さてさて、今回は佐世保鎮守府のお話です。それでは、どうぞ!
※今回はギャグ要素多めです。
日本領海の、とある小島。そこの岩礁に女性が立っていた。
「フフフ……。ついにこの時が来たわ……」
その女性の大きな特徴は、“角”。黒い角を生やした彼女は戦艦水鬼と呼ばれる深海棲艦である。
「他の深海棲艦たちに散々コケにされ続けて来たけれど……これ程の兵力ならば、陸地への進出も出来るわ!」
「「「「キシャァァァァァ!!」」」」
戦艦水鬼の声に応えるかのように叫ぶのは、PT小鬼群と呼ばれる個体と、砲台小鬼と呼ばれる個体である。その数は、提督たちが見たら卒倒するであろう光景だ。
「さぁ、反撃の時よお前たち! 狙うは近場の佐世保鎮守府! 私の力を思い知らせてやるわ! あーっはっはっはっ! あーっはーっはっはっ……ゲホッ!ゲホッ!」
雷の音と戦艦水鬼のむせる声が小島に響いた。
節分の時期が近付き、各鎮守府はその準備に取りかかっていた。しかし今回の舞台は横須賀鎮守府ではなく、アンツィオやサンダースのいる佐世保鎮守府である。
佐世保鎮守府近海。そこでアンツィオとサンダース、そして北上と大井が出撃していた。
「周りは特に異常ないよ~」
「ではアンツィオさん、サンダースさん。お願いします」
「任された!」
「OK! 任せて!」
妨害が来ないか見張るために北上と大井が周囲を警戒し、アンツィオとサンダースは……投網を放った。
今日は節分。豆まきや恵方巻きで影が薄くなりがちだが、イワシの頭を刺したヒイラギを忘れてはいけない。棘の葉っぱとイワシの臭いで鬼を追い払うと言われているのだ。
今回は飾り付け用のイワシだけではなく、料理としても振る舞いたいためにこうしてイワシ漁に出ていたのである。
「んー! 大漁大漁!」
「これなら、鎮守府全員に行き渡るだろうな!」
「そんじゃあ、とっとと帰投する~?」
だが、大井がそれに待ったを掛けた。
「待ってください。何かがこちらに近付いています」
「ふーむ、サンダース。戦車隊を甲板に展開だ」
「了解よ」
4人が警戒を強める中、近付いてくる集団が姿を現した。
「フフフフフ! 手始めにあの艦娘たちをやっちゃいましょう。攻撃準備!」
「戦艦水鬼!? なぜこんな所に!」
「大井っち、叫んでる場合じゃないよ~っと」
迫り来るPT小鬼群に魚雷を発射するが、少し怯む程度であった。
「うーん、硬いな~」
「当たり前よ。この子たちは長い時間を掛けて鍛え上げたんですもの! さぁやっちゃいなさい!」
「砲台小鬼まで……。ちょっと不味いかもね~」
戦艦水鬼の艤装に乗る形で、砲台小鬼たちが攻撃してくる。予想以上の敵の数に、大井と北上は苦戦していた。そして攻撃手段がとても少ないアンツィオとサンダースに狙いを定めるのは、当然のことだった。
「あの空母2人をやっちゃいなさい! ふふふ、艦載機を飛ばさないなんて、お馬鹿な空母も居たものね!」
「い、いくら学園艦の2人でも……!」
「2人とも避けて!」
一斉に狙いを定める小鬼たち。それに対して2人は―――
「うおお!? 何か鬼が沢山いるぞぉ!?」
「Wow! 豆まきしなくちゃ!」
「…………え?」
攻撃されるていると言うのに動じず、それどころかポケットから升に入った豆を取り出す。
「鬼はー外ー!」
「ふん! 豆をばら蒔いた所で、この子たちには……」
「「キシャァァァァァ!?」」
「嘘ぉん!?」
砲撃でも少し怯む程度だったPT小鬼群が、豆が当たった瞬間に凄く痛そうな悲鳴を上げた。心なしか涙目になっているように見える。
「き、北上さん……。私、豆が深海棲艦に効くって初めて知ったんですけど……」
「いや、私もだよ大井っち……。名前に“鬼”って入ってるからかなぁ……?」
アンツィオは、節分仕様のタンケッテから、文字通りの豆鉄砲をくらわせる。硬い装甲で跳弾した豆は砲台小鬼にも当たり、痛がって艤装から落ちた。
