12月。それは、クリスマスや大晦日といったイベントが並ぶ月。駆逐艦たちから見れば更に元旦まであるため、ご馳走をたくさん食べられる、まさに夢のような月。
横須賀鎮守府はクリスマスの飾りつけが施されており、駆逐艦達が雪合戦をして遊んでいる。
「雪が降る景色ってのは、心をワクワクさせてしまうなぁ。俺も小さな頃は雪合戦とかしたもんだ」
「それは楽しいでしょうね~。はい、暖かいものどうぞ~」
「暖かいものどうも……お、ココアか」
「今日はクリスマスですからね~。飲み物もクリスマスっぽくしてみました~」
「こりゃ嬉しいね。よし、あともう少しだし頑張るか!」
執務室の窓から駆逐艦たちの様子を見て微笑む、横須賀提督。今日の秘書艦を務める大洗が差し出したココアを一口飲むと、残りの書類をパパパッと終わらせた。彼は結構できる人間なのである。
書類仕事を終えた横須賀提督は、鎮守府の中を見て回っていた。クリスマスの機会だからと部屋を掃除する望月、今夜のパーティーに出る料理を待つ加賀と、つまみ食いをしたい衝動を必死に抑える赤城、巨大雪だるまを作る長門と陸奥など、みな思い思いに冬を満喫していた。
「そう言えば、今回は他の鎮守府の方は来ないんですね~」
「クリスマスが終わると、すぐに大晦日になるからな。遠い所から来て、すぐに戻って年越し準備なんて大変だろ?」
「疲れちゃいますもんね~」
そうして外を歩く大洗と横須賀提督。すると、ティータイムを取っているリーナ、フリー、そして知波単と出会った。
「あら提督、大洗さん。ごきげんよう」
「ごきげんよう~」
「ごきげんようであります!」
いつもはイギリス式のティーセットだが、今回はクッキーと紅茶、そして珍しくジャムが置いてある。
「紅茶にジャム……ロシアンティーか」
「えぇ。プラウダさんから教えてもらったんですの」
「提督さんと大洗さんもどう~?」
「じゃあ、いただこうかな」
「失礼しま~す」
リーナが紅茶を淹れて、フリーはクッキーを差し出す。知波単はジャムを取りやすい位置に置いた。横須賀提督がジャムを紅茶に溶かそうとすると、リーナが待ったをかけた。
「提督、ストップですわ」
「え? 駄目なのか?」
「プラウダ殿が言うには、ジャムは舐めるのだとか」
「へぇ~」
ジャムの甘味と紅茶の香りが程よくマッチして、体が安らぐ。クッキーも甘すぎず、ロシアンティーにぴったりだ。
「これは良いですね~」
「だな。心が落ち着く」
優雅な時間を過ごした2人であった。
夜。鎮守府の食堂はご馳走が並んでいた。
「今夜はクリスマス! みんな、食べて飲んで寒さを吹っ飛ばそう!」
「「「「乾杯ー!」」」」
駆逐艦など体が子供な艦娘はシャンメリー(アルコールの入ってない炭酸飲料)を、大人の艦娘はワインやビールなど好きな酒を飲んで、食べ物にかぶりつく。
「うむ、美味い! 手掴みで肉にかじりつくのも良いな!」
「あらあら長門、口にソースついてるわ。拭いてあげる」
「龍田! この唐揚げうめえぞ!」
「はいはい、お野菜も食べましょうね~」
「お、おい、シーザーサラダ乗せすぎだって!」
「愛ちゃん、ケーキ美味しい?」
「すっごく美味しいよ、お母さん!」
食堂は笑顔で溢れている。時間が経つにつれて酔っぱらってクリスマスソングを歌う者、雰囲気酔いして歌に合いの手を入れる者など、賑やかなパーティーとなった。
翌朝。大洗は目を覚ます。隣の布団からは愛の喜ぶ声がした。
「わぁ~!」
「どうしたの?」
「お母さん! これ、サンタさんからのプレゼント!」
愛が抱えているのは、大きなクマのぬいぐるみ。手に包帯、目に眼帯と痛々しいが、どこか愛嬌のある顔である。
「ボコ~!」
「あらあら、良かったわねぇ~」
そうして微笑む大洗だったが、自分の枕元にも何かあることに気付いた。
「あら? これは……」
それは、ハンドクリーム。水仕事などで手が荒れることもある大洗にピッタリの物である。
「お母さんにもサンタさんが来たんだね!」
「え、えぇ、そうね~……?」
だが、一体誰が枕元に置いたのだろうか? 不思議なクリスマスであった。
果たして誰が置いたのか? それは皆さんのご想像にお任せします。