友人枠だが百合に挟まれと圧力が来ている。 作:杜甫kuresu
百合の名物「受けを拐かすダメなお姉さん」を召喚したく候。
――――が、予想より長くなりました。
「ヘルメス様、こんなお早くからどちらへ?」
露天商がヘルメスを見るなりギョッとする、いやお前そりゃ気持ちはわかるが女の子見てギョッとすんなよな…………。
シュヴァルリンというのがヘルメスの任された土地な訳であるが、首都から近くて意外と栄えているのが特徴の街だ。露天が大好きなやつが多いのか、思わぬ掘り出し物とか奇抜なアイテムに事欠かない。
加えて享楽好きが多いので昼から酒を飲むバカ、謎の移動楽団、よくわからん手品師、とりあえず娯楽が多い。騒がしいのが街の長所です!って自己PR以外不可能な次元。
珍しく目尻を下げたヘルメスが気前よく返事する。
「少し待ち人が居てな、彼女を迎えに行く」
「へぇ~、やっぱ当主様ってそういうの忙しいの?」
話を聞いていた子供が尋ねてくる。親が頭を下げさせようとしたがコイツ、そういうの全く気にしないからな。
しゃがみ込んで目線を合わせて返事をする、政治的手法以外で上から目線は好まない女だ。
「まあ忙しいな。君なら目を回して倒れてしまうだろう」
「やっぱヘルメス様って凄いんだな~」
おっとそれは違うぜボウズ、横入りする。
「凄くはないぜ? この前も寝ぼけて俺のこと「パパ」って呼んだからな、ヘルメス様は割とふつーの女の子だぞ」
「なるほど。にーちゃん、いいネタ持ってんじゃん。良いと思うぜ」
サムズアップにはサムズアップで返す。コイツはビッグになるぜ、俺が保証する。
「だろ?」
「カトー!」
ちぇっ、怒られた。お前をもっと親しみ深くしてやろうという俺のローバ心が貴様には解せぬというのか。
無理矢理引き離されるといつもどおりガミガミと説教が始まる。
「どうしてそうおかしな事を人に吹き込むんだ! 仮にも当主だぞ、私は!」
「でもここでまで凍血大公、なんて呼ばれちゃ忍びないので…………嫌じゃないんですか」
うっ、と図星を突かれたらしき声をだす。SEを自分で付ける癖といい、世間様はこのポンコツお嬢さんのどこを見て「凍血」などとおっしゃっているのやら。
俺から見たら基本アホの子なのだが…………。
何だかもにょもにょ覇気のない声で色々お叱りなさっていたようだが、俺は全く聞いてなかった。というか周りのおっさんども笑ってるぞ。
「しかし、アストラさんはなしてあの人が苦手なんでしょうね?」
話を聞いてないのがバレて肩をがっくりと落とされた。
「話を聞け…………確か、あの人を見ていると”おかしなものが見えて怖い”と言っていたな。嫌いではなくて、むしろ好ましくは思うようだが…………その”おかしなもの”のせいで怯えてしまいかねないと」
「おかしなもの、ねえ」
まあ言わんとすることは分かる。あの人は何ていうか、キャラと纏ってる雰囲気が一致してねえ。
時々怖気だつ。凄く良い人なんだがな、本当に何だか”変な感じ”は俺もする。実はあんまり近寄らないほうが良いタイプの人種なのかもしれない。
ヘルメスも心当たりはあるのか、それ以上言わない。
次に人の声が聞こえてきたのはおずおずと出てきた商会のおっさん。おどおどしてるがまとめ役としては物怖じしないという変わり者で、恰幅が良いから何というか、ほんとタヌキ。あんまり悪い意味じゃなくて、小動物的なタヌキ。
「ああ、ヘルメスちゃん――――――さんかい。お早いものだ」
「…………ちゃんでも構いませんよ、おはようございます」
ああ、とおっさんも遅れて挨拶。すかさずヘルメスが尋ねた。
「貴方は善良だが、目上に意味もなく話しかけない人だ。どんな御用で?」
「――――――うーむ、心苦しいですな。ですがそういう要件になります」
俺は袈裟がけした大太刀を、ヘルメスは腰に備え付けた剣の所在を確認する。
「寄り道どころじゃねえよなあ…………アストラさんになんて言い訳しようか」
