それでは、どうぞ!
鎮守府の中庭。そこで、金剛型戦艦の4姉妹とリーナはお茶会をしていた。
「では、リーナさんはイギリス文化を持ちながらも日本艦なんですか?」
「えぇ。持っている戦車もイギリスですが、所属は日本ですの」
霧島の問い掛けに、紅茶の香りを楽しみながら微笑むリーナ。紅茶を飲む仕草も、菓子を嗜む姿もサマになっている。
「ぐぬぬ……! 何だか負けた気がしマス!」
「お姉さま、落ち着いて……」
思わずライバル視してしまう金剛を、榛名が宥める。
すると比叡が、ふと気になったことを口にする。
「イギリスの文化を取り入れてるということは、料理も取り入れてるんですか?」
「っ!? ひ、比叡! Wait!」
比叡の質問に、顔を青褪めさせながらストップを掛ける金剛。榛名や霧島も顔が青い。だが、現実は非情である。
「えぇ、勿論。何ならお作りしましょうか?」
「本当ですか!? 楽しみですよ~。お姉さまは中々作ってくれなくて……」
「こ、こんな事態、予測できなかったわ……」
「だ、大丈夫……。榛名は大丈夫です……」
「? 榛名に霧島、どうしたんです?」
比叡は疑問に思う。なぜ姉と妹二人は“この世の終わりのような顔”をするのか。だが、彼女は悪意があってリーナに料理の提案をしたわけでは無い。“天然”なだけなのだ。
「ソ、Sorry比叡。でもね、私が今まで作らなかったのは理由があって……」
「では、大洗さんに材料があるか聞いてみますわ。食堂へ案内してくださる?」
「はい! この私にお任せを!」
「(い、言えないヨ~! イギリスのfoodは、漫画とかでネタにされる程マズイと言われてるなんて~!)」
金剛は料理が得意である。当然、先程から話題になっている料理も得意である。ただ、
だが、金剛にふと“ある希望の光”が灯る。
「(でも、リーナは日本所属の艦……。いくらイギリス文化を取り入れてるとはいえ、未来の技術ならきっと……!)」
そう考えた瞬間、金剛の顔色は良くなる。
「榛名、霧島! No probrem! マズイマズイ言われがちだけど、材料と調味料の量、調理法さえ問題なければ、美味しい筈デース!」
「そう、ですね! 何もまだリーナさんの料理がその……“アレ”だとは限りません!」
「“最後まで希望を捨てない”というやつですね!」
霧島と榛名の目に、光が戻る。三人は“最後の希望”を頼みにしつつ、リーナと比叡の後を追った。
ところ変わって、鎮守府の食堂。そこの調理スペースにリーナは立っていた。大洗はどこかで家事をやってるのか、食堂にはいない。
「では、そこのテーブルで待っていてくださいな」
「Ok! 楽しみにしているヨ~!」
笑いながら、適当な席に座る4姉妹。席に座ってから、ふとリーナを見た瞬間だった。
「よっしゃあぁぁ! リミッター外しちゃいますわよ~!」
「「「「…………え?」」」」
先程までの優雅な姿から一変、腕まくりをして頭に鉢巻をするリーナ。リミッターって何の?とか疑問が色々あるが、一先ず言えることがある。
これは、絶対『ロクなことにならない』奴だ、と。
そして、とうとう完成してしまった。よりにもよって、『あの料理』である。
「Oh……。よりもよって、これ……」
「ひえ~! 魚の頭がこっち見てます~!」
「提督……。榛名はもう駄目かもしれません……」
「確かイワシとかを使う筈なのに、なぜサンマを……」
ここまで来て気付いた読者もいるだろう。そう、リーナが作ったのは『スターゲイジーパイ』。“魚の頭が飛び出ている”ことで有名な
「調理法は頭の中にあるのですが、艦娘の姿で作ったのは初めてですわ。私も味見してみようかしら」
淑女モードへと戻ったリーナが、ナイフとフォークを手にする。
「「「「あっ……」」」」
金剛たちが止める間もなく、ナイフで切り分けてパクリと一口。
「……………………」
その瞬間、リーナはフォークを口にしたまま顔色が悪くなった。ダラダラとかいてはいけない汗をかいてるようにも見える。
「あら~? 誰かいるのかしら~?」
そこへ、大洗がやって来た。彼女はリーナの顔色と、目の前にある料理、そして使われたであろう調理器具と材料を見た。
「……聖グロさん?」
「え、いや、私はリーナと」
「正座」
「え?」
「正座」
「……もしかして、怒ってます?」
「正座」
「……正座、します」
大洗は“笑顔”である。
その翌日。リーナは『厨房の使用禁止』が言い渡された。尚、スターゲイジーパイはリーナと大洗が“責任持って食べ切った”そうだ。
読んでくださり、ありがとうございました。
ここで少しお知らせが。私が書いております、「竜の血を継ぐ者」の完結が近くなっているため、しばらくの間、「学園艦」シリーズの投稿が遅くなります。申し訳ありません。
それでは次回も、気長にお待ちください。