申し訳ない……申し訳ない……
【前回のあらすじ】
ルイ「カンスト祝いにデートしたいです」
パンドラ(心中で紳士と狼がファイッ)
フールーダ「神の御技フゥー↑!!!」
アルシェ「師匠が保護者になった」
ジル「はは、戦なしで豊かな土地が手に入った。隣にヤバいの棲んでるがな!」
トブの大森林の北にある巨大湖のほとり。そこに住まうリザードマンたちの各部族を、訪う者があった。
半人半蛇の魔物たち、大森林において“三大”と呼ばれる魔蛇の配下である。
配下たちは、お前たちの縄張りを侵す意志はない、忠告しにきただけだ、と前おいてから告げた。
「もはや大森林の支配者は“三大”にあらず。“三大”のうち、我らの主と森の賢王は、新たな支配者の元に下った。東の巨人は不興を買って行方知れずとなった。いずれ、お前たちの下にも彼の方の使者が来るだろう。お前たちの行く末に興味はないが、怒りがこちらに飛び火するのは御免被る。彼の方々の不興を買わぬよう、努々気をつけよ」
そう、言うだけ言って去っていく蛇の配下。
“三大”を下すほどの存在など、想像を絶する脅威である。各部族毎に分かれていたリザードマンたちは、危機感から再び団結することとなり──その過程で、部族を越えた番が成立したりもした。
そうして、魔蛇の配下が来てから半月ほど後、果たして
紅い衣をまとった悪魔と、人間のように見える男女。悪魔と女の態度からして、男が一同の上位者のようだった。
「どうもこんにちは、隣に引っ越してきた者です。お隣さんになったからには一度ちゃんと挨拶しておこうと思って来ましたが、別に君たちや君たちの縄張りをどうこうする気はないので、ご安心を」
いっそ拍子抜けするほど穏和な態度で告げる男に、リザードマンたちは戸惑った。
「──お前ら、本当に“三大”を下した支配者の使いなのか? あんまり強そうに見えないが」
リザードマン内で有数の腕利きであり、同時にちょっと考えたらずな戦士が、うっかりそんなことをもらしてしまう。
途端、悪魔と女が恐ろしい殺気を放ち──男は愉快そうに笑いだした。
「確かに、純粋な強さなら、“三大”を訪ねたコキュートスやシャルティアの方が上だろうなぁ。──でも」
言葉半ばで、男の姿が
「……私でも、お前よりは強いぞ?」
──瞬く間に人間の男から
失言をした戦士が、「俺の命でもって詫びる! どうか、仲間たちには手を出さないでくれ!」と平服して叫べば、怪物は再び笑いながら人間の姿に戻る。
「謝ってくれたから許すよ。こっちが【擬態】して実力を隠してたせいもあるしね。──ほら、二人も。そんなカッカしないの、落ち着いて」
そう言って、まだ殺気立っている悪魔と女をなだめるが、
「──下等生物が貴方様の【擬態】を見抜けないのは致し方ありませんが、我が創造主を──至高のお方を、“使い”扱いなどと!」
「えっ、怒ってるのはそこなの!?」
女の言葉に、怪物は人間の顔で目をむいた。
「……いや、でも、ナザリックのトップはモ……ギルド長でしょう。私もその部下で、“使い”でもいいのでは?」
そんな怪物の言葉に、悪魔が異を唱える。
「確かに、彼の方が至高の41人の偉大なる長であるのは、紛れもない事実にございます。しかし、至高の41人はすべからく我らが主。だとすればやはり、我らシモベと同等にくくっての扱いは不敬かと」
「いや、そんなの初見で見破れとか無理に決まってんじゃん! 許したげて!」
──漆黒の怪物は、
図らずも知れてしまったそれらの事実によって、リザードマンたちが
──しかし、近い将来、
帝国の四騎士の紅一点、レイナース・ロックブルズには悲願があった。
自らの顔半分を醜く変貌させた呪い──それを解くことである。
カッツェ平野の一角を一変させた“神”の御技──それを皇帝の側で直視した彼女が、解呪を渇望して“神”へと声を上げたのは、ごく当然のことと言えた。
『──対価は、呪いを受けてから貴女が培ってきた強さです。よろしいですか?』
「構いませんわ!」
男女も老若も判然としない声の問いに、何の迷いもなく即答した。
途端、暖かな光が全身を包み──彼女の悲願は、驚くほど呆気なく叶えられてしまった。
──歓喜する彼女はまだ知らない。
四騎士の一人に数えられるほどの力は失われ、帰るべき生家ももはやない。
──居場所のない
王国のエ・ランテルに住まう薬師の孫、ンフィーレア・バレアレは“
【あらゆるマジックアイテムを使用可能】という希有なものだが、本人としてはそんな異能より、薬師としての才能の方が欲しかった。
祖母の──否、全ての薬師の悲願である、“神の血”と呼ばれる劣化しない深紅のポーション。いつか、それを自分の手で再現したい。
そんな願いが天に届いたのか、ある夜、不思議な夢を見た。
「──決して貴方の家族以外に見せず、手放さず、研究成果を外にもらさぬと約束するならば、貴方へ“神の血”と呼ばれるポーションを授けましょう」
そうして差し出された、深紅の液体が湛えられた小瓶。──差し出す者の姿は恐ろしく不明瞭なのに、ソレだけはいやに鮮明にンフィーレアの目に映った。
「──あなたは……対価と引き替えに奇跡を起こすという“神”ですか……?」
王女の願いに応え、一晩で“八本指”を王都から一掃した“異邦の神”──その噂は、エ・ランテルにも届いていた。
そして、この街で活動している冒険者の下に行方知れずだった姉が忽然と現れ──その代わりのように冒険者が“タレント”を失っていたという話も聞いた。
