それでは、どうぞ!
学園艦娘は、“鎮守府の裏方等”に回ることが多い。出撃するのは基本的に遠征で、大洗、リーナ、知波単の三人でローテーションして資源を稼ぎ、保有しきれない分は大本営に送ることで、向こうに
さて、そんな三人がどのような一日を送っているのか。それを見ていくとしよう。
早朝。総員起こしを担当する長門が駆逐艦寮へと歩いていると、空母寮から音楽が聞こえてきた。
何事かと思い向かってみると、先日着任したばかりの知波単がラジオ体操をしていた。最後の深呼吸を終えると、偶然にも長門と目が合う。
「おや、長門殿! おはようございます!」
「おはよう、知波単。起きるのが早いんだな」
「えぇ! “校風”と言いますか、早くに目が覚めまして」
「私はこれから駆逐艦のみんなを起こしに向かうが、一緒にどうだ?」
「よろしいのですか? 喜んで!!」
長門からの誘いに、朝日よりも眩しい笑顔で受け入れる知波単。そんな彼女に微笑むと、二人で向かった。
そして、廊下に立った瞬間……
「総員、き――――」
「総員起床ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「~~~~っ!?」
その大声に、長門は思わず耳を抑えた。それでもビリビリと頭に響く。余りの音量に飛び起きた娘がいるのか、各部屋からドタバタと慌しい音が聞こえる有様だ。
『うわぁぁ!? 何、何!?』
『襲撃!? 敵が来たの!?』
その後、点呼の為に駆逐艦娘たちが並んだが、全員の髪がボサボサしていた。その慌てようが分かる光景だった。
朝食の時間。身支度を整えた艦娘たちは、それぞれ朝食を摂っていた。
「はい、どうぞ~。いっぱい食べてくださいね~」
「ありがとうなのです、大洗さん!」
にこやかに朝食セットを手渡す大洗。今日は白いご飯に納豆、アジの開きに野菜たっぷりの味噌汁だ。当然、空母や戦艦等、“大食らいの娘たち”は大盛りだ。知波単の盆の白飯も山盛りだ。
そして意外なことに、リーナの盆も和食だったのだ。彼女は今、納豆をかき混ぜている。
「意外です。リーナさんは洋食派かと思ってました」
「今日の最初の遠征リーダーは私ですわ。しっかり食べておかないと保ちませんもの」
「納豆に抵抗が無いのも、やっぱり根は日本艦だからですか?」
「えぇ。さて、このくらいで良いわね」
納豆をご飯に掛けると、お淑やかに食べるリーナ。食事でも優雅さは崩さないようだ。
別の席では、赤城と、彼女に似た顔の知波単が大食い対決をしていた。
「もぐもぐ……! お代わりを所望します!」
「大洗殿! 銀シャリと納豆の追加を!」
「はいは~い! あ、加賀さんと長門さんもいかがです?」
「え、えぇ、頂きます……」
「頂こう……」
二人は大洗を見て戸惑っている。何せ、
尚、大食い対決が知波単の圧勝だったのは、完全な余談である。
昼間。大洗がいつものように様々な場所を掃除してる頃。リーナは暁型四姉妹を連れて遠征に来ていた。
「さぁ、皆さん。資源は回収しましたわ。帰りましょう」
「リ、リーナさん! 後ろ後ろ!」
「敵駆逐艦から攻撃受けてるのです!」
「……あら? さっきからの砲撃の音はそのせいだったのね?」
「気付いて無かったんだ……」
一方、リーナを背後から攻撃していたイ級、ロ級、ハ級は戸惑っていた。先程から“6隻で攻撃してる”というのに、
そして、彼女たちが帰還の為にこちらへと進路を取ったのが、“彼等の運の尽き”だった。リーナが先頭に立っている。彼女が美しく手を振り下ろした。
「第六駆逐隊、砲撃開始」
その瞬間、暁たち4人の砲撃が放たれ、イ級たちの視界が爆発や水飛沫で遮られる。
動きが止まったその瞬間――――――
「あら、ごめんあそばせ」
旗艦を務めていたハ級が速度を上げていたリーナにぶつかった途端、ハ級は大きく吹き飛び、そのまま轟沈した。
そもそも学園艦は、あの“戦艦『大和』を超える巨体の持ち主”である。そんな艦が“速度を出した状態”で駆逐艦とぶつかろうものなら、どちらの被害が大きいかは容易に想像できるだろう。
((((学園艦の人たちとは、海でぶつからないようにしよう!))))
