カルネ村「無傷で済みました!」
ガゼフ「モモン殿とアクト殿には感謝してもしきれない」
ニグン「え、私の出番は?」
拠点内を総浚いして、異変も侵入者もないことを確認したナザリックは、次いで外の調査に乗り出した。
墳墓の出入り口から窺う分だけでも、異変の前と比べて外の様子は大きく様変わりしている。──ヘロヘロがほのめかしたとおり、
まず、
そうして、眷属が持ち帰った情報、そして不自然なロスト状況も判断材料とし、重要地点と思われる場所へ、今度は判断力の優れた知能の高いシモベを送ったり、何重にも防衛対策をした上での魔法探査を行った。
そうして、異変が起きてからおよそ60時間後には、ナザリックを中心とした半径100キロに関しては、ほぼ正確な情報を入手していた。
ナザリックの隠蔽も行った。幸い、周辺は何もない草原で、最寄りの人里からでも10キロ近い距離がある。魔法による地形操作でナザリックの表層部分を覆い隠し、周辺にもいくつか同じような丘を作って目立たぬようにした。
そうして、万全の下準備を整えた上で、現地の知的生命体との接触を試みることになった。
現状、ナザリックにおられる至高の二人は、この接触を重要視し、少なくとも自分たちのいずれか一人は出向くべきとの意向を示した。
しかし、それには問題があった。近隣にいる主な知的生命体が人間種なのだ。
モモンガは<
ヘロヘロは【擬態】という人化できるスキルを修得しているが、それによって人化している間は、スライムとしての種族特性と種族スキルが使えなくなってしまう。
ヘロヘロのビルドは戦力の大半を種族特性と種族スキルに依存しているため、大幅な弱体化を強いられてしまうのだ。事前調査で、現地戦力が著しく低いのは判明しているが、それでも少々不安である。
モモンガは人間と同じ骨格──というか、人間の骨格そのものの身体なので、少なくとも装備で全身を覆い隠せば、人になりすませなくもない。だが、それはそれで凄まじく怪しい不審者の姿になってしまう。
思い悩む二人に解決策を提示したのは、<
妖精系の種族スキルに【
この手のスキルは基本、効果対象が修得者本人だけである。だが、ルイがナザリックに持ち込んだマジックアイテムを使用すれば、他者への
【最も尊きもの】というそのレアアイテムは、《ユグドラシル》の斜陽が始まった頃に
見た目は、二つのペンダント。片方には【鉛の心臓】、もう片方には【凍えた燕】のチャームがついている。
使用方法としては、まず、スキルを譲渡する方が【鉛の心臓】を装備し、受け取る側が【凍えた燕】を装備する。そうして、譲渡したいスキルを一つ、【鉛の心臓】に登録する。
登録されたスキルは【鉛の心臓】の装備者には使用不可となる代わり、種族・職業・レベルなどのあらゆる制限を無視した上で、【凍えた燕】の装備者が修得したものとして扱われるようになるのだ。
【鉛の心臓】と【凍えた燕】のどちらか、もしくは両方が装備から外された時点でこの効果は失われるが、そうしない限り、この効果はずっと持続される。
種族特性を失った上での戦力的にはモモンガの方が優れているということで、モモンガが【
供には、人の
そうして、よりスムーズに人間種と交流できるようなアンダーカバーを設定し、更に現地人同士の争いを少し利用させてもらう形で、異形の父子は人里デビューを果たしたのだ。
「──モモンガ様とパンドラズ・アクターは、うまく人間の群に入り込めたようだよ」
「まあ、あなたが手を回した上に、モモンガ様が直接出向かれてるんだものん、失敗なんてありえないわねん。──ただ、それに比べて、こちらの不手際がなさけないのねん」
──薄暗い空間に、二つの声が響く。
聞く者全てを魅了し、支配するような男の声と、特徴的な口調で話す、性別の判別が難しいダミ声。
