キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ様の優雅な雄英生活   作:DEMIDEMI

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8周目様、誤字報告ありがとうございます。


第二話  蟲キング

そこにあるのはただの修羅道。

虫たちにとっての地獄。

 

彼らは互いに争い合う。己が意に反して…。

 

蟷螂が斧を振り上げる。

蟻が黒い軍勢と化し、相手を引き裂かんと覆いつくす。

蝶はその優美さを失い、空中から攻撃の機を窺い

飛蝗は力の限り跳躍し、その蝶にむしゃぶりつく。

 

弱肉強食

強肉弱食

 

そこには肉食も草食も関係なく

互いが互いを襲う悪夢が顕現していた。

 

この悪夢を引き起こしたのは少女の双眸。

その金色に輝く瞳は何の感情も映すことなく、ただ無慈悲に虫たちの争いを見ている。

 

 

そしてそんな彼女を見つめる二人と一匹の影。

その瞳はただただ痛ましさだけが溢れていた。

 

「かくして彼女はオールマイトに救出されたものの、犯人は自爆というわけさ。だよね、塚内君」

男の肩に乗ったネズミが喋る。

「わずかに残されたメモから、彼女が何らかの実験を受けていたことは明らかなのですが…それがどのようなものだったのかは、残された手掛かりから推測することは…その、不可能で…」

語尾を震わせる男の声に被せるように、女の声が響いた。

「攫われた人々の安否も不明、今世論はヒーロー協会に対する非難の声で溢れてるわね」

そこで微かにため息をつき

「まあそちらは出来るだけ公安委員会の力で抑えてみるわ。で根津校長」

「先ほど言った事、考えてみてくれるかしら」

 

そうして再び彼らは目を少女に向ける。

少女は他に興味を示すことなく、一心に…ただ一心に虫たちの争いを見ている。

 

 

根津校長は考える。

かつて自分を襲った様々な実験を。

一体彼女はその昏い双眸で何を見つめてきたのか。

せめて、せめて同じ過去を背負った自分に何かできる事はないのかと。

 

 

塚内直正は考える。

オールマイトによって救われたにもかかわらず、全てを拒絶するような一切の感情を感じさせないあの目。

あんな目を作り出してはいけない。

そしてそんな目をした人は救わなくてはいけない。

それが出来ずして何のための警察か。

 

ヒーロー公案委員会会長は知っている。

この世の中が決して光ばかりではない事を。ただ彼女の様な幼い子がその闇の中に囚われたままでいいはずがない。

せめて、せめて自分の立場で何かできないかと。

 

 

三人は以前に見た彼女の自己紹介を思い出す。

 

「下郎共、たかが人間どもの分際で私の前に立てる事を誇りに思うがよい」

「私がお前らと同じと思うな」

「私が貴様らに期待することはたった一つ」

「我が尖兵となって、私のためだけに戦い死ね」

 

それは自分以外に価値を認めない獣の思想。

己以外は全て劣等と断ずる悪夢の思想。

 

彼女は人間に対して絶望している。

ならば我は人に非ず。

 

彼女が頼りにしているのはこの人間という集団ではなく、ただ一人己だけ。

 

三人が心を痛めるのは、そのような思想を彼女に押し付けたのが一人のヴィランであり、強いてはそれを生み出した現在の人間社会であるからだ。

 

その時、根津校長はかつての己と少女が重なって見えた。

実験、また実験の日々。

絶える事の無いその日々の中から生まれるのは、己の心の闇であった。

 

このままではいけない。

自分は素晴らしい同僚の先生や生徒たちに囲まれ、その闇を抑える事ができた。

どうか願わくば、彼女にもその心の闇を抑える仲間たちができますように。

 

そして、それを手助けできるのは自分たちだけなのだ。

 

そして彼は迷うことなく、先ほど聞かされた話に返答する。

「わかりました。現実問題として彼女の強力な個性を制御する方法を教える必要があるでしょう。万が一、ヴィランに利用されることがあったら大きな被害が予想される。雄英高校は彼女の飛び級編入について前向きに考えます」

 

そして根津校長は会長が手に持った紙に目を向ける。

 

少女の語った言葉。

「私の中には兄弟たちがいる」

そして断片的な会話から導き出された彼女の個性。

 

 

その手に持った紙には

 

キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ

個性『軍勢』

 

と記されていた。

 

 

 

 

☆     ☆     ☆

 

 

 

 

 

皆様、ごきげんよう。

こちらキーラでございます。

 

あ、申し遅れましたこちらの世界での俺の名前はどうやら

『キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ』

というらしいです。

前世が引きニートには似つかわしくない素敵な名前だと言えるでしょう。

 

えー、ワタクシ今何をやっているかと言いますと

 

昔懐かし虫相撲でございます。

 

死んだ目で土俵上で押し合いへし合いしている虫たちを見てるとあら不思議、

自分が虫以下の存在になりそうで、ぐっと鬱メーターが上昇してきます。

 

で、なんで俺がこのような地味な遊びをやってるかと申しますと…

 

 

 

デビューに失敗したんだよ!こん畜生!!