そう心に誓いながら、4人はリーナに尾いて行くのだった。
リーナたちが遠征から帰ってこようとしてる頃。鎮守府のグラウンドに大きな声が響いていた。
「どうしたぁ! ペースが落ちたぞ!」
「ひぃ、はぁ……! き、キツイ……!」
「足が壊れるっぽい~……!」
待機組の駆逐艦の何名かが、グラウンドで“体力作り”と称したランニングをしていた。先頭で声を掛けているのは知波単である。
だが、知波単の「限界を超えろ!」という言葉が放たれた瞬間から、ランニングは“地獄”と化した。
「望月ぃ! 大洗殿のアリクイ妖精さんに負けて良いのかぁ!?」
「それは、ヤダ……!」
「ならば足を動かせぇ!」
「うあぁぁぁぁ!」
ヤケクソになった望月は、とにかく足を動かして夕立を追い越した。
「夕立ぃ! ソロモンの悪夢はその程度かぁ!」
「く、苦しいっぽい~!」
「ならばいい言葉を送ってやるぅ!」
「ぽい!?」
「『根性ー!』」
「それは大洗さんのアヒル妖精さんの台詞っぽい~!」
夕立も、女として出してはいけない声を上げながらグラウンドを走る。
「己の限界を知り、乗り越えて強くなる! これぞ『成長突撃』なり! はっはっはっはっはっ!」
そして知波単自身も、己の限界までランニングを続けるのだった。
死屍累々となった駆逐艦たちを見た提督のカミナリが知波単に落とされる、一時間前のことである。
夜。空母寮の一室。そこで学園艦娘の三人が談笑していた。
「流石にやり過ぎですね~」
「えぇ。ちょっとスパルタが過ぎるわ」
「うぅ……。提督殿にもそう言われました……」
今日の出来事を話し合い、“提督からの説教”についてで肩を落とす知波単。そんな姿に苦笑する二人。
「では、明日は知波単さんの好きなものを作ってあげますね~」
「本当でありますか!? では卵焼きを所望であります! 味はしょっぱめで!」
「お待ちになって? 私は甘口が良いですわ」
「聖グロ殿はいつもティータイムでお茶請けを食べてるではありませんか。それこそ甘いものを!」
「だ・か・ら! リーナと呼んでと何度言ったらお分かりになるのかしら!? それにお菓子の甘さと卵焼きの甘さは別物でしてよ!」
「まぁまぁ二人とも~。両方共用意しますから~」
「……まぁ、大洗殿がそう仰るのなら」
「異論はありませんわね……」
「さぁ、もう寝ましょう~。そろそろ消灯時間です~」
部屋の電気が消されると、三人は眠り始めるのだった。
ある日。陸の上に立つ人間と向かい合うように、二人の艦娘が海上に立っていた。
「そういう訳で。我々を保護して欲しいのだ!」
「お願いしま~す!」
頭を下げる二人の艦娘に、その人間……
「あの~、保護は出来ますが……。ここは“横須賀”じゃなくて“佐世保”です……」
「「……え?」」
二人の……アンツィオとポーラの間の抜けた声は、波の音に消えていった。
さて、次回からアンツィオ姐さんのお話です。佐世保に来てしまった2人はどうなるのでしょうか?
それでは、次回もお楽しみに!