フェアリー・エフェクト(完結)   作:ヒョロヒョロ

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【前回のあらすじ】
モモン「ご飯がおいしい! そして、おやすみなさい!」


ヘロヘロ、思案する

「よかった、モモンガさん、眠れたんだな。……昨日徹夜したって聞いて、心配してたんだ」

 パンドラズ・アクターからの《伝言(メッセージ)》に、ヘロヘロは安堵の笑みを浮かべた。

『はい。それと、食に関しては、出された食事だけではなく、たまたま見かけた屋台の軽食を自ら望まれるなど、かなり楽しんでおられるようです。ヘロヘロ様のおっしゃっていた“無自覚ブラック状態”は脱されたかと』

「あー、よかった……あのまんまだとモモンガさん、自覚もないうちにストレスためこんで、おかしくなりかねなかったからね」

『ヘロヘロ様、父上のお心の健康を慮ってのご助言、本当にありがとうございました。私では、身体(うつわ)()()()()()()()()ことによるご負担など、想像もできませんでした』

「まあ、こればっかりは状況が特殊すぎて、未経験者に察しろっていう方が無茶だし……俺だって、【擬態】使って人化するまで無自覚だったくらいだからね」

 それから通常の報告事項を幾つか告げて、パンドラズ・アクターからの伝言(メッセージ)は終了した。

(──とりあえず、ヤバイ状態は抜けたみたいでよかった)

 ヘロヘロは、ふう、と大きく息をついて、机におかれた紅茶のカップを()()()()()()()()()()

「──うん、美味しい。ソリュシャンは、紅茶を淹れるのも上手だな」

「お口に合ったようで幸いですわ」

 ヘロヘロの()()()()()()を見て、ソリュシャンも笑みを返してくれる。

(やっぱ、飲食は人型の方がしやすいし、味もはっきりわかるな。……スライム形態だと、味覚も大ざっぱになってるのか)

 【擬態】のスキルを発動した状態のヘロヘロは、うっかり苦い気持ちのままに渋面を浮かべそうになるのを、ソリュシャンの手前、何とかこらえた。

(……ポーカーフェイスは、スライムの方が楽だけど……あちらの姿で過ごし続けるのは、リスクが高すぎる)

 ──ヘロヘロがそのリスクに気づけたのは、()()()()()()()()()()がきっかけだった。

 ナザリックの情報網に引っかかった、王国の開拓村を焼いて回る兵たちと、それと連動して動いているらしい別働隊。──もう一つ、別の武装集団も見つかったが、それは先の兵たちへの追っ手のようである。

 事情はよくわからないが、無力な村人が一方的に虐殺されているという事実に、ルイが恐怖と嫌悪感を見せたため、「これを放っておくのは、未成年(ルイ)の精神衛生上よくない」と、モモンガとヘロヘロは事態への介入を決めた。

 とりあえず、追っ手の一団は虐殺を止めようとしているようなので放っておくことにして、加害者側の二部隊をナザリックに魔法でご招待した。

 彼らは、何故かモモンガを「スルシャーナ様」と呼び、異様なほどこちらに協力的な姿勢を見せ──しかし、質問に答えていたニグンとかいう隊長は、途中で唐突に事切れた。

 それは、情報漏洩阻止のためにかけられていた呪いの効果だったようだが──ナザリック勢の蘇生魔法でもってあっさりと復活させられ、一度死んだことで呪いからも解放されたニグンは、実に様々な情報をナザリックにもたらしてくれた。

 その後、陽光聖典とかいうその一団は、そのままナザリックの傘下に下る事になったのだが──それはさておき。

 尋問会の解散後に自室に戻ったヘロヘロは、メイドが気を利かせて用意してくれたお茶を飲むために、【擬態】を使用した。スライム形態でも飲食は出来るが、人型の方がカップを持ちやすいからだ。

 

 その途端──ついさっきまでの自身の思考、その異様さを自覚して、愕然となったのだ。

 

 罪のない村人が虐殺されていることにも、目の前でニグンが死んだことにも、()()()()()()()()()()()

 彼らの死を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()自分に気がついて、ヘロヘロは凄まじい恐怖を覚えた。

 自身の異変の理由は、考えるまでもなくすぐに思い至った。──()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 ヘロヘロのアバター(からだ)は、ありとあらゆるものを捕食対象とする<古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)>だ。しかも、(カルマ)がマイナスに振り切っている。その価値観に準じてしまえば、何の思い入れもない異種族(にんげん)など、それこそそこらの羽虫と同等なのだ。

 そうと気づいて、次いでヘロヘロが抱いた恐怖は、『自身が知らぬ間に変異している』という生理的なものではなく、もっと具体的な被害を想定した恐れだった。

 このままでは、自分はいつか必ず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という、確信めいた恐れだ。