「ええ、この地ではそう呼ばれていますね」
その返答に、差し出された物の真贋は疑うべくもなくなった。──“神”ならば、“神の血”だって用意できるだろう。
「まず、貴方の“タレント”を対価に十本。研究成果を対価として捧げることで、一年ごとに五本ずつ。──どうでしょうか?」
「それでいいです!」
望むべくもない好条件に、反射的に頷いていた。
──そうして、彼は“神の血”を手に入れた。
その翌日から、驚喜する祖母と研究に明け暮れる日々が始まる。
──研究に夢中になっている内に、密かに想いを寄せていた少女へ別の男が急接近して、思いっきり慌てることになるのは、また別の話。
クレマンティーヌの中には、ずっとくすぶっている劣等感があった。
自身の歪んだ感性と殺人衝動を全てそのせいにする気はないが、それと無縁ではないだろうという確信も持っていた。
──まあ、何にせよ、そのどれもが過去の話だ。
自分が“新たに降臨した神の遣い”として現れたことに、絶句している法国の面々を、クレマンティーヌは驚くほど静かな心地で見つめる。
「──この瞳……この首は、間違いなく、エルフの狂王……!」
「確かに、こやつ一人に狩れる首ではない……本当に“神”に仕えているのか、クレマンティーヌ」
「──だから、そう言ってるじゃん」
あの神々を知った今、どいつもこいつも、取るに足りない塵芥だった。──かつて、あれほど羨望していた兄でさえ。
そして、神の庭での修練で、こいつらよりは遙か高みに至ったと言える自分ですら──神々からすれば、足元を這う蟻程度しかない。
(……でも、私が弱かろうが、強かろうが、あの
こちらの文字を学びたいと願った彼女の教師役に自分が選ばれたのは、単に同性だったからだろう。──
彼女は、どんな些細な知識の教授でも、目を輝かせて「すごい」と認めてくれた。
純粋な強さでは、あっという間に彼女の方が遙か高みにいってしまったのに、それで彼女がクレマンティーヌを見下すことは一切なかった。
──そんな彼女の存在は、クレマンティーヌの中にあった空虚を、少しずつ埋めてくれている。
(──けど、あの娘はお人好しすぎるから)
いくら強くなったって、本質的に戦うことに向いていない。
──だから、間違っても彼女が戦わなくてすむように、根回しするのだ。
「……イカレたトップが消えたんだから、エルフとの戦争もおしまいに出来るでしょ。──あと、奴隷制度もどうにかした方がいいよ。神サマ、あれ、好きじゃないみたいだし」
──実際、奴隷の話をした時、
「先に言っとくけど、今度の神サマ、当の神も、従属神も、ほぼほぼみーんな異形種だからね。人間を特別贔屓してくれるなんて思わない方がいいよ? 周辺国の奇跡は、『着いた場所の近くに棲んでる種族が困ってる。情報収集のついでに、まあ助けてやるか』くらいのノリだからね」
縋るように、高位神官が口を開く。
「──それでも、慈悲を下さる程度には、理性的な方々なのだな?」
「まあ、“八欲王”みたいに我欲で暴れ回るタイプじゃない──っていうか、無辜の民を苦しめるような振る舞いは、神の意向で固く禁じられてるくらいだし。大分理性的で慈悲深いとは思うよ」
でも、だからこそ、と言葉を続ける。
「法国は、神サマによく思われてない」
「──な、何故だ!? 我らは、人類の為に──」
「神サマがこっち来て最初に見たのが、法国の囮部隊が無辜の村焼いてるとこだったからだよ」
見てて面白いくらい、一同の顔から血の気が引いた。
「陽光聖典から事情も聞いたみたいだけど、全然納得いってないみたい。『“人類のため”というなら、無辜の民を虐殺してまでガゼフとやらを殺すより、まず“八本指”やら腐敗貴族やらを排除するべきでは?』だってさ。──ごもっともだよね~!」
けらけら笑ってやれば、神からの不興を受け止めきれなかったのか、何人かが卒倒して倒れた。
「神サマを法国に迎えたいなら、まず、その辺の不信感をどうにかするよう努力しなよ。──まあ、まずはエルフとの関係改善と、奴隷制度の撤廃から頑張れば?」
「──待て!」
言いたいことだけ言って、踵を返したクレマンティーヌの背に、兄が制止の声を投げる。
(──あ、そうだ)
兄の声など無視していいが、一つ用事を忘れていたと気がついた。
「あ、これ、返すわ」
ぽいっと放ったソレを受け取った兄が、震える声で叫ぶ。
「──【叡者の額冠】っ……!? や、やはりお前が──何故だ!」
血がにじむような、悔しげな声だった。
「何故、お前のような罪人が、神に仕えることを許される!」
「──罪人だからだよ」
ぽかん、と表情が抜け落ちた兄の間抜け面は、思い出したらしばらく笑いの種にできそうなくらい傑作だった。
そうしてクレマンティーヌは、人生で最も慈悲深い笑みを浮かべて、告げる。
「優しい神サマは、親にも兄にも愛されなかった可哀想な子に、御許で罪をあがなうチャンスをくれたんだよ。──じゃあね、
──己の過去との、決別の言葉を。
ヘロヘロ「忙しいデミウルゴスの息抜きのつもりだったのに、どうしてこうなった」
パンドラ「やっぱり解呪するとカースドナイトのレベルは消えますか」
モモンガ「ンフィー君のタレントはヘロヘロさんにあげよう! 人化の弱体化がキツイし」
シャルティア「エルフの狂王を狩ったのも、小娘の送り迎えも私でありんす」
多分、次が最終話です。