俺は、かつて『提督』だった。
『「提督」だって? あぁ、ルトビア辺りの海軍さんかい? ・・・と、ルトビアに、海はねぇか? まぁ、お前みたいな若造が「提督」だなんて言っても、なぁ? もうちっと、まともな嘘を付けねぇと、女は口説けねぇぜ?』
誰に言っても、信じて貰えない。
言ってる自分でさえ、今一つ記憶が曖昧で、信憑性がない事だとは分かっている。
だが、薄っすらとだが、覚えているのだ。
『気合!入れて!行きます!』
『出撃よ!さて、如何出てくるかしら?』
『えっと、あの、江草隊の整備に支障が出ちゃうから。あ、と、で・・・』
『天山はー、って、あれ?んっ、提督?格納庫まさぐるの止めてくれない?んっ、っていうか、邪魔!』
『ったく、どんな采配してんのよ、本っ当に迷惑だわ!』
皆、俺に厚い信頼を寄せてくれていた。
・・・最後のだけは、ちょっと違う気もするが。
兎に角、俺は毎日々々、苦しく厳しい戦いの日々を過ごしていた。
兵站が不足し、かと言って食糧を買う金さえなく。
否、部下に満足に食わせる事も出来んのに、自分だけ食ってて如何する!?
・・・単にカップラーメンを買う金もないだけ、だったのだが。
今は顔さえ思い出せないのだが、俺の為に戦ってくれている部下たちの事を、勿論皆を愛していたのだと思う。だが、これは当時の部下たちには絶対に知られてはいけない事なのだが、真に俺が愛していたのは唯一人、まだ見ぬ『磯風』という名の少女だけだった。
けして、あの駆逐艦らしからぬ胸部装甲に埋もれたかった訳でも(そもそも、最初はソンナニ育っていないハズだ)、何故か片側だけ長い靴下(左足ね!)を履いた、鋼鉄のハイヒールに踏んで頂きたい(何処を?)とか、そんな風に考えていた、訳ではない、多分。
ただただ、一目惚れだった。
だから、俺はあの闘いの日々、毎日々々、(色んな意味で)無謀とも言える出撃を繰り返した。
そして確か、そう、彼女に巡り合える可能性のある、ごく限られた期間の最終日。
メンテナンス前の、これが全力出撃が可能な、最後の機会。
ついに、彼女に会えたのだ!
きっと俺の日頃の行いが良かったのだろう、クリアと同時に俺は、その少女に出会い、そして。
そして、・・・そこで、全ての記憶が、途切れている。
しかし。
冷静に、考えてみると。
今にして思えば俺の前世は、腹上死だったのでは、なかろうか?
経過を、というか、そこに至る年齢イコール彼女いない歴の、最後を飾る瞬間の記憶がないのが、何とも口惜しい。
だが。
そこは俺の魔術士に必要な才能の一つである、想像力(妄想力とも云ふ)で補うとするならば。
あの狭い部屋では、その万年床さえ十分な広さを確保出来なかった部屋の中では、やはり座ってスルしか、なかったのではないだろうか?
対面だったのか、背面だったのか。俺の妄想力を以てしても、悩ましいところではあるが。
それはとても重要な問題だが、問題は、ソコじゃない。
ティッシュ・ペーパーを引き抜く音さえ聞こえる、アパートのベニヤの様な壁では、彼女のその可愛い顔に似合わぬ激しい喘ぎ声が、隣どころか、一階の大家さんにまで聞かれたかもしれない。
(普段は、ヘッドホンでした)
俺が腹上死(なんだ、俺、ちっとも腹の上じゃ、なかったじゃん!)した後、残された彼女はとても困ったのではないだろうか?
合鍵を持った大家の婆さんが怒鳴り込んできた時、彼女は、まだヌルヌルネトネトの裸体を喘がせながら、それこそ、まだ俺の死にすら気付かず、更なる高みを求めていたかもしれない。
これでは婆さんに『さては貴様の正体、妖怪サキュバスだな!?』と、衛兵に突き出されていたやもしれぬ。
あ、衛兵はこちらか。あちらでは警察ですね。
お巡りさん、こっちです。中学生をアパートに連れ込んでる奴は・・・、否、大丈夫、俺は死んでるから許されるハズ。
やはり逮捕されたのは彼女だけ、だったのだろう。
・・・だとしたら『磯風』には、まずは、ちゃんと謝っておかなくては。