学園艦が鎮守府に着任しました   作:G大佐

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お気に入り登録者数、さ、300件越えってマジっすか……!? 本当にありがとうございます!

今回はサブタイトル通りですが、オカルト要素があります。

それでは、どうぞ!


深海棲艦の秘密

 夜。ツ級はゆっくりと語り始めた。

 

「まず始めに、深海棲艦には“二つのタイプ”が存在するんだ。通常個体か上位個体かの違いじゃねえ。()()の違いなんだ」

「性格……ですか?」

「あぁ」

 

 ツ級は、他の仲間たちの顔を伺う。全員が頷いた。

 

「人間の感情は、大きく分けて4つ……即ち『喜怒哀楽』があるのは知ってるよな?」

「勿論です」

「深海棲艦という存在は、その内の“怒”と“哀”から生まれた存在だ」

「え……」

「長い歴史の中の戦争で、どれだけの人間が海で死んでいったと思う? 軍艦と運命を共にした、空中戦で海に落とされた、敵艦へ特攻した……。それだけじゃねえ。海難事故での死亡者なんかも含めると、海には大量の屍がいるんだ。当然、魂って奴も水底にどんどん蓄積されていく。……となれば、“軍艦そのものの魂”なんてのも含まれるだろうな」

 

 つまり深海棲艦は、『感情から生まれた存在』だというのだ。その事を理解した瞬間、大洗はあることに気付く。

 

「そ、そんな……! そんな事って……!」

「もし人間に言えるなら、言ってやりてぇよ。『深海棲艦をこの世から消し去ることは―――――不可能だ』ってな」

 

 そう。この世の生き物が感情を持ち続ける限り、深海棲艦は生まれ続けるのだ。怒りや悲しみの感情を消すことなど、不可能である。

 

 深海棲艦との戦いは、永久に続くのだ。“感情”というものが存在し続ける限り……。

 

「さっき言った“二つのタイプ”ってのは、『怒りによって生まれた存在』と『悲しみによって生まれた存在』の事だ」

「……その違いを教えていただけますか」

 

 深海棲艦との戦いは永久に続くというショックはあるが、疑問は次々と出てくる。大洗は気を取り直してツ級の説明を聞いた。

 

「『怒りの深海棲艦』は、名前の通り『怒り』から生まれた存在だ。“なぜ死ななければならない”、“自分をこんな目に遭わせた存在が憎い”……。そう言った感情が主になっている。だから連中は人間や艦娘に攻撃するんだ。攻撃に見境がない理由は簡単だ。それは―――」

「“全てが憎いから”、ですか……」

「その通りだ。だが、怒りを共有するからか、『怒りの深海棲艦』同士で潰し合うことは無い。酷いときは統率者が現れて群れを成す。その統率者も怒り狂ってるって言うんだから、笑えるよな」

 

 ツ級はケラケラと笑うが、大洗からすれば笑い事ではない。統率者というのは、提督たちが言う“姫”や“鬼”の事だろう。上位個体とも言える彼女たちは、確かに人間の言葉を話すが、それでも人間たちに対して憎しみを持っている。一見すると冷静で、だが怒り狂っている。狂ってる者は、自分が狂ってる事を自覚していない。だから厄介なのだ。

 

「では、その『怒りの深海棲艦』から艦娘が生まれるという現象……“ドロップ”は、どういう事なのでしょうか」

「『怒りで我を忘れている』って言葉があるだろ? 連中はまさにそれだ。だが撃破されると、稀に『我に返る』奴がいる」

「我に返ったことで、艦娘となる……ですか」

 

 眠くなってきたのか、カ級やヲ級などは眠り始めている。他の深海棲艦たちも欠伸をし始めた。

 

「そして、あたし達は……『哀しみの深海棲艦』と言えば良いかな。“死にたくない”、“もっと生きたい”……。そう言う願望のようなものが主だよ。不思議なことに、艦娘や人間を見ても、襲う気は全く起こらないんだ。寧ろ話し掛けたい。でも……この姿だ。攻撃されるのが目に見えている」

「『哀しみの深海棲艦』は、貴女達だけなのですか? 沢山の魂が海に沈んでいるのなら、沢山生まれてもおかしくない筈です」

 

 するとツ級は、寂しさとも悔しさとも取れるように、拳をギリりと握りしめた。

 

「あたし達は戦う気なんて無い。むしろ仲間が欲しい。だから、『怒りの深海棲艦』にも話し掛けようとした。でも……連中にとっては、()()()()()()()()()らしい」

「そ、それって……!」

「……あたしにも、今いる皆の他に、仲間が居た。けど、皆攻撃されて沈んじまった……」

「そんな……」

「今集まっているのは、そういった出来事から逃げ続けた連中だ。時には、やむを得ず迎撃することもあった。たぶん、その他にも、『怒り』の連中と艦娘との戦いに巻き込まれて沈んだ奴も居る。あたしは見ていないけどな」

 

 こんなに悲しい事があるのだろうか。性格の違いから同族に攻撃され、人間や艦娘と仲良くなりたくても、その異形故に攻撃される。彼女たちの居場所は、どこにも無いのだ。

 

「……何だよお前、泣いてるのか?」

「当たりグスッ、前じゃないですか……! 貴女達は仲良くなりたかっただけなのに……グスッ、私たちは知らずに敵だと……!」

「……その涙は、姫様に流してやってくれ」

「え……?」

 

 膝の上で眠る少女を見る。安らかな寝顔だ。時々「お母さん」と呟いては、頬ずりしている。

 

「姫様もそうだった。この子は純粋だ。だから艦娘や同族に声を掛けようとした。だけど……」

「…………」

 

 二人は俯いた。こんなに小さな子まで、このような悲しい出来事を経験してきたのだと思うと、胸が痛くなった。

 

 そして、ある疑問が生まれた。では何故この子は自分のことを、『お母さん』と呼ぶのだろうか。

 

 深海棲艦は感情から生まれる。この子は『哀しみの深海棲艦』、すなわち“生きることへの願望”を元に生まれた存在。そして、自分を母と呼ぶ。

 

 その時、大洗の違和感はゆっくりと消えていった。

 

 

「あぁ、そっか……。この子は―――――――()()()なんだ」

 

 

 大洗を始めとする学園艦娘たちは、皆“老朽化”という運命によって解体され、そしてこの世界へ転生した存在である。

 解体するときに、彼女たちは心の奥底で、こう思っていたのだ。

 

―――――――消えたくない!

 

―――――――もっと一緒に居たい!

 

 それらの願いが、この世界の海へと渡り、そして目の前の少女を生み出したのだろう。

 

「姫様は、同族や艦娘から攻撃され続けて、とても悲しんでいた。その時に、たまたまお前さんが遠征へ出ていた所を遠くから見ていたんだ。その時に姫様が呟いたんだよ。『お母さん』ってな」

「そう、だったのね……」

「だけど、艦娘が居たから行けなかった。……だから、あたしがやることにしたのさ。……ごめんな。手荒な真似をしちまって」

「そんな事はありません。寧ろ私は、この子に謝らないといけないわ……」

 

 ゆっくりと頭を撫でると、少女の寝顔はホニャリと小さく笑った。

 

「気付いてあげられなくて、ごめんね……」

 

 それと同時に、大洗は思うのだった。「この子たちと一緒に、皆のもとで暮らせないだろうか」と。

 




読んでいただき、ありがとうございました。

文中にあった、「狂ってる者は自分が狂ってることを自覚していない」という一文ですが、こちらはフリーホラーゲームで有名な「Ib」にあった言葉を使っています。

さて、次回はどうなるのでしょうか。お楽しみに。

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