フェアリー・エフェクト(完結)   作:ヒョロヒョロ

8 / 22
【前回のあらすじ】
ヘロヘロ「気をつけないとメンタルが人間卒業しちゃう……」
(なお、肉体的には既に卒業してる模様)


ルイ、回顧する

「わあ、すごい! 葉っぱ、すごい増えてますね!」

「は、はい、が、頑張りましたっ」

 ナザリック地下第6層。その階層守護者の片割れであるマーレと、護衛担当である戦闘メイドのシズと一緒に、ルイはある植物を見に来ていた。

 楕円形の薄い葉を、青々と茂らせた灌木だ。

「あんな枝から、ここまで大きくするなんて、マーレくんはすごいですね!」

「そ、そんな……最初の枝を、【巻物(スクロール)】から()()してくれたのは、ルイさんじゃないですか。その方が、ずっと、すごいと思います」

「つまり、二人とも、すごい」

 シズに端的な言葉で褒められ、二人は揃って、照れたように笑う。

 一同がわいわいと眺める、この植物は何かといえば──端的に言えば、【巻物(スクロール)】の原材料の一つである。

 ナザリックの総力をあげた情報収集により、()()が《ユグドラシル》ともまた別の異世界であると判明してから、まず真っ先に懸念されたのが消耗品の補給である。

 【巻物(スクロール)】という、事前に魔法を込めておけるアイテムがある。それを消費することで、同系統の魔法詠唱者ならその魔法を覚えていなくても発動させられるという、便利なアイテムだ。

 羊皮紙にユグドラシル硬貨を溶かし、そこに描いた魔法陣へと魔法をこめることで作成するのだが──《こちら》で入手できる羊皮紙だと、《ユグドラシル》と同じ製法で作成しても、第一位階魔法までしか込められないのだという。

 現地(こちら)の人の話では、《こちら》にも【巻物(スクロール)】はあるが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という認識であるらしい。

 一体何が違うのだろう、とルイは疑問に思い──《ユグドラシル》産と《こちら》産の【巻物(スクロール)】を一枚ずつ融通してもらい、()()してみる事にしたのだ。

 <小妖精(フェアリー)>の種族スキル、【妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)】。

 このスキルを発動した状態で3回触れた装備やアイテムは、原材料の状態にまで()()できるのだ。──一回使うと、10秒のクールタイムが発生するので、一つ分解するのに、20秒以上かかってしまうが。

 もたもたとスキルをかけた結果、《ユグドラシル》産は羊皮紙と硬貨とデータクリスタル、《こちら》産は羊皮紙とデータクリスタルに分解された。

 製法を考えれば、硬貨という違いが出るのは当然である。羊皮紙をそれぞれ鑑定してみるも、どちらも『羊の皮を加工したもの』としか出ない。

 ダメかぁ、と落胆しかけたルイの脳裏に、かつて祖父から聞いた豆知識がよぎった。

 ──曰く、『生物は、例え同じ種であっても、食性によって変化を得る場合がある』。

 もしかしてと思って、ルイは再びスキルを用い、()()()()()()()()()()()()()()()

 結果、《こちら》産は羊の生皮と一握りの草に、《ユグドラシル》産は羊の生皮と()()()()()に分解されたのだ。

 違いが出たことに大喜びして、その結果をモモンガたちに報告すれば、「大手柄ですよ、ルイさん!」と胴上げ(?)された。

 次いで、「こちらのスクロールからも、データクリスタルが抽出できるんですか!?」とパンドラズ・アクターが詰め寄ってきて、その迫力に、ルイは初めて彼をちょっと怖いと思った。──すぐ謝ってもらえたが。

 ルイが《ユグドラシル》産巻物から抽出した“枝”は森神官(ドルイド)であるマーレへと託され、彼はその“枝”を挿し木にし、見事根付かせることに成功した、という訳だ。

 この灌木を餌として育てた羊の皮が、【巻物(スクロール)】の材料に足り得るものとなれば、【巻物(スクロール)】の供給問題は一気に解決に向かうだろう。

(──お祖父ちゃんの話が、こんなところで役に立つとは思わなかったなぁ……)

 今は亡きルイの祖父は、実に博識な人だった。

 話好きな人でもあり、時間さえあればルイに様々なことを語り聞かせてくれたものだ。

 しかし、一方で、幼かった当時のルイには、全く理解できない趣向の持ち主でもあった。

 ──いわゆる怪奇譚の類を、こよなく愛していたのだ。

 口癖のように「恐ろしさの中には美しさが秘められている、突き抜けた美しさは畏れに繋がるのだから」と、ことあるごとに言っていた。

 愉快な話、ためになる話を語り聞かせてくれたと思ったら、不意をつくように()()()を織り交ぜてくる祖父に、どうしてこんな意地悪をするのかと、ルイは泣きながら抗議したものだ。

