『怪物と戦う者は、自ら怪物にならぬよう用心した方が良い。
あなたが長く深淵を覗いていると、深淵もまたあなたを覗き込む』
海岸線の絶壁に立ち、眺める景色は格別だ。
この世界にあんな怪物がいた事など、夢だった様な気になってくる。
以前に比べると、おどろおどろしい赤黒い海は、少しだけ青く見える。
元女神である浦風の見解では、深海棲姫の一人を倒した事で、少しだけ本来の海が持つ浄化作用が回復して来ているのらしい。
ただ、完全に元に戻らないのは、あの深海棲姫が全ての黒幕だった訳ではなく、この大洋の彼方に奴らの棲息地があり、そこに棲む深海棲姫こそが今世魔王だから、なのだそうな。
俺らが戦ったあの姫も、幹部ではあっても王ではなかった。
姫とは言っても、辛いねサラリーマンは。ちゃんと給料、貰ってたのかな?
戦争だから否応なく徴兵されて、安月給だったのかもしれないねぇ。
「提督、そろそろ帰らんと、磯風が心配するけぇ」
「ああ、帰ろうか」
隣の浦風を見る。
左手で、絶壁を吹き上げてくる海風に、ベレー帽を飛ばされない様に抑えている。右手は俺の左手を支えてくれている、というよりは単に抱き着いて、自分の大きさと柔らかさを誇示している、様にしか思えない。
止めて下さい、童貞には刺激が強すぎます!
い、いや、記憶がないだけで、前世では磯風と致シタはずだ、うん。
何故か、浦風との距離は、だいぶ縮まった気がする。
こ、これは、一種のつり橋効果だろうか?
毎日絶壁を一緒に散歩するとか、効果的なのか?
間違って転んだりしたら、無理心中になりそうなんだが。
あの深海棲姫との、戦いの最後。
足を止められた深海棲姫に、磯風の放った魚雷が次々と直撃し、さしもの戦艦棲姫も誘爆、爆散したのだそうな。
だそうな、と言うのは、弾着観測をしていた俺のそばに奴の主砲が着弾、そこから意識がなかったからだ。
後でその話を聞いて『はて、磯風は魚雷を装備してた、かしらん?』と気になり聞いてみたところ、真っ赤になった磯風に怒られた。
胸ぐらを掴まれながら、助けてくれる様に浦風にも視線を送ったが、浦風も視線を逸らし首を振るばかり。役に立たん奴だな、オイ。
多分、元から持ってたのに、装備出来る様になるのが遅れて、恥ずかしかったんだな。
それって、八つ当たりじゃん!
たっぷり一時間は正座で説教されたのだが、目の高さに磯風の生足(右足が特に桃色面積が大きいです、ハイ)があるので、良く聞いてなかった。
いや、聞いてはいたんだが、こう、右耳から左耳に抜けていったというか。
今度、機嫌が良い時にでも、また聞いてみようとは思う。
そろそろ、日が傾いてきている。
もうすぐ晩飯時か、って、浦風お前、何でここにいる?
「お、おい、まさかとは思うが。磯風が一人で、晩飯を作っているのか?」
「心配いらんよ。うちがついておるから」
いや、だから、俺についてたって、ダメでしょ?
「いやいやいや、前回も俺のだけ真っ黒だから、何でって聞いたら『司令の分には、特に忠誠を込めた』って言い切ったんだぞ?」
あれは、酷かった。
因みに、磯風自身と浦風の分は『手を抜いたから』真っ黒とまでは、いかない程度で済んでいた。
「提督さん、今日も元気じゃねぇ。ふふっ♪」
そういう問題じゃない!
俺は暗澹たる思いで、磯風の待つ鎮守府への道を歩いていった。
第2章、完
第2章、完
つづく、です。。。多分。