パンドラ「しゃべれる! 動ける!」
ルイ「パンドラさんの推理力がすごい」
ヘロヘロ「やばい、ユグドラシルですらないかも」
モモンガ「皆、変わらず仕えてくれる?」
NPC一同「もちろんです!!!
(──とりあえず、NPCは従ってくれるみたいで、よかった)
まずはナザリック内に異変がないか調べるため、それぞれの持ち場へと戻っていくシモベ達を見送って、モモンガはこっそりと安堵の息を吐いた。
この人数比で謀反など起こされたら、
しかし、懸念は杞憂で終わり、NPCたちは忠誠心の塊のようだった。──いっそ質量さえ感じる敬意のこもった眼差しと声は、演技でどうこうできる域を越えている。
(逆に忠義が重い気もするけど……いや、逆らわれるよりずっといいはずだ、きっと)
そう、モモンガは自分に言い聞かせる。
残ったのは、モモンガ達プレイヤー三人、
モモンガは、まずはパンドラズ・アクターを宝物殿に送ってやらねば、いや、いっそ移動手段である【リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン】を渡しておくか、などと思考を巡らせ──
「……これからどうしましょう、モモンガさん。現状調査はNPC達に任せればいいにしても、リアルへの帰還方法は、おそらく私達自身でないとどうにもなりませんよね?」
そのヘロヘロの言葉に虚を突かれ──
(──バカか、俺は)
自分はいい。もはや家族もなく、リアルに未練もない。
しかし、仕事に情熱を注いでいたヘロヘロは?
何より──確実に未成年であるルイを、親元に帰さない訳には行かないだろう。
しかし、そう思った矢先に、当のルイが悲鳴のような声で叫んだ。
「──帰りたくないです!!!」
彼女のこんなせっぱ詰まった声を聞くのは初めてで、モモンガはぎょっとする。
「ル、ルイさん?」
「……何か、事情が?」
ヘロヘロの問いに、ルイは一瞬、自身を手のひらに乗せたパンドラズ・アクターの顔を見て、次にモモンガを見てから、言いにくそうにそろそろと口を開いた。
「……来月、16歳になったら、結婚させられる予定だったんです……」
──ツッコミどころが満載過ぎる発言に、モモンガとヘロヘロは思わず固まった。
「──
固まった男共の代わりというように、この場にいる唯一の同性であるアルベドが問いかければ、ルイは小さく頷く。
「父が、会社を傾けてしまって……援助を受けるための縁づけらしいんです。……これまで不自由なく育ててもらったんですから、わがままを言える立場でないのはわかってるんですけど……」
そこでもこらえきれないというような様子で、ルイは両手で顔を覆い、
「……でも、やっぱり無理です~! 私より年上の娘さんが二人もいるお家に後妻として入るなんて、修羅場の予感しかないじゃないですかぁ~っ!」
「──はぁっ!?」
ひっくり返った声が、モモンガの喉から飛び出した。
驚きの余りにか、縦にみょいんと伸び上がったヘロヘロが、
「ちょっと待って! それだと相手、ルイさんの親より年上なんじゃないの!?」
「……はい」
ルイに肯定され、モモンガもヘロヘロも、かけるべき言葉を失う。
(……ようは、親より年上のおっさんと政略結婚させられる直前だったわけだ……)
全力で帰還を拒むのも、当然と言える。
「──ルイ殿」
皆が黙り込んでしまった気まずい沈黙を、これまで黙っていた者が破った。
「貴女は、既に私の妻です。──例えそれが、貴女を父上の庇護下に迎えるための方便だったとしても、私にとって、貴女は守るべき妻なのです」
自身の手のひらの上で嘆く小妖精に、軍服のシモベは真摯な声を紡ぐ。
「貴女の居場所は、ここです。──貴女を不幸にするような場所になど、決して帰しはしない」
「……パンドラさん……」
彼の顔を見上げて、ルイは感極まったような声を上げる。
「──ええ、パンドラズ・アクターの言う通り。このナザリックこそが、貴女の家。娘をむざむざ不幸に追い込む親など、忘れてしまいなさい。これからはモモンガ様と私が、貴女の両親よ」
ルイの小さな頭を指先で撫でて、アルベドが言う。
「……アルベドさん……」
「あら、さっきはお義母様と呼んでくれたでしょう?」
「──お義母様!」
嬉しそうにアルベドの指先に抱きつくルイ。
何だかすっかり大団円みたいな空気になっているが──
(──ああぁ~~~っ! そうだ、アルベド、俺の后になっちゃってるんだったぁ~~~っ!)
