それでは、どうぞ!
追記)潜水艦娘が強制されていた『遠征』をオリョクルだと思ってましたが、出撃だと指摘を受けたので修正しました。ご指摘ありがとうございました。
呉から帰還した横須賀提督。帰ってきて一日ゆっくりと休んだ後、いつも通りの業務にとりかかった。大洗は家事を担当し、リーナは遠征などで艦娘たちを率いて、知波単はトレーニングの教官として艦娘たちを鍛える。いつも通りの日々に戻った……はずだった。
ことは数分前。中将からの電話から始まった。
「はい、もしもし? 中将ですか。何かあったのですか?」
≪あー、横須賀提督くん。すまないが、また大本営に来てくれないか?≫
「……まさか、また学園艦娘が?」
軍用回線は使ってないため、普通に学園艦娘について話すことは出来る。しかし念のために小声で確認した。
≪そうなのだが……。今回はケースが違う≫
「……と、おっしゃいますと?」
≪……憲兵隊に拘束されたのだ≫
「何ですって!? 艦娘が拘束されたということは、つまり……」
≪うむ……。ある小さな鎮守府で建造されたらしいが、そこの提督へ、その……暴力を振るったらしくてな≫
「っ! 今すぐ行きます! 私が引き取ります!」
≪ま、待て横須賀提督くん! その艦娘は――――――≫
横須賀提督は中将の続きの言葉も聞かず、電話を切って急いで大本営行きの車を呼ぶ。途中ですれ違った大洗たち学園艦娘には、「ちょっと大本営に行ってくる」とだけ説明して、飛び出すように向かったのであった。
ここまで急ぐのも、理由がある。艦娘が提督に向かって過度な暴力を払った場合、憲兵隊に拘束され、最悪の場合、解体処分される恐れがあるのだ。
解体処分とは、人間でいえば処刑に等しい。といっても正確に言えば、艤装のみを解体する『艤装解体』と、それこそ艤装はおろか体すらも解体される『全解体』の二つだ。基本的に解体というと後者である。
前者はまだいい。艦娘としての力は失うものの、記憶も保たれたまま人間として生きられるのだから。現に中将や元帥の妻は、もとは艦娘であったが、今は艤装解体をして現役から退いているという。
だが後者は、記憶も、体も、すべてを失うのだ。大本営には、解体処分を請け負う施設と人員がいるが、その辞職率は海軍の中でトップである。なぜなら……解体を拒む艦娘の悲鳴や抵抗がトラウマとなり、精神的に病む者が多いからだ。
話を戻すが、もし学園艦娘が解体されるとマズいことになる。まず容易に想像できるのが、反学園艦娘派の発言力の増大。理由は言わずとも分かるだろう。
そしてもう一つは、やはり大洗たちのことだろう。もし大洗たちと面識のある学園艦だったとしたら? それこそ彼女たちは心に深い傷を残すだろう。パレードどころの話ではない。
きっと、何か理由があって提督に暴力を振るったのだ。そう考えて横須賀提督は大本営へ向かった。
大本営に到着すると、横須賀提督は車から急いで降り、中将のもとへと走った。だが、その走りはすぐに止まる。
「中……将?」
「おや、横須賀提督くん。よっぽど急いで来たのだね。この子が君が引き取る学園艦だ」
その女性は、金髪のロングヘアーで、青い騎兵隊のような服を着ていた。その左手にはピンク色の扇子のような物を持っている。
「学園艦『BC自由学園』よ~。この世界では私のモデルになった艦娘がまだ居ないらしいから、隊長の姿を取らせてもらってるの~。戦車道ではフランス戦車を使ってるわ~」
とてもおっとりとした雰囲気は、まるで大洗に似ている。だが大洗のおっとりが母親だとすれば、彼女のおっとりはお嬢様のような感じがした。
「ちゅ、中将。確か彼女は拘束されたのでは……?」
横須賀提督の言葉に、中将は呆れるようにため息をついた。
「その続きを言おうとしたときに、君は切ったじゃないか……。無事に釈放されたよ」
「そ、それは何故です?」
「フリーちゃん。話してくれたまえ」
