一目惚れです。
多分、ツンデレっぽいところが好きなのだと思います。
これまで異世界転生物を書いていたので、実はそちらのオリジナルとのクロスオーバーなのですが、オリジナルだし「クロスオーバー」は明記しなくても良いかな?
オリジナルもですが、どんなにダークでも、、、最後はハッピーエンドにする方針です。
執筆自体が挫折したら、御免なさい。。。
「これで、また一つ、国が亡ぶ・・・」
神の嘆きは、厄災しか齎さない。だから、神は嘆いてはいけない。
それは原初の時から定められた理で、この世界の女神たる私も良く分かっている。
だけれど、私だって時には、ため息の一つも付きたくなる。
女神は目の前で吹き消されたかの様に絶ち消えた、蝋燭から立ち上る紫煙を追って、その色を持たない瞳を上げた。思わず漏れたため息が、紫煙を揺らす。
私の気が乱れれば、きっと何処かで突然の豪雨か、季節外れの雹でも降っているかもしれない。
今必要なのは、害にしかならぬ嘆きではなく、有益な行動だ。分かっている。
そして、これも分かっているの事なのだが。
今回は、分が悪すぎるのだ。
また、勇者の命が失われてしまった。
今回の勇者は剣技に長け、その技量はあの六蛇にも勝っていたし、彼のパーティーには今世最高の賢者と、王国の魔術師団を統べる大魔術師も付き従っていた。
それでも、届かなかった。
何がいけなかったのだろう?
どうしたら、勝てるのだろう?
この世界のバランス、この世界の人間の国々と、もう一方の対極をなす魔族たちとの均衡が崩れ始めたのは、ここ10年程の事だった。そしていつしか魔族たちは強大な力を得て、魔族の領域と接する辺境の国々を席捲した。それ自体は、これまでにもあった事ではあるのだが。
何故か、新たな魔王は海からやってきた。
そして、魔族たちはこちらの予想を遥かに超えた、まさに悪夢の様な大魔法を放った。
自分らの支配した国々を、海の底へと沈めてしまったのだ。
残された人間の国々は、恐怖した。
魔族との闘いに負けると支配者が代わるどころか、街も国土も全て海の底に沈むのだ。
大陸の海洋に面した小国が次々と海に沈み、まるで浸食される様に大陸自体がその領域を狭めた。海岸地帯の多くが漁業か貿易が中心の国々で、内陸に逃れた人々の糧を賄う穀倉地帯もまた比較的内陸にあって、今はまだ食糧難には至っていないのが、せめてもの救いだった。敢えて言うなら今はまだ、岩塩の採掘を増やさないとならない事位か。寧ろ国土を失った当事者たち以外、内陸の国々では民が増え、税が増えたと喜んでいる馬鹿な治世者も多いと聞く。治世者が如何に馬鹿でも、民の不安は日々高まるばかりだ。いずれ大陸の国々全てが海中に没したら、人間は何処に逃げ住めば良いのか?
それでも、神聖王国の女王に託した夢見の神託を通じて、幾つかの国々では明確な危機感に突き動かされ軍を整え、魔族の襲来を迎え撃った。
幸い、最初の戦いはいつも陸上だ。
人間たちは自分たちに有利な、両の足の着く大地の上で戦えた。
今回も勇者たちは、かつては隣国との国境だった岸壁の上に砦を築き、上陸してくる魔族どもを迎え撃った。
幸い一度に攻めてくる魔族の数は、それ程多い訳ではない。
これまでの魔物、例えば炎狼の群れとは大きく違い、一度に最大でも6体だった。
ただ、この事自体がこれまでと違って、魔族が十分な統率の元に明確な意思を持っている事の証拠ではあるのだが。
魔物の中には手を、あるいは手足を生やした物たちもいる。器用にも、その巨体をオオトカゲの様に進める事が出来る物もいたが、手足ある物とて、どれもさして移動速度は早くはない。
元々が海に住む物たちだからか、陸の上では手足も持たず海蛇の様にウネウネと体を捩るか、まるで海老の様に跳ねる事でしか進むことも出来ない物の方が多い。
だが、驚くべきは、その攻撃力と防御力。
その顎から放つ僅か一撃で重装歩兵の方陣を吹き飛ばし、その強固な鋼色の鱗は魔術師団の放つ渾身の焔に耐える。
それでも勇者のパーティは王国に伝えられた宝剣と、幾重にも重ね掛けした爆炎の魔法を用いて攻め入った魔族の鋼の鱗を削り、剥ぎ、貫き、ついには首を刎ね、見事6体の魔物を屠った。
ぎりぎりの戦いではあったが、如何にか勇者たちが勝利を掴んだ、その時。
その魔女が現れたのだった。
全身から滴る海水の飛沫は、その長き髪を更に禍々しく漆黒に染め上げ。
これまで一度として日に触れた事もないかの如き真っ白き顔[カンバセ]には、爛々と光る真紅の瞳。
その魔女は、ただ一声で、勝利に沸く勇者たちの心をまでも、へし折ってしまった。
『ネェ、ソレデ、カッタト、オモッタ?』
幸いな事に、何故か魔女は勇者たちを屠っただけで、また海へと帰っていった。
だからまだ、この国はまだ、海に沈んではいない。今は、まだ。
だが目の前で最強の勇者たちが、為すすべもなく狩られるのを見せつけられた軍の士気は、最早ないにも等しかった。魔女は殺す価値もないと思ったのか、残った者たちに捨て台詞を一つ残し、また海へと去っていった。
『マタ、クルワヨォ、ナンドデモ、ナンドデモ、ネェ』
女神は、その透明な瞳を閉じる。
魔王を倒すには、勇者を。
当たり前の事だ。でも今回の魔王は、何かが違う。10年前、最初から何かとてつもない、違和感があった。
そう、今にして思えば多分、『概念』が違っている。
ならば、こちらも変わらないと、いけないのではないか?
闇雲にこれまで通り最強の勇者を召喚しても、勝てないという実績を積み上げるだけだ。そもそも、魔王が率いるあの異形の物たちは、どんな理に従っている?
あの異形の物たちを形造る『概念』は、これまでこの世界にあった物ではないはずだ。何処かの世界[平行宇宙]の、何かしらの魔物を真似た物、なのかもしれない。だが、女神の知る限り、あの様な魔物はどの世界にも実在しない。ならば。アレらはきっと、想像上の生物。敵が『想像種』であるならば、こちらもその『想像種』を倒すことが出来る『概念』を探さなくてはならない。
女神は再び、その透明な瞳を見開いた。
ため息をついている、暇はない。
まずは、そこからだ。