ついに誤字どころか改行バグまでやらかした筆者です。本当に、いつもご指摘のお手間をかけて申し訳ない……感謝雨あられ!
【前回のあらすじ】
ニグン「神はタレントと羊を対価に貴国を救う」
ドラウディロン「タレントいじれる奴の提案とか怖くて蹴れんわ」
モモンガ「出稼ぎ成功!」
「……その、パンドラさんとデート、してみたいです……」
可愛いらしい妻の願いに、パンドラズ・アクターは無言で顔を覆って頭が床に着く勢いで仰け反った。
──ニニャへ姉を返した対価の“タレント”【魔法適正】は、【
その成功と同時に、【
ならば呪いの装備もどうにかできるかもと思い至ったモモンガが、二つ目の願いを使用し──【
ルイのものとなった【魔法適正】は、魔法の修得にかかる時間が半分になる“タレント”という話だったが、《ユグドラシル》風にいうならば
ナザリック内の自動POPモンスターと、ナザリック勢が召喚したモンスターを経験値元にしたレベリングで、ルイはあっという間に
ルイ自身はナザリック内でのデートでかまわなかったようなのだが、言われたパンドラズ・アクターや、他の面々の気がそれでは済まなかったのである。──ぶっちゃけ、ナザリック内でのデートならいつでもできるし。
至高の方々は、ルイの可愛いお願いに悶絶しつつ、外出許可を出し──デートの邪魔にならず、かつ安全を確実にする隠密護衛を選別しだした。
パンドラズ・アクターは、外部情報担当のデミウルゴスに協力を仰いでまで、デート先を真剣に検討した。──結果、パンドラズ・アクターのデミウルゴスへの劣等感が若干薄れ、親しくなるというおまけもあった。
レベルアップしたことで着れる装備が増えたルイを、意気揚々と高性能な装備で着飾らせるメイドたち。──それに合わせるという名目で、パンドラズ・アクターも着せかえ人形にされた。
近隣で一番情勢が安定しており、娯楽を含めた文明水準が高いという理由で、デート先は帝国に決定。
高位装備で着飾ることになってしまったため、悪目立ちしないようにと認識阻害系の魔法もかけた上で、パンドラズ・アクターはルイをデートに連れ出したのである。
デート自体は非常に有意義なものとなった。
帝国の名物でもあるらしい闘技場は、ルイの趣味に合わないので見送られたが、魔法を含めた文化開発に尽力しているお国柄だけあって、それ以外にも観光名所は多々ある。
単純な品質だけなら確実にナザリックの物の方が上だが、コストパフォーマンスを押さえた上で一定以上のクオリティを維持している店が多く、街をぶらつくだけでも楽しめる。
特に市場は掘り出し物も多く、
ただ、終始幸せそうなルイの姿に、パンドラズ・アクターは何度か奇妙な衝動を覚え──それが現在の外装である“
パンドラズ・アクター内の紳士と狼の対決は、紳士に軍配が上がったので、デートは日暮れと共に健全に終わったのだが──帰還のため、人気のない転移ポイント探している途中、ちょっとしたアクシデントがあった。
角から飛び出してきた少女と、ルイがぶつかりそうになったのだ。
パンドラズ・アクターが手助けする間もなく、ルイの優れた反射神経は見事に少女を回避したが、ぶつかりそうになったことに驚いたらしい少女が派手に尻餅をつく。
「──だ、大丈夫ですか!? ……ああっ、泣いてる!?」
少女の様子をうかがったルイが、焦った声を上げた。
「ぶつけたところが痛いんですか!? あっ、足挫いちゃったとか!?」
「──ち、ちが……これは、違うの……」
おろおろしだすルイに、尻餅をついたまま少女が首を振る。
確かに、転んで泣き出したと言うには、少女の顔は随分と泣きはらした後のように見える。
こちらとの衝突未遂が原因でないなら、別段気にかけてやる義理もないが──
(……ここで放り出したら、確実にルイ殿が気に病みますし)
お人好しな妻のために、少々お節介を焼くことにした。
「──袖触れ合うも多生の縁。よろしければお話をうかがいますよ、お嬢さん」
そうして、ほんの少し口が軽くなる
──転んだ少女は、アルシェと名乗った。