「あれは君のミスではないと、モモンガ様もヘロヘロ様もおっしゃっていたじゃないか。それに、結果として
「あれは、モモンガ様のご威光に救われただけなのねん……それに、あの尋問阻止の呪い、あれはどうにかする手段を確立しないと、また同じような相手に当たったら困っちゃうのよん」
「それは……そうだね。一度死なせた上で蘇生すれば、呪いは解除できるようだけど……本人の意思で
「……死んだと自覚して、更にその前の状況を覚えているから、蘇生を拒むのだとしたらん……案外、何もわからないうちに、死んだと自覚もできないような形で死なせたら、その後の蘇生も拒まれないかも知れないわねん」
「──ああ、ただ眠りから起きるような感覚で、蘇生を受け入れるかもしれない、と? ……なかなか面白い着眼点だね、試してみる価値がありそうだ」
「でも、肝心の実験体は、どこから用意するのかしらん? 下等種であろうと無辜の民には手を出すな、とのお達しよねん?」
「それなら心配いらないよ。モモンガ様たちが向かわれた都市に妙な団体がいたから調べていたんだけど、どうも邪教の集まりらしくてね。都市を丸ごと巻き込むような儀式を企んでいるようなんだ」
「ああ、そんな奴らなら、
「そういうことさ」
ふふふ、と二人分の笑い声。
──陰惨な拷問室には不釣り合いなそれは、男がその場を立ち去るまで、朗らかに響き続けていた。
<小妖精>のカルマ値は完全中立
モモンガ「
ヘロヘロ「ですね。少なくとも、何の罪もない人を死なせるのは避けましょうか」
でも、無辜の村を焼き討ちするような連中はボッシュート
こっそりナザリックにボッシュートされた陽光聖典
他より装備がいいので、重要情報があるかも知れないと、モモンガとヘロヘロ立ち会いの元で尋問しようとして、
陽光聖典「(モモンガを見て)ス、スルシャーナ様!?」
モモンガ(えっ、誰?)
ニグン「あなたのお望みとあらば何でもお話いたします!」(でも三回答えて死亡)
モモンガ「えっ、まだ聞きたいことあるんだけど」(ペス呼んで蘇生)
陽光聖典「だ、大儀式が必要な蘇生をこんなに容易く……!? 間違いない、彼らは神と従属神!!」
プレイヤーとNPCだからね、まあ、間違っちゃいないね
同様にボッシュートされた囮部隊
デミ「モモンガ様の人里デビューの演出に、協力してもらうよ」
囮部隊「ハイ」
残念だが、君たちに拒否権はない
<おまけの捏造設定>
【
(フレーバーテキスト:妖精が人間の中に紛れ込む為のスキル)
対象:自身
効果:人間種の姿(セカンド・アバター)に変身する。
変身中、種族特性はその人間種に準じた扱いとなるが、種族スキルは使用できる。
【最も尊きもの】
(フレーバーテキスト:これは、自身を削って他者に施す、献身の心そのものである)
セットで一つのアイテムとして機能する二つのペンダント。片方には【鉛の心臓】、もう片方には【凍えた燕】を模したチャームがついている。
自身が拾得しているの魔法・スキルを、他者に“渡せる”アクセサリー。
使用法:魔法・スキルを渡したい相手に【凍えた燕】を装備させた状態で、【鉛の心臓】の装備者が自身の修得している魔法・スキルの中から任意の一つを選択する。
効果:選択された魔法・スキルは、【鉛の心臓】の装備者には使用不可となる代わり、種族・職業・レベルなどのあらゆる制限を無視した上で、【凍えた燕】の装備者が修得したものとして扱われるようになる。
【鉛の心臓】と【凍えた燕】のどちらか、もしくは両方が装備から外された時点で、この効果は失われる。
(AOG衰退後に有料ガチャへ追加されたレアアイテム。一緒に遊んでくれる人がいないと意味のないアイテムなので、当てたはいいけど、ソロだったルイには宝の持ち腐れだった)