ヤムチャな俺が目覚めたらシガンシナ区の門が蹴り壊されるところだった   作:@さう

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マーレどうしよう

008マーレどうしよう

 

 

「君がアッカーマン一族なのか?」

 

「違うけど、まぁそんなものだ」

 

 ジークとお話中である。

 ピークはだんまりだ。

 

 ジークって部下の信頼厚かったかな?

 うろ覚えだが驚異の子とか言われてた気がする。

 ピークがジークと仲悪かったらここでさらに面倒になるかもしれない。

 

 まぁともかく、この際だから聞いてもらおう。

 いざとなったらどっかその辺で無個性巨人に食わせればいい。

 

 ……動き出してしまうとそんな酷い事を簡単に考える様になってしまっている。

 修行はともかく、戦うとなればいつも命がけだったり地球の命運がかかったりしてたし。

 そういう感覚になってしまう。気を付けないと。

 

「ジーク、あんたが何を考えてるかわかるぞ」

 

 カマかけてるわけじゃなく、実際に知ってるんだけど。

 ピークはここでやっと興味が湧いた様だった。

 こいつは知らんのか。

 

「なんだね? 君には人の心を読む能力でもあるのか?」

 

「アッカーマン一族の力が巨人の力と同じ道を通って来るのは知ってるな? 俺はそこから少しの記憶も覗く事ができるんだよ」

 

 などというハッタリをかました。

 

 ジークは黙った。

 信じているわけじゃないと思うが、まぁ、多少考えはしているみたいだ。

 

 

 俺はジークに歩み寄って、肩を組み、エルディア人安楽死計画について一言二言囁いた。

 

 目に見えてジークの表情が変わった。

 

 一旦離れる。

 

「お前たちエルディア人の惨状は多少知っている。ジークの考えもわかる。だが、少し待て」

 

 

「それで、私たちはどうなるのかしら?」

 

 お、初めてピークが喋った。

 

「そこが悩みどころなんだよ。俺はジークと話をしに来たし、ジークが一人になったのを見計らって接触したってのに、突然巨人化しちゃうし、それであんたにも気付かれちまうし……  

まぁ、殺しはしないよ」

 

 ちょっと彼らにはおとなしくしてもらおう。

 

「お前ら始祖の巨人奪還任務とか、そういうのだろ? 調査のために壁の中に入る必要があるよな?」

 

 原作ではそういう描写無かったが、彼らは壁内の街で暮らした事があるんだろうか?

 

「とりあえずうちに行こうか」

 

「「は?」」

 

 

 俺は二人を引き連れて歩いた。

 途中で逃げようとしたのでまたとっ捕まえて、体力が戻ったらしく獣の巨人になったもんだからまたボコった。

 ピークは…… なんだろう。こいつ何考えてんのかな?

 

 ジークにしても、俺に反抗しているという感じではない。

 こいつ、飄々としているが、実は人に従うのが苦手なんだな。

 流石エレンの義兄だよ。

 

 途中、二人の体力がやばかったのに気付いた。

 まぁ、いつまでもノロノロ歩いてるわけにもいかんし。

 

 俺は二人を両脇に抱えて走った。

 全力でいくと二人の骨とかが風圧でやばいかもしれないので、ギリギリの速度で。

 

 ジークもピークも悲鳴をあげた。

 まぁ確かに怖いかもしれんができれば静かにしてほしい。一応隠密行動中なんだし。

 

 ウォールローゼの外壁にたどり着き、壁をジャンプでひとっ飛び、二人は気絶しそうになってた。

 

 

 ーーーーーー

 

 

「こいつ、ジーク。グリシャさんの前の嫁の息子だよ」

 

「そうですか……」

 

 カルラさんにジークを紹介した。

 グリシャさんに全て打ち明けられていたカルラさんは、ジークの事も知っていたみたい。

 

「は? え? どういうこと?」

 

 ジークが素で焦っていた。

 

 ……あ、そうか。

 エレンが巨人化するのをライナー達が見て、それでエレンの事が調べられて、そこで、ジークはエレンが自分の義理の弟だと気付くのか。

 