 

 

 

前回あのガチムチに抱きしめられて、割とマジでシャレにならないくらい貞操の危機を覚悟したわけですが、

どうもあのガチムチは割と有名どころのヒーローだったらしく、俺は無事解放されて警察の手に渡ったわけですな。

抱きしめられてる間中、あのガチムチの暑苦しさと汗臭さに当てられて、解放後も死んだサバの目みたいになってたのは絶対自分のせいではないと思う。

 

で自分、どうもあのおっさんに攫われる前から妹以外天涯孤独な身の上であったらしく、いわゆる身寄りのない少年少女が集団生活する場所に至るといったわけなのです。

 

これがアイマス転生とかだったらこの美貌を武器にアイドルの世界を駆け上がるというストーリーだったんでしょうけど、こちらはあのような夢溢れる世界じゃなく個性を持った変人が蠢く殺伐とした世界。

ところがどっこい…あのような希望に満ちた世界じゃありません。現実です…これが現実。

 

とまあそういう理由で孤児院にやってきたわけですが、

ここでワタクシ大きな壁に突き当たることになりました。

それは

 

 

自己紹介ですよ、自己紹介。

 

 

ええ、小学生から社会人、万人が通る道にして基本。

それなりの経験を積んだ人間なら危なげなく通る道なのでしょうけど…

 

あいにくこちら筋金入りの引きニート。

十数年来人と話した事がないという、逆の意味でとんでもない経験を積んでおるわけです。

 

知ってるか、ガチムチ。

余りに長期間人と喋らないと言葉の出し方を忘れるんだぞ。

 

試しに自分の内側にいる兄弟に向かって自己紹介の練習をしてみましょう。

 

 

「ア…ソノ…ウャ、ウャシハ…キラ…ワ…チョシミャ」

(訳:私はキーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワと申します)

 

「キュ…キョア…ミャシャンチョ…ミャラ…ミュ…ミャハロフ…チュパチーナ」

(訳:今日から皆さんと仲良く過ごしたいと思います)

 

「ド…ドヤァ…キュリフラ…ミョロシ…ミョリョシーキュ…チェネ」

(訳:どうかこれからよろしくしてくださいね)

 

 

完璧である。

まさにコミュ障の本領を発揮した素晴らしい自己紹介と言えるだろう。

 

事実兄弟は喜んでくれましたよ。

もう満場一致のスタンディグオベーションで、中にはどうやったのかサイリウム振ってる奴までいる始末で。

どいつもこいつもオバカアイドルが失敗するのを期待して、期待通り失敗したのを見るような優しい目をしていたのが気になるけど。

 

 

って…言えるか!こんな挨拶!!

口に出した瞬間、ドン引きされて便所飯コース一直線じゃねぇか。

便所飯どころか便所でフルコースな挨拶だわ、コレ。

 

しかしもう時間は余り残されていない。

どうすべきか、うんうん唸ってた私の前に

 

「お姉ちゃんは考えすぎるんだよ」

「そうそう、ここは私たちに任せておいて」

「うん、バッチリ決めてあげるから」

 

妹というイエホーシュアが顕現した。

よし、ここは任せた。ロムルス、レムス、ばしっと理想の自己紹介を決めてあげなさい。

 

 

 

どうしてこうなった。

自己紹介だよ、自己紹介。

普通に自分の名前言うだけで良かったんだよ。

 

何で南斗鳳凰拳伝承者みたいな事言ってんの。

私がやったら完全イチゴの方だよ。

 

「やったね、ロム」

「うん、レム。これでお姉ちゃんの偉大さがちょっとでも伝わったよ」

 

喜ぶ妹たちを尻目に、俺は自分の目がどんどん濁ってくるのが自覚できました。

 

 

 

結果、自己紹介でドン引きされたワタクシの食堂は便所となり、友達は虫たちだけとなりましたとさ。

某パンマンと違って、愛と勇気以外にも友達いるのが救いかな。

 

わーい、個性「黄金瞳」って軽く使うとべんり~。

虫さんたちがね、俺の指示通りお相撲さんとってくれるの~。

 

 

という具合に、死んだ魚の目で虫さんたちと遊んでいたところ、

目の前におっさんとお姉さん、ネズミが近寄ってきました。

 

 

え?何?

高校?この俺にまた学校に行けと?

 

しかもトップクラスのエリート校?

あ、学校に対するトラウマが…学校とはいったい、うごごご。

 

いやホント、どうしてこうなった…




次回主人公登場!!

緑谷出久の光はキーラの心の闇を晴らせるのか!!
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