今の磯風の力、舐めないで貰おう。   作:アルティフィナ

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第2章、1.鎮守府

この世界住人にとって共通の敵である『深海棲艦』同等に、実はこの世界の『人間』たちも、こちらの思い通りに動いてくれるとは限らない。彼らは独自のコミュニティである『国家』を作り、女神たる私の意志とは別に、国家の利益をも追求したがる。時としてその求める利益は国家の間で相反する物であり、その結果『深海棲艦』の侵攻で世界が滅亡の危機に直面している最中でも、『国家』間の争いはなくなる事がない。

勿論、更には一人々々の個人としての望みも複雑に絡み、人間を私の意図に従わせるのには、とても手間が掛かる。

 

それに比べると、自らが治める世界の『人ならざる者たち』は、ずっと、私に協力的だと思う。

素直な、良い子たちだ。

そう思っていました、昨日までは。

 

 

女神の目前には、彼の世界では銭湯として知られる入浴施設が広がり、かけ流しの湯から立ち上がる湯けむりが広い室内を満たしている。どことなく漂う、檜の香りが心地よい。

手前の脱衣所には扇風機や、ちょっと古めかしい体重計も完備されている。

 

「もー、何でこんなに大きな浴槽にするかなぁ!?無駄よぉ、無駄!」

 

思わず、一瞬呆けてしまった。

足元に自慢げな妖精さんたちが、ぞろぞろと現れる。

な、なにその『やり切った』感溢れる表情!

 

『やー、そんなに褒めて貰えると、照れますね~。やっぱり「入渠」スペースは、これくらいないと~』

「あ、あのねぇ、『艦娘』一人しかいないのに、いったい何人同時に入浴出来るのよ?」

『そうは申しますが~、こちらも浴室の壁に「富岳のタイル画」を描くのは泣く々々諦めたのですから、女神様も少し位妥協して頂いても良いと思います~』

 

何処が『少し位』なのよ!?

確かに浴槽、だけ(・・)なら、妥協しても良いわよ。

 

「・・・あなたたち、さっきは『提督』の執務室に、岩風呂作ろうとしてたわよね!?」

『本当は、執務室に岩風呂を作るのが本筋だったのですが、そこは諦めました~』

「いやいやいや、執務室に岩風呂とか分けわからないし。勿論、一緒に作ろうとしてた執務室の『脱衣所』とかも、不要ですからね!?」

『その分、こうして「入渠」スペースの浴槽を整備させて頂き、ありがとうございます~』

 

何が、ありがとうございます、だぁ!?

あんたたち、どんだけお風呂好きなのよ!?

 

「・・・執務室には『夜戦』の掛け軸も飾ってたわよね!?」

『良いじゃないですか~!掛け軸一つくらい。戦意高揚の為にも、やはり執務室には掛け軸は必須でしょ~』

 

訳が分からない。

その採用基準は何?

 

「じゃあ、あのハンガーラックは!?」

『洋服掛けは、生活必需品じゃないですか~』

「なんで『提督』の執務室に、『磯風』の着替えを掛ける必要があるのよ!?」

『だって、二階が執務室、兼食堂、兼台所、兼寝室、プラストイレ。一階が浴室ですよ~、ほら、部屋数が足りないじゃないですか~』

「それは、一階を全部浴室に使うからでしょ!?」

 

あの二人には連携を強化して貰う為に、とりあえず、この街の郊外の地下迷宮に潜って普通の陸棲の魔物を狩って貰っている。いよいよあの『戦艦棲姫』が攻めてくる前に、すこしでも強くなっておいてほしい。

勿論、ふたりには転移アイテムも持たせたので、いざという時は二階の提督執務室の床に描かれた魔法陣に、即時帰還が可能だった。

 

二人が練度を上げている間に、女神たる私は妖精さんたちの協力を得て、この『鎮守府』を建てているわけだ。

 

かつては国境地帯にあった二階建ての山小屋を買い、二人の今後の活動拠点にして貰う。

二階の執務室の窓からは、絶壁となったかつての国境の向こう側に、今や赤く染まってしまった海が広がっている。ちょっと不気味な海の色さえ気にしなければ、絶景を一望に出来る好立地、海岸線の温泉付きリゾートの高級ペンション、と言っても差支えない。

 

この新たな鎮守府は、先の六蛇との防衛戦が行われた最前線から、極々近い距離にあった。

前回の、前々回の戦いで多大な被害を被った王国騎士団は、既に街の城壁まで下がっている。故に、次の戦いはこの鎮守府から絶壁までの間が、決戦の場となるだろう。

(『提督』からは『どうせなら、もっと安全なところに建ててよ!』と呆れられたが、良い物件が他になかったのだ。・・・そう、何事にも妥協が必要だ)

 

二階の執務室で改装を終えた妖精さんたちが、完成祝いの酒盛りを始めた様だ。

一応妖精さんたちには、酒も食事も差し入れは完璧。

なんだかんだで、ちょっと私の意図とは異なるにしても、古びた山小屋をここまで整備してくれた訳で、妖精さんたちの労を労うのは当然だろう。

 

その隙に、私は新設の「入渠」施設を使わせて貰うとする。

あの二人が戻ってくるまで、もう少し時間がある。

今のうちに文字通り、一番風呂を楽しませて貰おう。

あの薄い本にも、露天風呂で女同士組んず解れつという濃厚な展開が描かれていて、ちょっと興味があるのだ。

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