今回は呉鎮守府、それも黒森峰さんのお話です。それではどうぞ。
今日は雛祭り。艦娘を所属させている各鎮守府では、女性が多すぎて当たり前だからか、派手な飾り付けは行わない。せいぜい食堂のメニューにハマグリのお吸い物やちらし寿司が出る程度である。
呉鎮守府ではその傾向が顕著で、海外艦娘たちはその不思議な料理に首を傾げていた。
「貝のスープと、何か綺麗なライス……?」
「そうか、今日は雛祭りか」
「ヒナマツリ?」
ビスマルクと黒森峰が食堂で会話をしていた。黒森峰は「ついこの間までバレンタインだと思っていたのにな」と呟きながら、ハマグリのお吸い物を啜る。貝の強い旨味が口に広がり、噛めばプリプリとした弾力でより味を感じられる。
「簡単に言えば、女の子の成長を祝うお祭りだ」
「へぇー? じゃあ男の子は?」
「それは5月5日だ。端午の節句とか子供の日とか言うやつだな」
ビスマルクはふーんと感心し、ちらし寿司を食べる。イクラのプチプチ食感や玉子の甘さに海苔の香りと、一口で沢山の味を感じることが出来た。その美味しさに目をキラキラさせながら食べ進めていく。
すると、別のテーブルが何か盛り上がっていた。
「む? どうしたんだ?」
「やぁ、黒森峰さん」
応じたのは継続高校。そこには戦車に乗る妖精さん達が居たのだが、皆それぞれ嬉しそうに何かを持っている。
「それは……ひなあられか」
「妖精さんたちも雛祭りを楽しみたいらしい。あげてみたら喜んでたよ」
「ほうほう」
黒森峰は、肩に乗っている隊長妖精さんを見る。彼女は不思議そうに黒森峰を見ている。彼女は口数が少なく、たまに天然な行動を取ることもあるため、意外と面白い子なのだ。
「欲しいのか?」
「……」
ふるふると首を横に振る隊長妖精さん。しかし、しばらくすると……。
「(じー……)」
「(継続妖精さんのひなあられを凝視してる……)」
すると、今度はプラウダがやって来る。
「あら、妖精さんってひなあられにも反応するの?」
「プラウダか。その手に持ってるものは……ひし餅か?」
「えぇ。提督が『あげる』って言ってね。そしたらこうなっちゃったの」
苦笑しながら手に持っているひし餅を見ると、まるで砂糖に群がるアリのように、プラウダの妖精さん達がひし餅に集まっていた。彼女の隊長妖精さんは口一杯にそれを頬張り、副隊長妖精さんに口元を拭かれている。
「(じー……)」
「(あっ、ひし餅も見始めた)」
よく見ると、他の黒森峰妖精さんも羨ましそうにお菓子を見ていた。その様子を見た黒森峰は決意した。
その日の夜。黒森峰の自室にて。
「ほら皆。ここなら恥ずかしがらずに食べられるぞ」
ひなあられとひし餅を机に置くと、妖精さんたちは目を輝かせてそれ等に群がっていく。
「……」
「ほら、隊長も行ってきて良いぞ」
「!」
他の妖精さん達が集まってもなお、恥ずかしいのか黒森峰の肩に留まっていた隊長妖精さんも、肩から飛び降りてひし餅に向かっていった。
「ふふ……」
可愛らしいその光景に、黒森峰は笑みを浮かべたのだった。
読んでいただき、ありがとうございました。次回の更新はまだ未定ですが、もし書けたら書こうと思います。