さて、前回はリーナさんが提督に「建造装置を使わせてほしい」と言ったそうですが……?
それでは、どうぞ!
時間は、姫の体が消滅した直後に遡る。
「姫ちゃん……そんな……。うああぁぁぁ……!」
大洗は顔を両手で覆い、泣き崩れる。
「せっかく戻って来たってのに……」
「こんなのって、あんまりです……!」
「何で彼女だけが……」
「どうして、どうしてそんな……!」
天龍達も悔しさで歯を食い縛る。他の学園艦娘たちも俯いていた。暗雲がゆっくりと晴れていくが、彼女たちの心は晴れなかった。
その時だった。大洗が、あることに気付き、涙が止まる。
「……え?」
姫が倒れた場所から、小さな光の球が浮かんできたのだ。光の球は蛍のようにフヨフヨと浮いて、大洗の周りを飛んでいる。
「これは……?」
「蛍……でしょうか?」
しかし、大洗がそっと手に取ると、ほのかな暖かさを感じた。彼女は直感で、この球が何なのかが判った。
「
『『『『……えぇぇ!?』』』』
「まさか、彼女も“ドロップ”で?」
「だが、そうだとしたらすぐに艦娘の姿になるはずだ。なぜこのような……」
そこでリーナが、あることに気付く。
「まさか……。誰の姿を取ったら良いか分からずに、困惑してるんじゃ……」
「というと、この子はずっとこの姿のままってこと!?」
「いや、それどころか、放っておいたら魂も消滅してしまうかもしれない!」
「そ、それじゃあ、どうしたら良いの~!?」
フリーやアンツィオが混乱するが、大洗は光の球をそっと撫でると、意を決したように立ち上がった。
「鎮守府へ戻りましょう!」
「そ、それはそうですが……この子はどうするのでありますか?」
「建造装置を使うんです! あらかじめ装置にこの子の魂を入れて、建造装置で身体を作ってあげれば……!」
「でも、大丈夫? 今回は前例が無いのよ。まさに、一か八かのgamblingになるわ」
「サンダースさん。言っていたじゃないですか。『可能性がゼロでは無いなら信じる』って。だから、私は信じます!」
「……帰るまでが遠足と言われているように、この子を救うまでが大洗さんの『救出作戦』なんだね」
「はい!」
大洗が頷いたのを見て、全員が頷いた。
「よっしゃ! 俺たちだって姫様と暮らしたいんだ! お前を信じるぜ!」
「まずは、建造装置を使えるようにしないとね~」
「私が提督に連絡を入れておきますわ。先ほどから通信が無くて、心配ですの」
「そうなのか?」
「何かトラブルがあったのかもしれないな。よし、急いで戻ろう!」
こうして、全員が最大船速で横須賀鎮守府へと帰投する。
(もうちょっと頑張ってね、姫ちゃん……!)
道中、光の球となった姫を優しく抱きしめながら、大洗は仲間の後ろをついて行った。
横須賀鎮守府にて。
「か、艦娘が増えてる……」
「ドロップ艦がこんなに来るなんて、初めてかもしれません……」
大洗達が帰投するとの報告を受けて、提督たちは彼女たちを迎える。だが。出撃した時よりも人数が増えてる上に、さらに高レベルのドロップ艦だというのだから驚きだ。
「提督。詳しい話は後です。建造装置を使わせてもらえますか?」
「あ、あぁ、構わないが、一体何のために……」
「この子を助けるためです!」
「え、えぇ!?」
提督に返事をするのもほどほどに、工廠へ向かう。
「ちょっと、何その球!?」
「……友好的な深海棲艦の事は、少しだけ話しましたよね? その子の魂です」
「深海棲艦の魂? これが……?」
「まぁ、後で詳しく話すけど、姫様は学園艦娘の『消えたくない』って感情から生まれたんだ」
「つまり、ここにいる学園艦娘のみんなにとって、家族なのよ」
大洗が光の球を放すと、その球はフヨフヨと浮かんでいる。大洗がそっと撫でると、導かれるように建造装置の中へ入っていった。
「艦娘が出てくる所へ入るのか……」
「あとは資源を入れるだけです」
鋼材や燃料、弾薬などを投入口に入れていく。レバーを引くと、残り時間が表示された。
「バーナーは使うかい?」
「いえ、何が起こるか分かりませんから……。このまま待ちます」
大洗の目が本気だという事を悟った提督たちは、その場を離れることにした。
「なら、君たちの事について色々と聞きたいけれど、良いかな?」
「おう。……だけど、ここじゃ何だ。別の所でな」
「そ、そうか……」
大洗の邪魔をしてはいけない。そう悟った天龍達は、他の艦娘らと共に工廠を後にした。続いて学園艦娘たちも後にする。
「………………」
目を瞑って、大洗は祈る。
―――ここには、色んなお友達がいるの。駆逐艦の子たちは、とても元気いっぱいなのよ?
―――鳳翔さんが作る料理や、間宮さんの作るお菓子は、とっても美味しいの
―――戦艦のお姉さんたちのカッコいい姿も、見せてあげたいな
―――だから……お願い。戻ってきて、姫ちゃん!
朝になった。深海棲艦の秘密を知った提督たちは、工廠へと訪れる。そこには元帥と中将、そして元憲兵隊長の運転手も同席していた。
彼らは、大洗が建造装置の前でずっと祈り続けていたことに驚愕した。
「なっ!? まさか、ずっとあそこにいたのか!?」
「それほどまでに、姫ちゃんの事を思っていたのでしょう」
知波単のその言葉に、元帥たちは俯く。自分がもっと反対派を警戒していれば……。そのような後悔が、より強くなったのだ。
「……儂は、彼女らに謝らなければならないな」
「それは、私もです……」
「……そろそろ、建造が終わるようですな」
「俺たちは、ここで見守るとしますか」
「私たちが邪魔しちゃ、いけないからね」
「はい……」
残り時間が0になり、プシューッという空気が抜けるような音がする。
「あっ……」
扉が開き、そこから白い煙が溢れる。そこには影があった。その影は……
「お母さんっ!!」
大洗を幼くしたような容姿を持つ少女が、抱きついた。
読んでいただき、ありがとうございました!
そして次回………………最終回です。次回を、お待ちください!