「しかし困る者がいる。私達が出向くのが早いだろう」
ノリで木刀の柄の位置とか確認したけどさあ、これよく考えたら当主とついてきた掃除ガチ勢がやる仕事じゃない。
どうやら不動産の皮を被ったロクデナシさん方を何とかしたいという話だったようだが、ヘルメスもなんで安請け合いするのか。戦う当主とかラノベかよ。
とか考えてる内にいきなり扉を乱暴に開ける。マジで? 俺ヤダよ喧嘩とか、ある意味ニガテだし。
「失礼する。ルチアーノ家、現当主のヘルメスだ! ここの取締役に会わせてもらおう」
「ヘルメスさん!? 捻ろうぜ、直球か!?」
その後無事、待ってたら銃を構えたおっさんどもが出てきました。
生まれて初めて俺らは息ぴったりでテーブルの手前を蹴って壁代わりに叩き起こした。何のアクション映画だよ。
「いや~、あの組長さんが寛容でよかったな? 俺らが木剣で相手してなかったらアンタも首ねえぜ?」
このまま行こうとしたら「どうせ勝つんですから木剣で穏便に! ね!?」と凄い念押しされた。それはそうとデブだなこの社長殿。
勿論木剣で頭を殴るぐらいはしたが、大柄なおっさんからひょろいおっさんまで今は一階で寝てもらってる。まあたんこぶくらいで済んで良かったと思ってくれ、マジで。
ヘルメスに溜息をつかれる。
「貴方は殺す寸前までやっただろうに…………私が止めなければ数人は今頃葬儀の準備中だ」
「いや~すみません。殺すか殺されるかのやり合いしかほぼしてこなかったもんで」
「チクショウめ! 来んじゃねえ!」
あんな軍隊出身だと構成員は大抵殺す気でやるし、そもそも加減できるほど実力もねえし。
社長のおっさんが無様にショットガンなんて構える、ヘルメスが木剣を捨てて静かに鉄の方の剣を抜き出したので苦笑いしながら目逸らししてます。
キレる前に俺から言っとこ。
「なーおっさん。アンタのミスは大きくわけて三つある」
「一つ。あこぎな商売したこと、ありもしない重税でっち上げるのは結構だが、バレないように長く吸い上げな。商売が下手」
「二つ。ヘルメスの態度に武力で答えたこと。何なら追い出すだけで済んだかもしれないのに下の階はあのざまだ。何人かしばらく体イッタイぜー、アレは」
「三つ。銃ごときで俺達に勝てると思ったこと。腑抜けのカトーって名前ぐらい知ってるだろ? ルチアーノ家も元々武力でのし上がったのが発端、腕っぷし弱いわけねーだろ?」
ここぞとばかりにイキっておく。ほら、悪人で負け犬相手ならどれだけイキっても無罪放免だし。
実際この世界、割と本気になれば剣が銃とまだギリギリ拮抗してる。というのもアウトレンジから殴るって戦法に慣れてないから手法が上手く出来上がってない。
特に闇社会のやつなんて、最近まで武器作ってボロ儲けしてただけのそれこそ”腑抜け”だし。殺しのイロハなんか知ってるわきゃ無いわな。
こんだけ言葉でもボコボコにしたのにまだ言い返しよる。元気な豚おじさんだ。
「うるせえよ、騙される方が悪い。負け犬は吸われるだけだ、俺はそうだったし今後も世の中そうやって廻ってくんだよ!」
「――――――成る程な、一理ある」
引き金を引く前に銃口が凍りつく。
ヘルメスが銃口から引きずりあげて胸ぐらを掴んだ。
「だが私の領地でその理屈が通ると思うなよ…………っ!」
「おいおい、熱くなりすぎだヘルメス。ちょい待て――――――」
足音に思わず振り向く。
「まだ生き残りが居たかボケ!」
峰で思いっきり顔面を打ち込む。
少し目を離したスキにおっさんが銃を構えてる。不味い。
ヘルメスが不味いんじゃなくて、あのおっさんがヤバイ。
「ハッ! こんなんで感情的になるんじゃテメエの下についてるヤツもたかが知れてるってもんだ!」
「――――――――死にたいらしい」
嫌な予感に思わず走り出す、予想通り剣がおっさんの喉元に伸びていく。
ダメだ、距離が全く間に合うもんじゃねえ! アイツカッとなったら勢いで――――――!