「はい~」
あとでフリーちゃんとは何か聞いたところ、BC自由学園の『自由』の部分から取ったらしい。
フリーから話された内容は衝撃的なものだった。なんと彼女が建造された鎮守府は、典型的なブラック鎮守府だったのだ。俗に言う『オリョールクルージング』を超ハードスケジュールでこなすことを強制されている潜水艦娘、ロクな装備もしていないのに出撃させられて、失敗すると厳しく責め立てられる艦娘たち。それを見たフリーは、すぐさま『革命』を実行したという。
解体で脅されて怯えている艦娘たちを、秘書艦の立場を使ってドック(という名のお風呂)で傷を癒し、お菓子が好きな艦娘には、自分が作るのが得意なお菓子を振る舞って活力を与えた。元は日本艦であり、庶民の味覚も併せ持っていることが幸いし、栄養バランスの整った食事も与えた。
こうしてフリーの鎮守府はホワイト化しつつあったが、それを面白く感じないのは提督であった。何せ今まで自分に従っていた艦娘たちが、自分ではなくフリーに従うようになっていたのだから。
提督は、フリーに脅しをかけた。解体するぞと。だがフリーは言い返す。
『良いのかしら~? 他の子たちが怒って、あなたを襲うかも』
そのバカにしたような笑みに激怒した提督は、彼女を殴ろうとした。もちろんグーパンチである。
だが……
『提督~? 女性の顔を叩くのは感心しませんわ~。叩くとしてもこうじゃないと~』
バッシィィィィィン!という音が響くほどのビンタで返したのである。
―――予想外だったのは~、思ったよりも強くやっちゃって、提督さんが吹っ飛んじゃったの~。
あまりの威力に提督は一瞬呆然としたものの、すぐさま憲兵隊へ通報した。しかし、これが仇となった。
憲兵隊に拘束された後、フリーは事情を説明した。そして他の艦娘からも証言を得て、鎮守府内を捜索した。すると出るわ出るわ、今までのブラック運用の証拠が。
こうしてフリーは、『建造されたばかりで力加減が出来なかった。また暴力を振るわれそうになったために正当防衛である』として釈放され、逆に提督が逮捕されるという流れになったのである。
「中将さんには~、私が建造された鎮守府の子たちのアフターケアをお願いしました~」
「それに関しては、すでにわし達で、新しい提督を配属させることにした。まだ若くて初心者だから、あそこの艦娘たちは教育係として活躍してくれるだろう」
「それは安心しました~」
「横須賀提督くん。そういう訳だ。さすがに一度拘束された学園艦娘を戻すと、反対派の連中が何をしてくるか分からん。ここは彼女を引き取ってくれないかね?」
「分かりました。最後まで話を聞かなかったこともありますし、何より私自ら『引き取る』と言いましたので」
「うむ。よろしく頼んだぞ」
こうして、BC自由学園ことフリーは横須賀鎮守府着任となった。建造された鎮守府には、フリーが定期的に手紙を送るという。
横須賀鎮守府へ戻る前に、横須賀提督は尋ねた。
「そういえば、君がいたところはフランス艦娘が居なかったよな? 何で建造されたか分かるかな?」
その問いかけに「うーん……」と少し考えた後、彼女は微笑みながら言った。
「あの子たちは、心の奥では、元提督に対しての反抗心があったわ~。『革命を求める心』が、私を呼んだのかも~」
~おまけ~
夜。フリーの歓迎会も終えた横須賀提督は、執務室でウイスキー(水割り)を嗜んでいた。
「俺の所で4隻、佐世保で2隻。呉の所で新しく来た艦と、戦車だけだが別の学園艦の存在も示唆された。とにかく呉の所で2隻。合計8隻……」
静かに立ち上がり、窓辺に立つ。窓ガラスに映るその眼には、決意があった。
「……やるか」
横須賀提督は静かに呟いた。
というわけで、BC自由学園も参加しました! これで映像作品に出てる主な学園艦は出せたかな?
そして、いよいよ次回……! それではお楽しみに!