キーラ・ゲオルギエヴナ・グルジェワ様の優雅な雄英生活 作:DEMIDEMI
其ノ一 もしヴィラ
どう、と音を立てて男の体が崩れ落ちた。
ふう、潰した組織の残党の割には、少し手間を貸せさせてくれたね。
「やらせは・・・彼女だけはやらせは・・・せんぞ」
それが男の最後の言葉だった。
それきり身動きしなくなったその身体を乗り越え奥へと進む。
ふむ、体は本調子ではないが活動する分には問題なさそうだ。
だが、まだだ。まだ個性のストックが足りない。
オールマイトと再び戦うにはまだまだ集めなければいけない。
そう考えると、仮面の下で傷ついた顔が疼くような気がした。
一日に何人もの人間が姿を消すという奇妙な失踪事件を耳にしてから数日。
少しばかり気になって調べさせたが、過去に潰した組織の男が関与していることはすぐにわかった。
手に入ってくる様々な情報。そして過去の組織の動向や攫っている人数の多さなどから、おそらくやっている事は人体実験。
やれやれ、どのようなのが出来ているか楽しみだね。
「へえ、これは・・・」
最後の扉を開けたところに少女が眠っていた。
いや、美少女というべきかな。
ふむ、起こすのも可哀そうだ。
このまま個性を・・・。
そこまで考えた時、体中に衝撃が走った。
いや、本能が警告したというべきかな、この場合。
前にこの感覚を覚えたのは、オールマイトがはらわたを撒き散らしながら向かってきた時以来だ。
この個性を奪ってはいけない。
奪ってはとんでもない事になる。
あれ以来、自分の感覚は信じるようにしているし・・・
さて、この子をどうすべきか。
そう考えていると、少女がゆっくりと目を覚ました。
ゆっくりと半身を起こし、こちらを見つめる。
ああ、その目。
初めて会った時の弔とはまた違った、それでいて似たような目。
ああ弔。彼はひたすら絶望に染まった目をしていた。
この世の全てに希望を無くしたその目。
それとはまたベクトルが違うが、彼女もまた実にそそる目をしていた。
輝きの無いその目の中に・・・
何十人、何百人、何千人分もの悪夢が詰め込まれているような気がした。
それも一瞬、それは消えて少女の目には絶望だけが浮かんでいた。
これはいい。
先ほどのヴィランが攫った人間で何らかの実験をしていたのはわかっているんだが、彼女もその被験者だろう。
このような絶望を味わったという事は、さてさて彼女はどのような事をされたのか。
「可哀そうに、誰も助けてくれなかったんだね」
これはダメか。どんな実験をされたのか知らないが、完全に壊れてる。
色々声をかけてみたが、彼女に反応はない。
これはいっそ脳無の材料にするしかないかな。
そう思いつつ・・・
「もう大丈夫。僕が来た」
最後にそう声をかけたその瞬間。
その時、少女の体が小刻みに震え始めた。
今まで意思なき光に支配されていた死んだようなその目、その目に光が満ち始める。
ああ、これだ。この光が見たかった。
まるで弔に初めて出会った時のことを思い出すね。
ああ
やがて彼女は感動のあまり、俯くとその身を震えさせる。
「君の仲間がいる」
そう声をかけると泣き出すのを我慢していた彼女は顔を上げる。
その顔は真っ赤に紅潮し、こらえきれなくなったのか涙が目尻から零れ落ちる。
喜びなさい、弔。君と同じような闇を持った仲間が生まれたよ。
「神々の最終戦争。『ギガントマキア』はもう居るし、君は『ラグナロク』ラグナロクと名乗るといい。その身に宿した混沌、ぴったりだろう」
☆ ☆ ☆
目を覚ましたら目の前にマスクマンがいた。
何を言っているのかわからないと思うが
俺も何が起こっているかわからない。
夢の中でですね。
何かゴリラみたいな人が巨大ロボに向けて銃を乱射したのは覚えております。
こんな変な悪夢を見るって疲れてるのかな?労働はニートの天敵です。
で、目が覚めたら部屋の入口にこんな変なのが立っているわけですよ。
え?何?今で色々な人と融合してきて、その中には結構イロモノいたけど、これはまた意外過ぎる。
レスラーかな?