彼女が泣いていた理由は、家族──というか、両親の素行らしい。
(──没落貴族が借金で放蕩三昧……その借金を長女が必死に働いて返している、か)
何というか──傾いた商いを娘の婚姻でどうにかしようとしていたルイの親に通じるものがあり、大分不快である。
「……妹さんたちだけ連れて、家を出るべきでしょうね。おそらく、ご両親は改心できないでしょう。同じことを、何度でも繰り返すかと」
その言葉に、アルシェはただ俯く。
「……ご両親を見限れない気持ちはわからないでもないですが──このままだと、妹さんたちまで首が回らなくなりますよ? ……下手をすれば、借金のカタに売られるかもしれない」
「まさか、そこまでは……!」
「──貴女が身を粉にして働いたお金で、平然と放蕩しているのに? 本当に、“そこまではしない”と言い切れますか?」
パンドラズ・アクターの言葉に、アルシェはその可能性を否定しきれなくなったのか、蒼褪めて黙り込んだ。
「……私からアドバイスできることはこれだけです。貴女と妹さんだけでも助かる道が出来たなら、ご両親を切り捨ててでも飛びつきなさい。──では、失礼」
へたりこんだままの少女をそのままに、ルイの背を押してその場を後にする。
後ろ髪を引かれるように少女を気にする妻へ、パンドラズ・アクターは優しくささやいた。
「──大丈夫ですよ。いまや、この地には“慈悲深き神”がいますから」
はっとした様子でこちらを見てから、ルイはじわじわと安堵したように笑みを取り戻した。
フールーダ・パラダインは、夢の中で“神”と邂逅した。
少し前に王国に現れたという、対価と引き替えに奇跡を起こす“神”だ。つい先日、竜王国でもそれらしい奇跡が確認されている。
その“神”の住処となったらしい森に調査魔法をかけても全て弾かれていたこともあり、向こうからの不意の接触にフールーダは不審を抱いた。
“神”は、ある姉妹の保護を対価として、今のフールーダには使えないだろう高位の魔法を実践して見せる、と告げた。
なぜ奇跡でもって直接その姉妹を救わないのか、と問えば、既に実の親から搾取されている彼女たちから対価は取りたくない、との答えが返る。
(──なるほど、慈悲深い性質というのは本当らしい……対価なしには願いを叶えられないという制約もあるのか)
とりあえずはその魔法を見せてもらってからだ、と告げたフールーダに、“神”は「では二日後の昼、カッツェ平野の北側で」とだけ告げて消えた。
約束の日、フールーダたちの目の前で、カッツェ平野の四分の一のエリアから霧とアンデッドが消え、麦が青々と茂る穀倉地に変化した。
まさに“神”の所行を見せつけられたフールーダは、あらゆる賛美を“神”に捧げながら、速攻で例の姉妹の保護に動いた。
ちなみに「余所の国に戦争をふっかけない間は、この土地における安全と豊穣を約束する」と提案された若き帝王は、形容し難い凄まじい表情でしばし沈黙した後、血反吐を吐くような声で了承を告げていた。
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帝国寄りのカッツェ平野の一部が、実り豊かな穀倉地帯に!
Q.何で帝国は王国に戦争しかけるの?
A.王国が豊かな土地だから(あと麻薬で迷惑してる)
なら、豊かな土地があれば戦争の必要はないよね!(麻薬の心配はもうないし)という親切心から来る理屈。
でもね、こんなヤベェ魔法見せた後の提案は、どれだけ利と理にかなってても、脅迫としか感じられないんだよなぁ……
<おまけのデート光景>
屋台で買い食い
パンドラ「あ、こっちも美味しいですよ。一口どうぞ」
ルイ(真っ赤になりつつも、おずおずと口をつける)
パンドラ「ん゛っ!?」(紳士VS狼)
パンドラの中の狼はルイにしか反応しません。正確には“好感度極大の異性認定者”のみが対象で、それに当てはまるのがルイだけなのです。
パンドラにとって女性扱いと異性扱いは似て非なるものです。女性に気を遣うのと、異性として意識するのは別物ということです。