 今ジークは何も知らんのか。

 

 そういえばエレンに対して、グリシャさんに洗脳されてる的な発言をしていたし。

 ジークからしてみればグリシャさんは誇大妄想のバカな父親でしかない。

 

 巨人は記憶も受け継ぐ。

 それに、あんな悲惨な体験してるんだし。

 エレンの父親になったグリシャさんは少し変わってたんだろう。

 

 ……まぁ、王家に接触して始祖の力を奪ってしまったけどさ。

 

「ピークさんは…… 大丈夫? 休む? 顔色悪いけど」

「……そうさせてもらいます」

 

 ボロ小屋のボロソファーにうつ伏せで寝そべった。

 猫みたいだな。

 

 そういえば、車力の巨人って長期間作戦が可能で、戻った時には二足歩行が難しいとかなんとかあった。

 なんでそんなにこき使われているのか。

 なんか…… かわいそうな人だなこの人も。

 

 

 憲兵に、エレン達の家族に変な連中が接触した、などとバレてはまずいのでこっそり連れ込んだわけで、こいつらを外に出すのもまた面倒そう。

 

 ともかく、今回はカルラさんに会わせて、ジークからは以前のグリシャさんと、ここに来てからのグリシャさんの話をして欲しかった。

 

 二人は結構長く話し合っていた。

 俺は食事の差し入れなどしつつ、畑の前でアルミンのお爺さんと太極拳もどきをして体をほぐしたりしていた。

 

 時折、そんなバカな! とか聞こえてくる。

 やっぱ、ジークの記憶にあるグリシャさんとは少し違っていたんだろう。

 

 憲兵には聞こえてないみたいだが、あとでちゃんと大声出さない様に言っとかないと。

 

 

 ーーーーーーーー

 

 

 このパラディ島の隣に、大陸がある。

 そこにはマーレを始め、多くの国がある。

 

 パラディ島の、この壁の中の人々は皆エルディア人。

 特殊な方法で巨人化してしまう人々だった。

 大きさも姿もまちまち。

 知能は無い。

 ただ、人を食うだけの巨人。

 なぜ人を食うのか分からないが、始祖の巨人から別れた九つの巨人は、人の精神と知能、記憶のままだ。

 その九つの巨人を一体でも食べれば、人間に戻れる。

 その一連の流れが、巨人の食人行動に関係しているんだろうか?

 

 詳しい事は分からない。

 

 始祖の巨人はエルディア人全てに対して影響力があり、記憶の改変も可能だった。

 

 どういう理由か、俺が原作を読んでた時点ではまだわからなかったが、このパラディ島に逃げてきたエルディア人達は、巨人の力で壁を築き上げ、引きこもり、王家が持つ始祖の巨人の力で、エルディア人全ての記憶を改竄した。

 

 この壁の中にしか人類がいない。

 壁の外は巨人だらけで、その巨人のせいで、壁の外の世界は滅んだ。

 

 このパラディ島のエルディア人のほとんどが、それを信じていた。

 

 

 対して、大陸のマーレ国には、エルディア人収容所があった。

 

 元々エルディア人は巨人の力による支配階層だったらしい。

 それを、非支配階層のマーレ人達と、離反したエルディア人によってクーデーターというか革命というか、そういうのが起こって、立場が逆転した。

 

 その後、エルディア人は差別対象となり、収容区に押し込められ、酷い扱いをされている。

 

 洗脳教育もお盛んで、これだけ差別され嫌悪されているというのに、そのエルディア人の汚名を晴らすためという名目で優秀な兵士を育てて、戦場に送り込んでいる。

 巨人になれる、と言ってもそれには巨人の髄液が必要なわけで、その他はただの人だ。

 

 どうしてこんなに酷い扱いが行われるのか。

 

 なんというか……

 ここに比べればドラゴンボールは全然ファンタジー世界だった。

 負けたら地球が壊れるという緊張感はあったが、こういうドロドロした気持ち悪さはなかった。

 

 

