「あんなぁ提督が、気になる?」
浦風は大ぶりなココアのカップに、鼻を突っ込む様両手で持って、ベレー帽の下から澄んだ青い目で、じっと、わたしを見ている。
わたしは新しい執務室に設えられた秘書艦席に座って、聞くとはなしに窓の向こう側から聞こえてくる、波音を準えていた。
たとえ色は変わりはて様とも、そこは自分のいるべき場所、艦娘である身にとって海は故郷の様なものと言っても良い。
先ほど司令官が『お前たちの装備の事で、妖精さんに相談してくる』と言い残して出かけた時、わたしも一緒に行きたいと思ってしまったのは、確かにそうかもしれない。
だが、その想いは、口にはしていない。
出来なかった。
司令はわたしに『もし敵が現れたら、まずは磯風が迎撃。出来るだけ距離をとって後退しつつ、時間を稼げ』との指示した。デート気分で司令に一緒について行く事など、命令違反に等しい。
・・・デート。
ち、違うのだ、わたしの装備の事なのだから、ちょっと気になって、一緒に見たいなと思っただけだ、うむ。
だから、わたしは何も言っていない。
今も浦風の問いに、ちょっとだけ、動揺が顔に出たかもしれないが。
口にもしてない事で、浦風も妙な勘繰りは止めてほしいものだ。
「な、何を言っている?わたしはただ、何時敵が現れるか、それを考えていただけだ」
思わず、浦風を睨んでしまった。
前世では、わたしは浦風の最後の瞬間を看取る事が出来なかった。わたしも浜風も被弾した金剛に掛かっりきりで、浦風の事には気が付けもしなかったのだ。
・・・でも、あの時も浦風は、わたしの事を見ていたのかもしれない。
「・・・わしもね、半分だけ艦娘になったけぇ分かる。わしが得たなぁ、ぶち大きな、強い承認欲求じゃぁ。多分、艦娘は皆そうなんじゃゆぅて思う。磯風の場合は、提督を自分の物にしたい、そう思うとるじゃろ?わしの場合は逆、わしゃぁ提督の物になりたい、保護されたい、そがぁな感じじゃて」
な、何か浦風の奴、サラっと怖い事を言ってないか!?
「でもの。わしゃぁ半分女神じゃけぇ、分かる。わしゃぁ覚えとるんじゃ。残念じゃが、わしらのこの恋は実らんの」
えっ?
「聞いた事ないかのぉ?勇者って、魔王を倒した後は、大方、ええ死に方はせんと」
「いや、待て。そもそも司令は、勇者なんかじゃ、ないだろう」
「そうのぉ。わしが召喚した勇者じゃぁ、なゆわぃねぇ。じゃったら何で、提督はわしらの使い方を、戦わせ方を知っとるんかしら?
あんなぁは、女神じゃったわしが、この世界に連れて来たんじゃ、なぃんじゃ。
もっと前から、この世界に存在しょぉったんじゃ。
きしゃっとゆうと、深海棲艦が生まれた時に、同時にこの世界に現れた。
深海棲艦と同時にこの世界に現れて、深海棲艦を負かして、役割が終わると消える。
そんな存在じゃと、思うんじゃ」
司令が・・・、消えてしまう?
浦風は、一体何を言って・・・。
わたしは、何時の間にか、机を回り込んできた浦風に抱きしめられていた。
何故か、頬を涙が伝う。
「泣かんでのぉ。わしらのこの想い、どれくらいが艦娘っちゅう存在に縛られた、嘘の想いなんじゃか。
そもそもこんな想いなんて、何の意味もないもん、なんかしら?
でもなぁ、もし悔いを残しとぉないんじゃったら、お互い言えるうちに、伝えた方がええかも、分からんのぉ」