逃げ惑う住民たちを避けて、最前線である岸壁に至る。
まるで川を遡るが如き手間だが、それも致し方ない。
人波をかき分け司令と二人、如何にか街を出てここまで来たが、会敵前に十分な作戦が共有出来たかと言えば、少し心もとないかもしれない。
だが、たとえどんなに不利な戦況であろうとも。
この磯風が愛す・・・、コホン。忠義を尽くすと心に決めた司令を守り抜く。
この磯風が出よう、心配は要らない。
かつては国境の緩衝地帯であった森林を抜けると、最前線となっている岸壁は直ぐだ。森林の向こうは絶壁で、その先に赤く染まった海がある。
兵の絶叫や進軍ラッパに紛れ、前方から聞こえる雷鳴の如き爆音は、火砲のそれに違いない。既に周囲には民間人の姿はなく、前方には黒煙が立ち上り、幾流かの連帯旗が見える。如何やら甲冑を纏った重装歩兵が幾つかの部隊に分かれ、方陣を敷いているようだった。
『磯風、俺の声が聞こえているな?』
頭の中に、司令の声が響く。
女神の説明にもあったが、『提督との絆』というスキルだ。スキルというのは今一つ分からんが、要するに無線の事だろう。送受信設備や担当する艦、暗号化復号化などを気にせず使えるのは助かる。この世界、意外と技術が進んでいる様だ。
常時このスキルを開放していてくれれば、司令の考えている事も全てわたしに伝わるのだが。い、いや、こちらの考えている事も伝わるとなると、それは、ちょっと恥ずかしいかもしれぬ。
『お前の12.7cm連装砲は、毎分10発の連射が出来るハズだ。平射砲だから、対空射撃は無理だろうが、今回は気にしなくて良い。とにかく、アウトレンジから、その連射で奴らを圧倒する。それには、お前に敵を近づけさせず、尚且つ正確な弾着修正が必要だ。・・・だから、俺が観測の為に前に出る』
なる程、アウトレンジからか!
な、なに!?
それは、この磯風に下がれという事か!?
いよいよ、重装歩兵たちの方陣が目前に迫る。敵の放った砲撃が右手の方陣、敵正面に着弾し、数名の歩兵がぼろ屑の様に宙を舞った。
『な、何を言っているんだ!?それでは、この磯風、司令を守る盾として・・・』
『「提督」命令だ、そこで止まれ!』
『ぐっッ』
馬鹿な!
強引に行き足を止められたわたしを置いて、司令の姿が右手の方陣の隊列に隠れる。
前方左右の方陣の隙間には、敵の姿が見える。
距離は、海戦に比べれば・・・限りなく近い。
射程とか、そういうレベルの話ではなく、ゼロ距離射撃と言ってよい。
くっ!!
そもそもこれで、アウトレンジとは到底言えない!
司令の紛れ込んだ隊列、あのような脆弱な盾では、味方の隊列は長くは持たない。
姿だけでも捕えようと司令を探すが、黒煙と人垣で位置さえ分からない。
『まず初弾は修正射、俺がファイアウォールを張ってからが、効力射。ファイアウォール越しに、撃って撃って撃ちまくれ!俺の指示で照準誤差の修正と、射撃位置の変更だ。いいな?いくぞ?』
くっ、仕方ない。
「第十七駆逐隊磯風、推参!」
艤装を展開すると同時に、中央に布陣する敵に初弾を叩き込む!
間髪を入れず、わたしの目前に炎の壁が立ちはだかり、わたしは已む無く司令の姿を探すのを止める。
『いいぞ、もうちょい、左!良し、そのまま撃ちまくれ!』
炎の壁を揺るがして、12.7cm炸薬弾の速射が敵に突き刺さる。
ファイアウォール越しにも、着弾の爆炎が見える。
正しくゼロ距離射撃、修正が正しければ、ものの数射で敵を蹂躙出来る!
『一匹目、戦闘不能!次二匹目だ、更に右!もう、ちょい右!そこだ!』
ファイアウォール越しでは、二匹目以降の位置は正確には把握出来ない。わたしから見えない以上、敵も隠ぺいされた、わたしの存在が理解出来ない。その分敵は、目前の左右の方陣に更に攻撃を強めている。急がなければ!
『二匹目、撃破!いいぞ、次三匹目だ、更に右!』
左の方陣に敵弾が集中し、血しぶきが舞う。
崩れた隊列から逃げ出した兵たちの一部が、司令が敷くファイアウォールを突き抜けようとして炎に包まれる。魔術による灼熱の炎が甲冑の隙間から生身の体を焼き、兵たちは重なる様に倒れ伏す。
『もう、ちょい左!そこだ!』
これが三匹目、女神の情報通りなら、敵は6体のはず。
急げ!
今は崩れた左の方陣に敵の反撃が集中しているが、急がねば司令のいる右側が標的になる!
『三匹目、撃破、砲撃中止!磯風、敵は混乱している。右の方陣の、更に右側に回り込め!』
わたしが右側に駆け出すと、目前のファイアウォールが立ち消える。
足元には上半身を炭化させた、味方の兵が倒れ伏している。
肉の焼ける匂いが、硝煙の匂いに代わる。
走れ!
急がねば!