レスラーの中には自分のマスクにこだわりを持っていて議員になっても外さないって人いたけど、多分彼もその類なんでしょう。
スーツをピッシリと着こなしている点も、レスラーは普段私生活はきっちりしている人が多いと聞くので不思議はありません。
でこのマスクマン何やら喋っているのですが、起き抜けのため頭がぼんやりしてて内容が頭に入って来ません。
死んだサバの目で彼を見つつ、かろうじて理解できたのが、何やらもう大丈夫とか私を迎えに来たとかそんな言葉。
え?私ニート志望ですが、決してレスラーになろうなんて夢は抱いていませんが。
まあ女子レスラーとくんずほぐれつキャットファイトというのも、まあ夢がある話ではありますけど。
しかしレスラーが迎えに来るって・・・あのおっさんいよいよ私のマネージャーじみてきたな。
プロレスに参戦って何かのバラエティ番組でも見て思いついたんですかね?
私が気付いていないだけで、実はここはアイマス世界。
私はイロモノ枠に転生したのかも知れません。
確かニート志望のアイドルがいた記憶があるので、キャラが被るのが心配ですが。
他にも心霊系とかガンバリマスロボとかいたような・・・。
絶望した!!
基本色物アイドルしかいないこの世界に絶望した!!
でもこのマスクマン、何か見覚えがあるんですよね。
どこで見たのかな・・・。
・・・・・!!!!!!!!!!!!!
その時、頭の中を覆っている霞が晴れるかの如く、私はその事実に気が付いた。
目が澄み渡る。今まで霧に覆われていたような視界が不意にはっきりする。
目の前で何やらくっちゃべってるマスクマン。
そのマスクどこかで見たことがあるなと感じていたのですが、アレだ。
目の前の彼。
パンスト被った強盗にそっくりではありませんか。
うっすらと顔の形が浮かび上がっている所なんてもうそっくり。
そう思いついた瞬間、もうだめだと思った。
全身が震える。
呼気が肺から飛び出そうとする。
腹筋が引き攣る。
だめだ・・・まだ笑うな・・・堪えるんだ。
ぷるぷると震えている私を勘違いしたのか、ますます彼が得意げに何かを喋っている。
けどその内容は私の中に入ってこない。
想像してみてください。目の前にパンスト被った人がいて、真面目にその話を聞く気になれます?
少なくとも私は無理だった。
このマスクマンが喋るたびに前世で見たバラエティ番組、その中で頭からパンスト被った芸人二人が引っ張り合いするシーンが脳裏にフラッシュバックするんすわ。
マスクマンが動くたびにその事が思い浮かんで、もうね。
マジで我慢できなくなって下を向いて笑いをこらえていると、このパンスト何を勘違いしたのか
「仲間がいる」とか何とか言い出すわけですよ。
パンスト仮面とか滅多に見られるもんじゃないわ~。もっかい見といたろ。
顔を上げると笑いを我慢していたせいか、顔が熱く涙が零れてしまう。
で目の前にはパンスト。
我慢しろ私。今が堪え時だ。
で、このパンスト。
私を仲間に誘ってるらしいのですが、ないわー。
悪の組織って言ったらもっとスタイシッシュなものでしょ。地球儀の上に組織のマーク置いたり、ワイングラス片手にバスローブ姿で高笑いしたりするもんでしょ。
それがパンストって・・・コントの強盗かよ。
いや私もね、そんな間抜けな組織の勧誘断る気十分だったんですよ。
「我が正義に燃える心は決して悪には屈しない」
とかね。
万が一喧嘩になっても大丈夫。パンスト強盗が強いわけないじゃないですか。RPGのチュートリアルで出てくる雑魚みたいなもんでしょ?コイツ。
負けて
「くっころ」
女騎士状態にはならないって。
そう思ってキリッと格好つけようとする前に・・・
妹が勝手にイエスの返事をしてしまいました。
マジすか?妹?
君ら芸人に憧れてたの?
ヴィランになるとしても、せめてもう少しスタイリッシュな・・・
せめて洋画に出てくるようなギャングみたいな集団にしましょうよ。
ギャングいいよ、ギャング。
今なら黄金の精神もった下っ端がボスの娘護衛してるかも知れないし。
でその後何故かなし崩しに、このコント集団の仲間になることになりました。
妹たちも
「やったねお姉ちゃん。私たち悪の幹部だ」
「失敗したら床に穴が開いて落とされるのかな。あと蝶々マスクも被らなきゃ」
と大興奮です。
爪牙たちも悪の女幹部という言葉に何か琴線に触れるものがあったのか、当然ながら大喜び。
一糸乱れぬオタ芸を披露しております。
アレ?私の意思は?
で、何か私「ラグナロク」とかいうコードネーム貰ったんすけど、アレですかね?
このパンストもいい歳して、まだ中二病から回復していないんすかね??