残念ながら、モモンガの脳内はしっちゃかめっちゃかだった。
(っていうか、ロリコン親爺からは逃げられたけど、代わりにハニワ顔に嫁入りって、それでいいのルイさん!? ──いや、種族違うし、それ以上にサイズ違いすぎるから、どうこうなる心配が要らないのか)
一旦は落ち着くものの、すぐに疑問と懸念が沸き上がってしまう。
(いや、でも、ドッペルゲンガーなんだから、外装合わせたらデキちゃう?──いや、パンドラは紳士だし、合意がない限りはナニかしたりはしないはず……っていうか、ドッペルゲンガーって、性欲あるのか……?)
ドッペルゲンガーという種族について、必死に記憶を手繰る。
(おぼろげだけど、初期設定はマネキンみたいなナニもついてないような体型だった気がする……ってことは、ドッペルゲンガーは、本来無性……? 設定に明記しなければ、性別はなく、性欲もない……?)
と、そこまで考えて、モモンガは頭を抱えた。
(──いや、“息子”で“夫”って明記しちゃってるじゃん! これ、性別に反映されちゃってない!?)
と、挙動不審なモモンガのようすに気づいたのか、ヘロヘロが訝しげな声をかけてきた。
「……モモンガさん、どうしました?」
「えっ!? ……い、いや……アルベドと、結婚しちゃったんだなぁ……って……」
まさか息子のシモ事情を懸念していたとは言えず、そう答えれば、ヘロヘロは納得したらしい。
「まあ、さっきの発言からして、アルベドの方は満更でもなさそうですし、モモンガさんだって嫌な訳ではないんでしょう? なら、いいんじゃないですか?」
「は、ははは……そうですね……タブラさんには、悪い気もしますけど……」
「いや、あの人だって、モモンガさん相手なら文句ないですよ、きっと」
そう言って笑ってから、ヘロヘロはNPC達にかまわれているルイを振り返り、
「──帰る方法を探す必要は、なさそうですね」
「……いいんですか?」
言外に、自分に帰る気はないというヘロヘロに、モモンガは驚いた。
「仕事は好きでしたけど、あのままだと、きっと文字通り
「アッ、ハイ」
明らかに後半が主だとわかる調子で言い切られて、モモンガはそうとしか返せなかった。
「……っていうか、俺に帰る気がないのは、お見通しだったんですね」
「誰よりもナザリックを愛してるギルド長が、命を持ったNPC達を見捨てられるとは思えませんでしたから」
笑みを含んだ声で言い切られて、モモンガは気恥ずかしくて頭を掻く。
「──まあ、何にせよ、リアルへの帰還方法の模索はなしってことで!」
自分の気を紛らわすようにわざと大きな声で言えば、聞いたルイ達が嬉しそうなようすを見せた。
(──今日からは、このナザリックが俺たちの家だ)
先ほどアルベドが言った言葉を、自分の決意としてモモンガは繰り返した。
──ちなみに、息子のムスコ事情は、あとで一緒に大浴場を利用した時に確認して、こっそり胸をなで下ろした。
ドッペルゲンガーは擬態しない限り無性、という捏造設定。
これ、シモネタ……? いや、シモの話題だからシモネタか。でも、R指定いる……?
などと悩みつつ、結局誰かに怒られるのが怖くて、Rー15タグを追加したチキンは私です。
アンチ・ヘイトタグも、同じような理由でつけてます。私ってホントチキン。