 そんなえげつない世界で、エルディア人は使い潰され、どんだけ頑張って戦っても顧みられず、使い潰され続けている。

 

 ジークとエレンの父親、グリシャさんは活動家だった。

 こんな酷い環境だし、気持ちはわかる。

 しかし、全部バレた。

 このままでは家族丸ごと、親戚までヤバイ。

 このままではヤバイと思った子供の頃のジークと、ジークの良き相談者でもあった獣の巨人の前任者によって、グリシャさん達は売られた。

 ジークが生き残り、志を果たすには、父親であるグリシャさんを売るしかなかった。

 

 ジークの望みは、エルディア人の安楽死。

 この残酷な世界に生まれてくるエルディア人を救うため、始祖の巨人の力をもって、もうエルディア人の子供が生まれない様にする。

 とても悲しい方法だけれど。

 

 エルディア人を、巨人の力を使って周辺国に影響力を持っていたマーレ国だが、時代の流れの中、科学技術が進歩し、もはや巨人の力のみでどうにかなる状況でもなくなってきた。

 

 パラディ島に逃げ込んだ始祖の巨人、その力をもって、再び世界の実権を握るため、マーレ国は始祖の巨人奪還作戦を遂行した。

 その尖兵が、ライナー、ベルトルト、アニ、そしてもう一人、顎の巨人継承者だった。うっかり食われてその力はユミルに移ってしまったけど。

 監督役がジーク。

 

 ジークは作戦通り、パラディ島に来た。

 マーレ国とは別の思惑で。

 

 

 ーーーーーー

 

 

 

「やめなさいそんな事。それより、ジーク、あなた子供は? お嫁さんはいないの?」

 

 とはカルラさん。

 

「話聴いてましたか? 私はエルディア人の安楽死を願っているんです。そんな私が子供なんて。まして、子供なんて」

 

「でもだれか好きな人とかいないの?」

 

「……」

 

 ジークの気持ちが少しわかる。

 カルラさん、エレンにそっくりなのだ。

 エレンは激情家で話を聞かないが、カルラさんも別の意味で話を聞かない。

 ハゲ教官(当時はハゲてなかったが)の嫌味もさらっと受け流す。

 

 ドアの向こうの二人の会話を聞いているのは、俺だけではない。

 ピークも俺の隣で聞いている。

 

 アルミンのお爺さんはすでに眠っております。

 早寝早起きで健康。

 

 車力の巨人の中の人、ピークはここで初めてジークの望みを知った。

 驚きはしたものの、やはり、無理もない、という感想だった。

 

 彼女たち、収容所の中の人々は悲惨だ。

 

 九つの巨人継承者ともなると他国との戦争に駆り出され、潜入もする。

 よそ様の生活が見えてしまうのだ。

 

 作戦が終われば、収容所に戻る。

 自分たちの希望の星が活躍し、戻ってくるとあって、収容所はお祭り騒ぎ。

 それ自体が、とても悲しい。

 

 もっと自由であれば、こんなところに押し込まれず、自由に生きていけたなら。

 

 始祖の巨人の力が及ぶのは、エルディア人のみだ。

 新しいエルディア人を生まれなくできたとして、それで差別は終わるのだろうか?

 

 多分、終わらない。

 

 仮に巨人化できる能力自体を封印できたとしよう。

 それなら差別は終わるだろうか?

 

 いや、それでも終わらない。

 

 新しいエルディア人が生まれなくなったとしても差別がなくなるわけではない。

 下手すると、これ以上増えないならまとめて殺してしまおうという意見がでる事すら想像できてしまう。

 

 巨人化の力を無くしたらどうだろうか?

