彼の世界には温泉なる物の『概念』があり、妖精さんたちは何故かそれを、無駄に高度に再現してしまっていた。
無駄だとは思うけれど無駄な事にこそ、人生の(私、人じゃ、ありませんケドね。女神デスけどね)真実があるというもの。
私の『深海棲艦』対策調査によれば、『かげろうお銀』なんて毎回入浴していた訳で、もし、あの入浴シーンが無かったとしたら。それはもはや、印籠を持たぬご老公様と同じ。
(実は一瞬、これは結構いけそうか、とは思ったのですけどね。『助さん格さん、その「深海棲艦」共を、懲らしめておしまいなさい!』みたいな? 一応、『深海棲艦』にご老公様一行を立ち向かわせるプランは、プロデュースする女神の立場しては、ちょっとキャストが多すぎるので却下しましたけどね・・・)
やはり、温泉なる物が目の前にある以上、女神たる私が最初の湯浴みをする事で、この温泉は更なる高みへと駆け上がるに違いない。
女神は鼻息も荒く、一階の玄関前の暖簾をくぐるのだった。
「・・・なかなかに、良い湯だったわ」
妖精さんたちも流石、良い仕事をする。
ただ、家の中をどれ程完璧にリフォームしようとも、元は単なる郊外の一軒家。
別に防御結界が張られている訳でもなく、門から玄関まで何キロもある様な邸宅などでもなかった。
ついつい長湯してしまった私は、脱衣所で冷たい牛乳(ビン入り)をグイっと楽しみながら、「提督」と磯風の二人が早々に帰還してきた気配をとらえたのだった。
げっ、私の服がない!?
あれ、ここの棚に入れたわよね?
まさか「提督」に、そんな趣味が!?
いや、まだ「提督」は外だった。
視界の隅に、ちょうど妖精さんたちが私の服を、壁際の洗濯機に放り込む姿が見えた。あ、洗ってくれるのね!?
そうだった、妖精さんたちは、ここを鎮守府として維持管理してくれるのだったわ。
「ま、まずい、何故かこの風呂場、入口が玄関直ぐ先(それはそうよね、一階には風呂場と階段しかないものね!)だったわ。あの二人が玄関のドアを開ければ、私と鉢合わせとなってしまう!」
それは、まずい。
女神たるもの、やはり威厳を見せる事も、必要な嗜みである。
流石に女神がバスタオル一枚、その下は全裸というシチュエーションはまずい。
大きさは磯風に勝てる自信はあるケド、私は美の女神(ヴィーナス)という役どころな訳でもない。磯風には、負けないけどね!
重要な事なので、二度言ってみました。
・・・そんな場合では、なかった。
そういえば、確か二階の「提督」執務室には、何故か磯風の服が掛けられていたはず!
私は慌てて残った牛乳を飲み干すと、濡れた髪を拭くのもそこそこに、暖簾をくぐって玄関前の階段を駆け上がった。
あ、あった!
・・・後で気が付いたのだが、如何やらあの湯、『艦娘』が『船体』(カラダ)を維持するのに必要な、様々なエネルギーが溶け込んでいたらしい。
それは、女神の私でも、気持ちイイ訳だわ・・・。
まぁ、『入渠』施設ですからね・・・。
それらは傷ついた『艦娘』の体を癒す為に、『艦娘』の霊的な身体を一種の未分化な細胞状態へと還元し、彼女たち『艦娘』が持つ元の『概念』に従い再構成しつつ、その『船体』を癒す訳だ。(iPS細胞もビックリの効用!)
いよいよ、階下の玄関を開ける音が聞こえてきた。
二人は妖精さんたちのリフォームの成果に驚きながらも、迷わず二階へと上がって来る様だ。階段を上がる、足音が近づく。
私は急いで、ハンガーラックに掛かっていた磯風の上下を身に着けた。
でもセーラー服姿の女神って、それでは余りに女神らしくない。否、そうとも言えないかしら、『月に代わっておしおきよ!』って、既に『概念』が違い過ぎる!
と、取り合えず。
わたしは二人との、ちょっと意図せぬ再会までの残る僅かな時間で、元々被っていたベレー帽だけでもと急いで創り出して、被る事にした。
あれ?
何故か、手袋も?
よ、よし、後で磯風には服を借りた事は謝っておこう。
・・・でもノーパンでセーラー服ミニスカートって、ちょっと、まずいかしら?
それにノーブラなのに、ちょっと胸もキツイかも?
・・・自分で変な想像して、頬が赤くなってしまった。
こんな姿で、磯風に抱きしめられたりとか。
いやいや、湯上りだし私の頬が赤くなったのは、多分長風呂のせいよね。
そうそう、長風呂しちゃったし、いや~、ぶち疲れたわ~。
ノーパンだってスカート捲れなければ、大丈夫じゃて!
ドアが開くと、何故か磯風がうちに走り寄り、抱き着いてきよった。
あ~、これ、あの薄い本と同じ展開じゃけぇ、素敵じゃねぇ♪
うちも思わず、抱き返してしもうたわぁ。
磯風が、うちを抱きしめながら、驚いた目で聞いてきた。
「な、何故ここに、浦風がいる!?」