というわけで、どうぞ!
佐世保鎮守府の執務室。提督は、ある人物に電話をかけていた。学園艦娘の運用について相談するためである。
「では、アンツィオさんには遠征を任せればいいんですか?」
≪あぁ。学園艦ってのは元はデカかったらしいから、とんでもない量の資源持ってきてくれるぞ≫
「アドバイスありがとうございます、先輩!」
≪おいおい。もう士官学校時代じゃないんだ。横須賀提督で良いよ≫
電話の相手は、横須賀提督である。彼は佐世保提督の先輩にあたる人物だ。
士官学校時代。みなが善人という訳ではなく、自分より年下の子供に成績で劣ることを妬み、何かと絡んでくる輩もいた。そんなときによく助けてくれたのが、横須賀提督だった。その後も彼は、数々の大規模作戦で優秀な戦果をあげており、今でも佐世保提督にとって憧れの人物である。
≪あ、そうそう。そのアンツィオって娘は、もう佐世保に所属してるんだよな?≫
「はい。書類も制作しましたが……」
≪建造の時は、出来るだけ現場に立ち会っていた方が良いぞ≫
「え? それはどういう……」
≪学園艦娘が所属する鎮守府は、建造でも学園艦娘が出来る可能性がある。俺の所もそうだった≫
「わ、分かりました」
≪そんじゃあ、そろそろ切るぞ。……あ、そうだ。これも言い忘れるところだった≫
「はい、何でしょう?」
≪近いうちに、そっちに行くから≫
「……えっ!? 先輩がですか!? もしもし? もしもし!? ……切られた」
まさかの先輩来訪に驚く佐世保提督。大急ぎで艦娘たちに集合をかけ、説明するのだった。
そういう訳でさっそく遠征任務を任されたアンツィオ。だが初めてということなので、旗艦は阿武隈が担当することになった。
「もうそろそろ目的地です!」
「了解だ! いやー、初めての出撃だからワクワクするな!」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。建造された時には、司令官と呼ばれる男は居なかったからな」
「アンツィオさん……」
阿武隈は思う。本来指揮するはずだった者もおらず、道にも迷い、苦労してるというのになぜ笑っていられるのだろうか。どうして共に来た海外艦の世話なども焼けるのだろうか。
その一瞬の思考が、仇となった。
「っ! 阿武隈、敵艦だぞ! あれが深海棲艦というやつか!」
「え!? しまった!」
アンツィオの大声でハッと我に返ると、駆逐ロ級が砲を向けていた。
「お、応戦を……!」
しかし、ロ級の方が早かった。放たれる砲弾。動けなくなる阿武隈。しかし―――――
「っ!」
「……え?」
突然アンツィオが阿武隈の前に立ち、砲撃を受け止めた。そして、腕に装着されている甲板を水平にすると、その上に小さな戦車たちが現れる。
「タンケッテ隊、一斉射撃!」
豆戦車カルロ・ベローチェが一斉に機銃を撃つ。大したダメージにはなってないものの、ロ級は鬱陶しいのか身じろぎをする。
「今だ阿武隈! 回り込んで撃て!」
「は、はいっ!」
すぐにロ級の後ろへと回り込み、砲撃を放つ阿武隈。急所に当たったのか、ロ級は一発で沈んでいった。
「ふぅ~。咄嗟に戦車を出してみたけど、上手くいくもんだな」
「ア、アンツィオさん!」
「おぉ、阿武隈! 大丈夫だったか?」
「それはこちらの台詞です! ……ごめんなさい! 旗艦なのに、私……」
「気にするな! ミスは誰にだってあるだろ? あ、いや、でも戦場だとミスは命取りか……」
「ダメダメですね、私……」
「…………」
すると、アンツィオは阿武隈の頬を両手で挟み、むにむにとこねくり回す。
「ムモモモモ! 何するんですか~!」
「終わったことはクヨクヨするな! 私はこの通り無傷だしな!」
「あれ? 直撃していたはずなのに……」
「音と爆発は凄かったが、案外大したことなかったぞ?」
「さすが学園艦……」
そして夕方。回収した資源を持って帰投する途中、阿武隈は尋ねた。
「あの!」
「ん? どうした?」
「どうしてアンツィオさんは、そこまで他人を思えるんですか? 別世界に来て、ポーラさん以外誰もいなくて……。さっきの時だってそうです。何でそこまで笑っていられるんですか?」
夕日が、困ったような笑みを照らしていた。海上を進みながら、彼女は答える。
「私に限らず、学園艦の連中はみんなそうだと思うぞ? だって……」
「だって?」
「学園艦にとっての幸せは、住んでいる人々が笑顔で暮らせることだからな! だから、誰かが笑ってるのが大好きなのさ!」
ニカッと眩しい笑みを見せるアンツィオ。その時、阿武隈はあることを理解した。
(そっか……。ポーラさんが姉さまって呼ぶのも、納得かも)
そして二人は、互いに笑顔で鎮守府へと戻っていった。
その頃、提督は工廠にいた。
(所属してる状態だと、学園艦が建造されることもある。そう先輩は言っていたけど……)
まだまだ新米の彼には、建造任務も課せられている。といっても、特定の艦娘を必ず建造しろという内容ではない。公表されてるレシピが正しいか。その研究に協力しているのだ。今ごろは、別の鎮守府でも同じレシピで建造してる者もいるだろう。もし成功例が多ければ、そのレシピが正しいということになるのだ。
すると、建造完了のタイマーがなる。プシューと空気が抜けるような音と共に、扉が開かれた。
「ハーイ! 学園艦『サンダース大学附属高校』、通称サンダースの参上よー!」
陽気な声と共に現れた艦娘。提督は聞き逃さなかった。『学園艦』という単語を。
「やっぱり、先輩の言ってた事は本当だったんだ……!」
佐世保提督、まさかの早期で学園艦2隻目である。
まさかの、アンツィオが着任した早々にサンダース着任です。
早すぎるかもしれませんが、あまりズルズルと引きずりすぎるのもどうかと思いまして……。
さて、一体どうなるのでしょうか。次回もお楽しみに!