ヤムチャな俺が目覚めたらシガンシナ区の門が蹴り壊されるところだった   作:@さう

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進撃の巨人世界での初めての失敗

002進撃の巨人の世界で、初めての失敗

 

 

 

 突然街を襲った轟音。

 そして現れた巨大な気。

 超大型巨人。

 

 正直なところ、余裕で勝てる。

 気の大きさからしても楽勝だ。

 

 だが、あの巨大さと、気持ち悪い顔はさすがにビビる。

 

 

 ーそして俺は、この世界で最初の判断ミスを犯したー

 

 

 ドラゴンボール世界に転生した時、気をつけた事がある。

 原作をなるべく変えない事だ。

 それは原作へのリスペクトであり、そして知識によって自分が生き残るためでもある。

 

 悟空があれだけ強くなるのは、どこで失敗があってもダメだったし、悟空がやられたら地球はあっさり滅ぶ。結構綱渡りな世界だった。

 

 今回も、進撃の巨人世界を変えてはならないと思った。

 

 超大型巨人をここで駆逐するのは簡単だが、そうするとその後の諸々が大変になる。

 

 俺が死ぬ前までで読んだのは、確かライナーとマーレ軍が飛行船で攻めてきたところまで。

 

 そこまではなんとか原作のストーリーを繋げたい。

 繋げたいが……

 

 俺は気を探った。

 ……いや、ダメだ。そもそもどの気かわからん。

 

 ここで一人、人間を救おうと思ったのだ。

 

 俺は通りに降りて、走った。

 走りながらダメ元で叫ぶ。

 

「えっと、イエーガーさーーーーん!! イエーガーさーーーん!!」

 

 名前ど忘れした。

 

 

 

 ここで、エレンの母親が死ぬ。

 超大型巨人が蹴り壊して降り注いだ破片によって、家が潰され、逃げられなくて、食われる。

 それも旦那の元嫁に食われるのだ。こんな悲劇、あってはならない。

 

 ドラゴンボール世界では生き返る事ができた。

 その分、この世界での死の重さについて考えすぎてしまった。

 だから俺は、エレンの母親だけでも救いたいと思い、こんな行動に出てしまった。

 悪手だった。

 

「どなたですか?」

 

 めちゃくちゃ運がいい!

 

 ちょうどとなりの家から、黒髪でなんだか目力のある美人さんが出てきた。

 俺は足を止めて、

 

「エレンさんのお母さんですか?」

「はい。あの子がまた何か……」

 

 やっぱ問題児かよエレン。

 

 そして、街が揺れた。

 

 エレンの母親のカルラさん、そして通りにいた人々も悲鳴をあげながら頭を抱えた。

 

 続いて、空気を割く音が響き渡る。

 空を見上げると、いくつもの陰が白い煙で線を描いていた。

 超大型巨人に蹴り壊された壁の破片だ。

 

 それは街に降り注ぎ、街中から地響きと爆発音が聞こえてくる。

 大質量の岩石に押しつぶされて、いくつもの家が吹き飛んでいく。

 

「きゃあああああああ!!」

 

 俺はカルラさんの盾になった。

 目の前でエレンの家が押しつぶされ、木片や石壁の一部が飛び散った。

 それは俺が全部受けたので、カルラさんは無事だ。

 

「大丈夫ですか?」

「はっ…… はい。なんとか…… エレン! ミカサ!」

 

 すぐにハッとして走り出しそうになっているカルラさんを捕まえて

 

「大丈夫です! 二人はすぐこちらへ来ます」

 

 そう、あの三人は放っておいてもすぐに来る。

 カルラさんが家に押しつぶされないから、避難もすぐできるだろう。

 

 

「……あ」

 

 どんどん気が消えていく。

 破片が降り注いだ場所だ。

 みんな死んでいく。

 

 

 俺はここで失敗していた。

 

 カルラさんを助けに走るのではなく、気弾で全ての破片を砕いてしまうべきだったのだ。

 

 細かい礫粒は街に降り注ぐだろうが、家は潰れないし、物陰に隠れていればやり過ごせるだろう。

 打ち所が悪くて死ぬ人もいるかもしれないが、今よりずっとマシだったはずだ。

 

「なんて事だ……」

 

 俺は早速この世界で判断を誤った。

 

 なるべく原作は壊さないとしても、それほど影響ないレベルでたくさんの人が救えたはずだったのだ。

 

 こうしている間にも、どんどん気が消えていく。

 この世界にドラゴンボールは無い。

 

 

「母さん!!」

 

 と、三つの気が、エレン、ミカサ、そしてアルミンが走ってきた。

 

「エレン! ミカサ!」

 

 カルラが二人を抱きしめた。

 

 

「っ…… 早く逃げましょう。すぐに巨人が入って来ます」

 

 俺はともかく、エレン達を逃す事にした。

 

 

ーーーーーー

 

 

 途中、潰れた家の中から気を感じて救助したり(5秒)しながら船着場へ向かった。

 そこは人で溢れていた。

 この三人が生き残るのは確実なので、焦る必要は無い。

 

 ……この状況を見るに、下手にシガンシナ区の人々をたすけていたらこの三人が船に乗れなかった可能性もあるのか。

 そんな風に考えてしまう。

 

 その場合、助けた命に責任を持つために、入ってきた巨人も俺が倒すべきだろうか。

 

 そしてライナーもベルトルトも殺して、そのままマーレに行って……

 

 この世界は第一次大戦をちょっと過ぎたぐらいの科学力だ。

 巨人という魔法のような力はあるものの、物理で倒せる相手。

 ヤムチャ一人で制圧できる。

 

 だがそれは、俺の望みではないし、強くなって、成長していくキャラクター達の人生を踏みにじる行為でもある。

 俺だって楽しんで、時に苦しみ、泣きながら、勇気をもらった。

 それをここで踏みにじるのは……

 

 しかし現実として人が死んでいて……

 

「オイ!何ぼーっとしてんだよ!」

 

 エレン、お前年上にも容赦無いな……

 

 俺は考えることを放棄して、エレン達と一緒に船に乗った。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

進撃の巨人は1、2巻同時発売の時からのファンです。

この、壁の破片で街が破壊される様子をしっかり描写しているところに惚れました。

これはすごい漫画だ、凄い漫画家だ、と思って親戚や友達に勧めたのですが、絵がちょっと…… と全て断られまして。

その後アニメが出てから、また周りの評価が変わりましたけど。

 

しかし、それもなんか…… 巨人が人を食うっていう、そこに焦点が当たっていたような気がします。

 


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