻撃は高さに阻まれて届かないし、届いた攻撃も、モモンガの持つスキルで無効化された。

 ただ、針が進む音を背に聞きながら、モモンガは言葉を紡ぐ。

「──生きるために異種族を狩っているだけのお前たちに、私としては特に恨みも怒りもない」

 正直に言えば、自身の同族(同じ人間)を平気で()()()にしていた“八本指”の方が、よほど悍ましく、許し難かった。

 ルイには惨くて見せられなかった資料も、モモンガとヘロヘロは全て目を通している。──違法娼館の女性たち、麻薬の被害者たち、その悲惨な末路も知った。

 だからこそ、ごく自然に皆殺しに(一掃)する覚悟を決めていたし──ルイの手前でそれをなしにした後も、一息に殺してやらない分、むしろ()()()()()()()()()()を執行すると決めた。

 トブの大森林の奥に作った収容所では、ひたすらに無為で疲労だけを覚える作業をさせる。睡眠時間は4時間。食事は日に二食、死なない最低限だけを出す。

 それを倦んで脱走した罪人は()()()()()()()()()()()()()()()()()と、周囲に棲むモンスターたちに告げてある。──特に強者らしい“六腕”とやらはニューロニストたちに引き渡してあるので、トブの大森林の魔獣の囲いを越えられるような罪人はいない。

 やりたくもないことを延々強いられ、逃げれば圧倒的な暴力でもって殺される──これまで彼らが、他者に強いてきたことの再現だ。

 そんな“八本指”に対してとは違い、嫌悪も怒りもないこのビーストマンたちを、それでもモモンガが殺すのは、モモンガが守るナザリックのために必要な犠牲だからだ。

 ──生きるために、何かを狩らねばならないのは、彼らもモモンガも同じなのだ。

「──故に、お前たちには、せめて苦痛のない死を」

 

 かちん、と針が最後の一秒を刻んだ。

 

「──《嘆きの妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンジー)》」

 

 そうして──絶対の死をもたらす悲鳴が、響き渡った。

 

 ──周囲から淡い光が立ち上り、はめた籠手へと吸い込まれていく。

 その経験値(いのち)を糧に、モモンガは超位魔法を発動した。

「《星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)》──女王ドラウディロンの“タレント”を、私に譲渡せよ」

 とくと願いは叶えられ、未知の力が身の内に宿ったのを、モモンガは自覚する。──しかし、これ自体は、嬉しいが一種のボーナスでしかない。

 これで、()()()()()()()()()()()()──これが、一番大事なのだ。

(あとは、この辺りにわかりやすい進入禁止のラインを設けて、見張りのアンデッドを配置して……これで、五年後以降は、定期的に()()()が確保できる)

 ふう、と一つ息を吐いた。

 ──正直、当初想定したほど【巻物(スクロール)】は消耗していない。

 だが、《ユグドラシル》の羊皮紙を材料に《こちら》の製法で【巻物(スクロール)】を作ると、高位魔法の【巻物(スクロール)】もユグドラシル金貨の消費なしで量産できる。

 そして、高位魔法の【巻物(スクロール)】は、【エクスチェンジボックス】でそれなりに良い値がつく。

 例の灌木で育てた羊の皮が、《ユグドラシル》の羊の皮と同等となるかは、まだ試行期間が短すぎて結果が出ていない(羊が育ってない)が──うまく行けば()()()()()()()()()()()()()が確保できるのだ。

(……ナザリックを維持するには、どうしたってユグドラシル金貨が要る)

 ナザリックのありとあらゆるギミックは、ユグドラシル金貨でもって維持されているのだから。

 宝物殿には莫大な量のユグドラシル金貨が蓄えられてはいるが──それでも、無限ではない。補充せずに使い続ければ、いつかはなくなってしまう。

 それが遙か未来のことであろうと、モモンガ自身を含め、ナザリックの住人の大半が、寿命をもたず半永久的に在り続ける者たちなのだから──その()()()は、必ずぶち当たる問題なのだ。

(余裕のある今の内から、色々やっておかないと)

 

 ──扶養家族の多い()()()()は、とかく大変なのである。




引きこもるにしたって、収入はいるんや……って話。

ちなみに、最初モモンガさんはコキュをお供を頼んだのですが、コキュがまだナザリックからお出かけしてないマーレを気遣って、交代を申し出たのです。
ぶっちゃけお出かけの内容がアレなので、子連れ(マーレ)に大分抵抗のあったモモンガさんですが、内容聞いても全然怯まず、むしろお目々キラキラでお供したいオーラ全開のマーレの視線に負けました。
そこ負けちゃいけないとこの気もしますがね。
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