「えーと、女神さん?」
「違います」
即答だった。
提督の机とは名ばかりの単なる食卓を囲み、俺たちは対策会議の真っ最中だ。壁側の席、そこが提督の席なのらしい、つまり俺。背面の壁には、この辺り一帯の地図が張られている。ただ、地図にはちゃんと、それが実在した頃の国境が描かれ、国境線の先には隣国の国土が広がっている。
俺から見て左手、窓側に磯風。そこが秘書艦席、という設定なのだそうな。仕様的には、俺の席と何ら変わりはないが。
そもそも、いつから秘書になったのでしたっけ?
そして俺の正面に、元女神様。
因みに妖精さんたちは、こちらの混乱も討議も気にせず、床に置かれた皿を丸く囲み、『鎮守府リフォーム完成祝い』の真っ最中だった。宴に差し入れた酒や魚が切れない限りは、こちらに用事はないらしい。
「浦風?」
「・・・違います」
怪訝そうな磯風の質問に対しては、一瞬、言い淀んだが、答えとしては、やはりNOでだった。
まぁ、けして俺だけが否定された、という訳ではない、多分。
・・・それにしても、デカいな。
磯風を、完全に上回っている。
磯風もかなりのモノと思っていたが、どうやら俺の認識が間違っていた様だ。社会人たるもの、過ちは直ちに正すべきだろう。素直に俺の誤りを認めようじゃないか。
うむ。これで磯風の事が好きでなければ、こちらで良かったのかも。
・・・とか、そういう相談をしたかった、訳ではない。
「何て呼べば、良いのかな?」
「違いますって、言ぅとるじゃろう!」
即答でした。
やっぱり、嫌われてますかね、俺?
でも、これ位ではメゲナイね、俺。
慣れてるからねっ。
・・・や、やっぱり、ボディーブローの如く、後から効いて来るかも。
俺の精神的な安定の為にも、この対策会議とやらは、早く終わらさせて下さい。
「あー、とりあえずだな。今後の呼び方を聞いている、だけなんだが?」
「・・・浦風と呼んで、つかぁさい」
女神様改め浦風が、ぽつぽつと語り出したところによると。
自分のかなりの部分が、浦風の意識に浸食されている為、もはや浦風としてのアイデンティティを無視する事は出来ないとの事。ただ、女神としての意識も能力も、あるいは、女神として、この世界を治めなければならない、という使命感も失くしていないのだそうだ。ただ外見に引きずられ、浦風>女神の状態で安定しているらしい。
当面は今のまま、両者意識が混ざり合った状態だと、そう認識しているとの事。
「えーと。今の浦風の状況は分かった。だが、なんでまた、そうなったんだ?」
「ゆわんでも、えかろぉゆぅて思うんじゃが、女神たる者、二人の為に参戦したに、決まっとるじゃなぃ!」
こういうのを、逆切れと言います。
望んでなったと言うなら、何故怒るのさ?
俺、悪くないからね?
「そ、そうか。それで浦風の武装は如何なっているか、教えて貰いたいんだが」
「12.7cm連装砲と、九一式爆雷じゃ」
おそらく、浦風が積んでいるのは九四式爆雷投射機と、九一式一型爆雷なのだろう。九一式爆雷は約150kgの炸薬が込められていて、九四式爆雷投射機を使用した場合、100m近い遠方への投射が可能だった。
良いんだけど。
良いんだけど、この艦娘たち、何故に魚雷は持参しないんでしょうね?
しかしだ。
前向きに考えれば、爆雷を地上に投げて、いけないという法はない。
普通に地上で使う榴弾砲弾の炸薬は10kgにも満たない。その破壊力の意図が破片であるか爆圧にあるかは、さて置き、爆雷だって十分有効だろう。
仮に前回の戦いであれば、深海棲艦の隊列のど真ん中に爆雷を落とせれば、それなりの戦果を得られたのでは、ないだろうか?
それこそ、弾着修正さえ出来れば、結構いけそうだが。
あー、またそれって、俺が観測するって事ですかね?
分かります。
分かるんですけどね、もう少し良い案を考えたい訳ですね、はい。
その為に、迷宮行っていろいろ試してみた訳だしね。
「試したところ、新たな武装を創れれば、それを磯風や浦風が装備する事が可能だろう。・・・たとえば、魚雷とか。だが、魚雷を造り出したくとも、俺にはそのイメージが固められなかったし、もう一つ、魔力が足りないという問題もある。これら解決が出来れば戦える、とは思うのだが・・・」
無い物ねだり、ではある。
やはり、戦術から練り直す方が、良いかもしれない。
女神改め浦風は、腕を組み少し考え込むような仕草で、俺にその大きさを強調していたが(何をとは言わないが)、突然その視線を上げ俺を睨んできた。
や、見てませんからね!?
本当は見てたケド、ちょっとだけだから!
浦風は何やら顔を赤くして、俺を睨みつけながら言った。
「それがないと、あの女にゃぁ、勝てんとゆう事なんじゃのぉ。分かったんじゃ。魔力についちゃあ、この浦風に任せてつかぁさい」