それでは、どうぞ。
対空棲姫のもとへ駆け付けた大洗たち。しかし、あともう少しと言うところで、
「な、何これ!?」
「まさか……バリアか!? 上位個体の中にはバリアを張る奴もいるとは聞いていたが……」
「ここまで一気に進化するなんて……」
アンツィオやリーナが分析をする中、大洗はバリアを何度も叩いた。
「姫ちゃん! 姫ちゃん! お願い、目を覚まして!」
「落ち着きなさい、大洗! あんたが冷静にならないと、姫も落ち着けないでしょ!」
「プラウダの言う通りだよ、大洗さん。まずはゆっくり深呼吸して?」
プラウダと継続に諭されてハッとした大洗は、ゆっくりと深呼吸をした。
「……ごめんなさい。取り乱しました」
「すぐに落ち着けたなら、何よりよ~。でも問題は~」
「バリアね……」
「あのバリアは音も遮断してるのか、私たちの声も聞こえていない。いや、怒りで周りが見えてないという言い方が正しいか……」
今でも対空棲姫は、怨嗟の叫び声を上げながら、対空砲を撃ち続けている。彼女の上空部分は対空砲を撃つためにバリアが張られていないが、それ以外の周囲は、砲撃はおろか音すらも遮断してしまうようだ。
「上から撃つなんてテクニックは持っていない……。このままでは彼女へ声を掛けることも出来ないぞ……」
「どうすれば……」
その時だった。知波単が一度バリアから離れたかと思うと、いきなりスピードを上げてバリアへと突っ込んでいった。
「吶 喊!!」
そして、そのバリアを拳で殴った。拳から血が流れる。
「ぐうぅぅっ!」
「知波単さん!? いったい何を!?」
「言っていたではありませんか! 『あの子は私たちから生まれた』と! ならば、私たちにとって娘や妹同然! 家族を救えなくて、何が学園艦か!」
すると、今度は黒森峰が拳でバリアを殴った。
「ぐっ! ……だが、姫の悲しみに比べたらこの程度の痛み、どうという事はない!」
そこへ、どんどんと学園艦娘たちが体当たりをしていく。
「ドゥーチェアターック!」
「プラウダの石頭、なめんじゃないわよ!」
「微力ながら、お手伝いするよ」
「とりゃあぁぁぁ!」
「そ~れっ!」
「大洗さんは、その手で彼女を抱きしめてあげなさい! バリアは私たちが!」
「皆さん……!」
さすがに学園艦8隻の体当たりを受けると、バリアにもヒビが入っていく。
「あともう一押しよ!」
「全員で戦車を展開しろ! ありったけの火力をぶつけるんだ!」
バリアから一度離れると、瞬時に甲板に戦車を展開していく。そしてここでも、知波単の強みが発揮された。
「特二式隊、展開せよ!」
彼女の足元には、水陸両用戦車『特二式内火艇』が展開されたのだ。
「ほぉ、便利だな……」
「これで火力増強なのは間違いなしだ!」
マウスにティーガー、KV-2にP40にシャーマンファイアフライ等、それぞれの学校から、トップクラスの火力を誇る戦車たちが展開されていく。
「全員展開したな? よし!」
『『『『撃てぇ!!』』』』
学園艦娘たちの戦車から放たれた砲撃は、バリアのヒビへ命中した。
そして……ガラスが割れるような音を立てて、バリアは消滅する。
「今だ、大洗!」
「早く姫ちゃんのもとへ!」
「目を覚ましてあげて!」
「皆さん、ありがとうございます!!」
大洗は、全速力で対空棲姫のもとへ向かった。
「アァァァァァァ! 落チロ! 落チロォォ!」
対空棲姫は空を見上げ、砲撃を放ち続けていた。圧倒的な弾幕に、戦闘機たちは成す術もなく撃ち落とされていく。だが、そこへ……
「姫ちゃん……」
彼女と距離が近くなった大洗が、ゆっくりとやって来た。
「辛かったよね……。悲しかったよね……」
「ウアァァァァァ!!」
大洗の言葉に、対空棲姫は耳を傾けない。少なくなった戦闘機に、トドメの砲撃を浴びせた。
「姫ちゃん……!」
そして……大洗は、対空棲姫をギュッと抱きしめた。
「ウ……ア……」
「姫ちゃん。こういう時はね、深呼吸をするの。ゆっくり息を吸って、ゆっくり吐いてみて?」
「……スー…………ハァー……」
「よーく見て? あそこにいる艦娘の人たちは、誰だか分かる?」
「……ツ級?」
「よく出来ました。それじゃあ、私の後ろにいるのは誰?」
「……お姉ちゃん。お母さんの、お友達……」
「それじゃあ、最後の問題。貴女を抱きしめているのは、誰?」
「…………お母さん!!」
その瞬間、先ほどまで暴れていた敵駆逐艦たちの目から光が失われ、ゆっくりと沈んでいく。
「イ級たちが……?」
「姫の憎しみが晴れたことで、こいつ等も体を保つことが出来なくなったんだろう」
そして、対空棲姫の武装も、音を立てて崩れた。
「お母さん! お母さん!」
「ごめんね、姫ちゃん! 心配かけさせちゃったね……!」
「私も、ごめんなさい……。いっぱい、酷いことしちゃった……」
「それじゃあ、お母さんとお相子ね~」
「えへへ……」
「……お母さんと、一緒に行きましょう?」
「良いの……?」
「大丈夫。ちゃんと……ちゃんと守ってあげるから!」
「……うん!」
こうして、大洗が姫の手を取り、みんなのもとへ向かおうとした時だった。
ザブンッ!
「あ、れ……?」
姫が突然、海面に倒れてしまった。
「姫ちゃん!?」
「あ、あはは……。なんだか、体が重いや……」
「姫ちゃん、大丈夫!? 姫ちゃん!」
黒森峰や天龍達が急いで駆け寄ると、姫の体が光っていることに気付いた。それと共に、姫の姿も透けていく。
「ど、どうなってるんだ!?」
「……まさか」
「天龍、何か分かったのか!?」
「恐らく……一気に成長しすぎたせいで、体が負荷に耐えられなくなったんだと思う……」
対空棲姫へと覚醒する時に、彼女は少女の体から、高校生ほどの体に一気に成長した。そして、バリアを張る能力も身に着けていた。
一気に進化したことで体への負荷が大きくなり、とうとう限界を迎えたのだ。
「どうにかできないの!?」
「……………………」
「何で……何でこんな時に……!」
「こんな結末……あって良いものじゃないよ……!」
姫は、それでも笑っている。
「お母さん……」
「姫ちゃん、生きて! もっと色んなものを見せてあげたいの! だからお願い! 生きるの!!」
「お母さん…………大好き……」
そして、姫の体は白く輝き…………光となって、消えていった。
「姫ちゃあぁぁぁぁぁぁぁん!!」
暗雲が晴れ、月の光が射し込む。しかし、この場にいる全員が俯き、涙を流していた……。
次回へ、続きます…………。