サンダースは元々アメリカ風の学校と言うこともあってか、野球の投球フォームで豆をばら蒔く。広い範囲に高威力で放たれた豆は、PT小鬼群に次々と悲鳴を上げさせた。
「う、嘘よ……! 私が揃えた小鬼たちがこうもあっさりと……!」
「さーて、最後は鬼の大将だ!」
「ヒイッ!?」
「私とアンツィオの合体技、くらいなさい!」
「あの2人に合体技ってあったっけ?」
「さぁ……?」
サンダースが取り出したのは……恵方巻き。
「この私、ドゥーチェ・アンツィオが恵方巻きを作り!」
「私、サンダースが食べさせる!」
「「必殺! 恵方巻ドライバー!!」」
「モガァァァ!?」
なお、恵方巻の具材は玉子、かんぴょう、きゅうり、ちょっと奮発してマグロの赤身とイクラが入っている。
最初は目を白黒させていた戦艦水鬼だったが、やがてモグモグと無言で咀嚼し、飲み込む。
「お、美味しい~!」
「だろう! イタリア料理だけ作れると思ったら大間違いだ!」
「はーい、他の子たちも1切れずつあるから並んでね~」
目をキラキラと輝かせながら、恵方巻の味を堪能する戦艦水鬼。サンダースは切り分けた物をPT小鬼群や砲台小鬼たちに振る舞っていく。
「あーうん、終わり良ければ全て良しかな」
「北上さん、現実逃避しないでください……」
「だからって、何で鎮守府に連れてくるんですかー!」
佐世保鎮守府の執務室。ショタ提督こと佐世保提督は、頭を抱えて「ウガー!」と叫ぶ。
あの戦いの後、すっかり打ち解けた学園艦娘2人と戦艦水鬼たちは、佐世保鎮守府へと案内された。大井と北上の2人は反対したのだが、あれよこれよと流されてしまい、ついに折れてしまったのだ。なお彼女たちは精神的な疲労を癒すために、風呂で一息ついている。
「まぁまぁ、そう怒らなくて良いじゃない~」
「話を聞くところによると、コイツは“哀しみの深海棲艦”らしいからな」
生命には、喜怒哀楽と言う感情が存在する。その内深海棲艦は、“怒”か“哀”で性質が異なるのだ。“怒りの深海棲艦”は文字通りあらゆる物を憎んでおり、人間や艦娘を襲撃する。基本的に艦娘や人類が戦うのはこちらの方だ。
一方“哀しみの深海棲艦”は、言わば未練を残した存在。人間の事は憎んでおらず、むしろ友好的になりたいと思っている。しかし“怒りの深海棲艦”からも攻撃され失意のまま轟沈する者が多いため、数は少ないのだ。
話を聞くところによると、この戦艦水鬼は自分の名前が分からないらしい。自分が何者なのか、それを知るために他の姫級や鬼級の深海棲艦と仲間になろうとしたのだが……訪れた所全てが“怒りの深海棲艦”だった。その為、人間相手に虐殺だとか絶滅させるとか、そのような思考を持てない事を馬鹿にされ続けたのだと言う。だから、見返すためにとアンツィオたちに攻撃を仕掛けたのだそうだ。
「今回の襲撃だって、艦娘たちを小破とか中破くらいにする程度で、轟沈させるつもりなんて毛頭無かったのよ?」
感情がある以上、馬鹿にされれば見返したくなると言う気持ちが出てくるのは当たり前の事だ。もっとも、予想外な事が連発した上に、トドメの恵方巻きで落ち着いたそうだが。
「ねぇ提督? 彼女をここに置いとくのはどうかしら?」
「横須賀の愛や、天龍たち元深海棲艦のように、何かしらのきっかけで名前を思い出すかもしれん」
「うーん……」
腕組みをして考える佐世保提督。その見た目がまるで背伸びして大人の真似をしているように見えて、戦艦水鬼は「可愛い」と呟いていた。
「……分かりました。ですが、拾ってきた以上、あなた方に監視任務を与えます。それで良いですね?」
「勿論だ!」
「良かったわね、戦艦水鬼……は言いづらいから、スイちゃん!」
「す、スイちゃん!?」
こうして、まさかの深海棲艦が仲間入りしたのだった。
「あれ? 深海棲艦に『鬼』ってつく奴がいるなら、節分の豆って効くんじゃね?」と思うと、書かずにいられませんでした。
読んでいただき、ありがとうございます。次回をお待ちください。