ぐさり、と聞き心地の悪い音。思わず目をつむる。
「はいはい、其処までですよ」
聞き慣れた女の声。刹那に肉の抉れる音と剣が明後日の方向に飛んでいく音、あんまり予想と違いすぎた音につむっていた目を少しずつ開く。
ヘルメスと男の間に女が左手を挟んでいた。左手は湧いて出てくるみたいに血が流れていて、手の形からどうやら剣を受け止めたらしきことは分かる。
男も、もちろんヘルメスだって呆然としてる。指先から顔を見るに、古臭い軍帽から流れるような長い乳白色の髪。間違いなく”あの人”だ。
固まる俺達に鮮血色の瞳がキョロキョロとせわしなく動く、大人びた人形みたいな顔つきにそぐわぬ小動物じみた仕草。見た目以上に特徴的だ。普段はそんな事がないから、時々そういう事をすると妙に目立つ。
「え? 私何かおかしな事をしましたか?」
「手…………」
俺が目を伏せながら指差す。すごい血が出てます、はい。
多分そんな事は全く気にして無くて、言われてから自分の左手を見ながら
「ああ、これですか。治りますよ、そのうち」
なんて朗らかに笑って手を振る。
同時に剣も持たずに目を見開いて立ち尽くしていたヘルメスが膝から倒れ込む、固まってた足を急いで走らせて抱き抱える事に成功。
ヘルメスは背中を丸めて今までからは想像もつかないほど震えていて、俺の声が届くかもやや怪しい。
「お、おい。大丈夫か?」
「ごめんなさい…………ごめんなさい…………」
どうやら剣を彼女に刺したことが相当ショックだったらしい、突然泣き出したかと思うとそのまま顔を覆ってしまう。
――――いやあ懲りねえなあ。ホント、男は懲りずに今度は女の方に銃を構えた。
明らかに死角だったはずだが、彼女は振り向くわけでもなく唱える。
『止まりなさい』
響くような声。必死で男が引き金に力を込めているがさっぱり人差し指は動いてない。本人が一番動揺しているのか、動かない腕を振り回して歩み寄ってくる女から逃げていった。
情けなく後ろに後ずさっていた男を彼女は呆れるように見下ろしていたが、とうとう机にぶつかって逃げ道がなくなった。冷や汗をダラダラ流す男に向かって仕方なさげに喋りだす。
「あのですね。貴方を助けて差し上げたのは貴方の為ではなく、ヘルメスさんの為です」
「な、誰だお前!? 気色わりい!」
「リリィ・フォン・カラキア。貴方達が『救国の聖女』と勝手に呼んでいる人間です」
右手で懐から大仰なキセルを取り出しながら、カラキアが淡々と続ける。
「貴方の論理で生きていらっしゃることには、もちろん何ら文句は言わないけれど――――――」
一息置くと、口をそっとつけたキセルからシャボン玉みたいな妙な泡を吹きこぼす。こんな時に何やってんだ、この人?
「私の居ない所でしてくださるかしら、はっきり言って目障りですので」
「次は助けてあげませんよ?」
助けない。他人行儀に聞いた言葉にゾワリとする、何だこれ。この人やっぱ何か変だ、唯の人間って感じがしない。
俺の方から顔は見えなかったが、恐らく嗤っている。鳥肌のたった男が弱々しく尋ねた。
「ア、アンタ何なんだよ…………」
「私ですか? 何だと思います?」
男はガタガタ震えて何も言わなくなった。どんな顔したらあんな馬鹿が怯えるんだよ。
謎が解明されないままキセルをしまうと、こっちにゆっくり歩いてくる。
怯えきったような状態のヘルメスをしばらく見つめていたかと思うと、申し訳なさそうに力なく笑われる。俺に笑ってもどうにもならないと言うか。
「その…………ごめんなさい。上手くは行かないものね、一応最善は尽くしたのだけれど」
「あ、いや。まあ」
「とりあえず外に出ましょう、ここは危ないですから」
言われるままに急いで扉を後にする瞬間、彼女が急いで閉じた扉の向こうからとんでもない隙間風が吹いてきた。というかあれは隙間風なんだろうか。扉がガタガタ軋むぐらいの風が吹いてたみたいだし、というかどうやったんだアレ。やっぱりあのシャボン玉だよなあとは思うが。
俺はあのシャボン玉が何なのかについて――――――まあ、怖すぎてとうとう聞かずじまいだったりする。
新キャラに心当たりがある人、正直に手を上げなさい。いつもありがとう。
他作品の主人公を当然のように出張させました。百合要素は次回たっぷり有るので今回は我慢してね。
ヘルメスについて一応補足。彼女はルチアーノ家と領地を守るためだけに頑張ってる健気な子なので、そこで不条理が起きたり侮辱されると尋常じゃない勢いで怒ります。公的な場でも問題を起こしかけるレベル。
どうしてここまで読みましたか
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主従百合と聞いて
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ギャグと聞いて
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ファンタジーと聞いて
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R-17.9と聞いて
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明らかに苦労枠の男がいると聞いて