 ──今ならわかる。ただ、祖父は自分の好きなものを、ルイにも理解してほしかっただけなのだ。

 でも、ルイの中で、怪奇譚がただ()()()()でしかないうちに、祖父は逝ってしまった。

 それから、祖父の言葉の意味を、祖父が愛したものを理解できなかったというわだかまりは、ずっとルイの心の片隅に残っていた。

 中学に上がって、お化けを怖がるような時期を通り過ぎてからは、反動のようにその手の話を読みあさるようになった。

 けれど、怖くはないが、特に魅力も感じられない。──ルイ自身に自覚はなかったが、幼少期に不意打ちで怖い話を聞かされまくった経験で、怖い話限定で想像力をセーブする癖が身についてしまっていたのだ。

 その枷を吹っ飛ばしたのが──ナザリックの映像だった。

 【怪奇】などのワードで検索をかけていた時に、たまたま引っかかった動画。サムネイルに映った純白の氷世界が綺麗に見えて、再生ボタンを押して、

 

 ──()()だ、と天啓のように理解した。

 

 “恐ろしさの中の美しさ”というのは、こういうことなのだ、と。

 ダイレクトな視覚情報は、ルイが身につけてしまっていた癖をすっ飛ばして、()()を理解させた。

 祖父からの宿題がやっと解けたという嬉しさも相俟って、ルイは感動のまま、全く経験のないRPGへと飛び込んだ。

 ルイの望みは、()()()()()()()()()()()()()()()という、ただそれだけ。

 『敵とか全部避けたら早く着けるはず』という、ゲーム素人丸出しの思考結果、回避と隠密に優れた<悪戯妖精(ピクシー)>──妖精系統の初期種族をアバターに選んだ。

 回避特化のキャラなど、普通のゲーム初心者には無謀でしかなかったが、幸いなことにルイには天性のゲームセンスがあったらしい。

 というか、とにかく動体視力と反射神経がよかったようだ。

 ひたすら避けて逃げて、倒せそうだったら倒してレベルを上げて。ひたすらにナザリックがある場所を目指して──その途中で、何がフラグだったのか、レベル30で<フェアリー>への進化が可能になった。

 より回避と隠密に特化できるようだったので、ルイは迷わず種族を変更し──そうして、最終的にはソロでナザリックまでたどり着き、モモンガと出会った。

 

 ──そうして、彼と、彼の仲間と、彼の拠点と一緒に、今、異世界にいる。

 

 それによってルイは、幸福な未来が見えない、望まぬ結婚から救われたのだ。

 

(──お祖父ちゃんが、助けてくれたのかも)

 ルイには、そんな風にさえ思える。

(……いっぱい、おみやげ話を集めよう。いつか、お祖父ちゃんに逢うまでに)

 ──異世界の話なんてしたら、「羨ましい!」と言われてしまうかもしれないけど。

 そんな風に思って、ルイはくすりと笑った。

 

 ――<フェアリー>が種族的に不老であり、寿命という概念がないことにルイが気づくのは、だいぶ先の話。

 




“同じ生き物なのに性能が違う”っていう理由で、真っ先に思ったのが「食べ物の差じゃね?」でした。
有毒のフグも無毒の餌を与えて育てれば無毒になるし、餌にしているものの差で色の変わるエビもいるし。
そんな妄想。
この植物の特性は、消化の関係で“草食動物”にしか効果を及ぼさないので、デミウルゴス牧場ルートは回避されました。たぶん。

あと、私には“羊皮紙”を“ようしひ”と打ち間違える悪癖があるようです。
何でや。なんで何回やっても学習せんのや。

<おまけ>
妖精の悪戯(ノック・ノック・ノック)
(フレーバーテキスト:あらゆるモノのカタチを、過去まで巻き戻すスキル)
効果条件:スキルを発動した状態で、対象の装備・アイテムに3回接触する。
(ただし、1回接触すると一旦スキルの発動が切れ、10秒のクールタイムが発生するので、連続3タッチは不可能である)
・ユグドラシル時代の効果
装備・アイテムを、原材料の状態に分解する。
分解した装備・アイテムに魔法や特殊能力が込められていた場合、その効果はデータクリスタルとして抽出される。
・転移世界での効果
ユグドラシル時代同様の効果の他に、フレーバーテキスト通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことも可能になった。
(作中でルイが羊皮紙を皮と餌の植物に分離したのは、こっちの効果。ルイが“餌”を強く意識していたからできたことでもある)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。