 これも無理だ。今巨人じゃないからと言っても、昔巨人だったというだけで、昔巨人の力で周りに圧政を強いていたという話があるだけで、エルディア人は死ぬまで差別されるだろう。

 

 

 ピークも、ジークのエルディア人安楽死計画を聞いて、普通にそう思ったらしい。(結構ピークと話せる様になったよ)

 

 でも、ピークにもやはり他の方法が思い浮かばなかったみたいだ。

 

 新しいエルディア人を生まれなくする安楽死計画は、今可能な最大限の希望だった。

 まだ生まれていないエルディア人の苦しみを拭い去るというのは、なんとも不思議な感じはする。

 でも、これで全て終わるなら……とジークは考えている。

 

 

 

 俺はもう原作気にしないと決めたが、しかし、このじょうきょう、どうすりゃいいのかわからない。

 

 地球でも解決できてなかった民族問題を、ただの転生主である俺が解決できるわけがない。 

 差別撤廃しておしまいってわけにはいかない。

 

 一応、この世界の人類最強の俺の力で何か……何かできることは……

 

 

 

 ーーーーーーーーーーー

 

 

 しばらくして、ジークとピークを王都に連れて行った。

 

 カルラさんとの話し合いは、決裂というわけではないが、お互い和解したという感じでもない。

 

 そもそも話が通じてる感じしなかったしな。

 

 とはいえ、敵対関係ではないからまぁいいか。

 

 

 

 アニに接触し、物陰からジークとピークを見てもらった。

 気を覚えさせるためだ。

 二人とアニは接触させないが、アニに気を覚えさせておけばいざというときにはなんとかなる…… かな?

 

 ジークのエルディア人安楽死計画をアニにも話した。

 

「それしか、ないのかもね」

 

 と、アニは小さく呟いた。

 

 

 

 ジークとピークには、王都で働いてもらうことにした。

 ジークは日雇い労働者。

 ピークは花屋さん。

 身分が必要な仕事ではないが、まぁ、諜報任務という事にはできるだろう。

 

 俺は今のところ二人にやってもらう事とか無いので、本来の任務に戻ってもらう事にした。

 

 しばらく開拓村にいたのだが、その辺の事はなんとか誤魔化せたらしい。

 本国への連絡も今はちゃんとやっている。

 ピークもその嘘に付き合っている。

 未だにこいつが何考えてるのかよくわからん。

 

 

 始祖の巨人の行方は知らないふりをしておいた。

 まぁ、王家が持ってると思ってるんだろうけど。

 

 エレンが巨人になれる事は黙ったままだ。

 カルラさんもそこはしっかり黙っていた。

 あの人、人の話聞いてない様でこういうところはしっかりしている。

 女というのはそういうものらしい。

 

 グリシャさんは、処刑されるところで、進撃の巨人継承者だったマーレ国のスパイに逃してもらった。

 そしてカルラさんと出会い、結婚して、エレンが生まれた。

 シガンシナ区がウォールマリアが突破され、ここに逃げて来た。

 しばらく一緒に過ごして、グリシャさんがカルラさんに全てを打ち明け、地下室の鍵を託した。

 そしてグリシャさんは開拓民の病人を救うために薬を求めて外に出て憲兵に殺されたか、廃棄された街に入って薬を探すためにウォールローゼを越え、ウォールマリアにこっそり入って巨人に食われたか。行方不明になっている。

 そういう事になっている。

 真実を知るのはカルラさんと俺のみだ。

 

 カルラさんは旦那の前の嫁の子供から、自分の子供を守るという、なんともドロドロしい選択をしていた。

 

 そして、グリシャさんに託されたという地下室の鍵。

 こういう真実が少し混ざっているため、えげつない嘘になっている。

 

 進撃の巨人の行方も、始祖の巨人の行方も分からない。

 そういう事になっている。

 

 カルラさんあんな感じの人だし、嘘つかれたら気付けん。

 

 

 ジークがこれを嘘だと見抜いていても、特に問題は無い。

 彼にとっても、進撃の巨人、そして始祖の巨人の所在は、マーレ本国に知られたく無いだろう。

 情報を独占できるならそうするはずだ。

 

 原作ではジーク一人ではどうしようもなかった。

 マーレ軍の任務とも奪還という部分では合致していたし、軍のバックアップが必要だった。

 でも今回は必ずしもそうではない。

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーー

 

 かなり原作から離れてしまった




そろそろ主人公を活躍させたいんだけど、なかなか

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