 ヘロヘロは、自身が一種嗜虐的な、他人の不幸を喜ぶような一面を有していると自覚している。──でなければ、他プレイヤーの高価な装備を溶かして悦ぶようなプレイングはしない。

 ただ、これまでは、その嗜虐性を仮想現実(ゲーム)内だけに留め、現実に持ち出さないだけの良識も、ちゃんと持ち合わせていた。

 だが、その良識は()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 このまま、(カルマ)極悪の捕食者になりきってしまえば、そんな人間としての感性など、きっと失われてしまう。

 歯止めを失った嗜虐性は、今の自分が大事にしているものにも向けられてしまうかもしれない──そう、恐れたのだ。

 それからヘロヘロは、戦闘力を必要としない(敵のいない)ナザリック内では、出来うる限り【擬態】を使用し続けることにした。──種族特性が無効になるということは、逆をいえば、種族特性の影響から逃れられるということだからだ。

 しかし、同様に(カルマ)極悪の異形種であるモモンガは、種族属性の影響から逃れる術を持っていない。

 なお悪いことに、モモンガは<死の支配者(オーバーロード)>というアンデッド──()()()()()()()()()()()()()()()()()存在である。

 種族的に、睡眠や飲食が不要を通り越して不能なことも拙い。──睡眠と食事は、生物の基本。その基本を奪われて、人間性をまともに保てるとは思えなかった。

 実際、これまでの彼の言動を省みるに、その特性は既に、彼本来の人格を蝕み始めている。

 どうにかしなければ、しかし、どうすれば──焦るヘロヘロの前に、その解決策は、あっさり空から降ってきた。

 ルイの【妖精の輪(チェンジ・リング)】と、【最も尊きもの】──これらによって、モモンガは人化が可能となり、種族特性からも解放されたのだ。

 代わりに、ルイが人化の手段を失ってしまうことになったが──彼女は、ヘロヘロやモモンガのように、人間性を欠落させている様子がない。モモンガに貸し出す前に彼女自身も人化していたが、妖精形態と比べて言動が変わった様子もなかった。

 おそらくこれは、<小妖精(フェアリー)>の種族設定が幸いしている。

 まず、(カルマ)完全中立(±0)。飲食と睡眠も不要ではあるが、不能ではない。メイドたちから貰ったお菓子をかじったり、パンドラズ・アクターのポケットで居眠りしていることもあった。

 そして、フレーバーテキスト曰く【真の意味で自由な種族。生と死、善と悪、過去と未来、あらゆる事象を等価とする。その行動を決定づけるものは、興味を引かれるか否か、ただそれだけである】とある。

 生死や善悪に頓着しない、というのは危ういようにも聞こえるが、種族的な価値観が完全にフラットであるおかげで、ルイ生来の価値観と人間性が、そのまま変わらずに継続されているのだろう。

 そもそも、彼女がまともな人間の感性で()()()()()してくれたから、ヘロヘロたちはそれを看過せず──人としての一線を、越えずに済んだといえる。

(──というか、俺がここにいるのも、ルイさんのおかげのようなものだしな)

 ルイがモモンガと出会わず、ヘロヘロがあの日早々にログアウトしてしまっていたなら──きっと、モモンガは、一人でこの転移に巻き込まれていた。

 問題を察せる者(ヘロヘロ)も、問題の解決者(ルイ)もいない状態で──

(……うん、縁起でもないIF(もしも)はやめよう)

 ヘロヘロとルイは、モモンガと一緒にナザリックにいて、モモンガは人間らしく生を謳歌できている。

 ──それが、現状なのだから。

 

 




ルイ「(かじりかけのクッキーを抱えて)うぅ、美味しいけど食べきれないです……」
パンドラ「あ、じゃあ残りは私がいただきます」(ぱくっ)
モモンガ「!? パ、パンドラぁ!?」
パンドラ「? どうかいたしましたか?」
ルイ「?」(きょとん)
モモンガ「………………何でもない」
ナチュラルに間接キスして、それをお互いに意識もしてない

ヘロヘロ「あれ? ルイさんは?」
パンドラ(しーっ、というジェスチャー)
ルイ(パンドラのポケットから顔だけ出して、すやぁ)
ヘロヘロ(よくあの姿勢で眠れるなぁ……)

パンドラ「本当に、お願いしますよ?」
シズ(こくこく)
パンドラ「間違っても、握り潰さないで下さいよ!?」
シズ「そんな酷いこと、しない……」
パンドラ「……割としょっちゅう、エクレア殿のことを潰す勢いで抱きしめてますよね?」
シズ「それは……エクレアだから……」
エクレア「!?」
パンドラのおでかけ中は、シズがルイの警護担当(立候補)

圧倒的平和!!!
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