雨をつれてくる男   作:破月

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予約投稿です。

拙作が何度か日間ランキングにお邪魔させていただいているようで。
嬉しさと信じられなさで、目を疑いつつ頬を抓る今日この頃。
こんなに高評価をいただくのは初めてで、戦々恐々としております(笑)

感想も、有難く読ませていただいております。
返信もしたいのですが、今後の展開をボロっと溢しそうなので、遠慮しておきますね……。

そんなわけで10話目ですが、この後の展開が難産です。
さて、どうしたものか……。

2019/07/21 加筆修正

冒頭過去話
それ以降原作軸
無限列車乗車まで


拾 走り梅雨

 誰かが言っていた。――幸せは、血の匂いと共に壊れていくのだ、と。

 

 

「あぁああ゛ァあああ゛ア゛ァァアアッ!!」

 

 

 瞳孔が縦に割れ、赤く染まった瞳に涙を浮かべて叫ぶその鬼を、呆然と見つめていた。鬼の足元には、首から夥しい量の血を流す父と、祖父母が倒れている。おそらく、生きてはいないだろう。例え生きていたとしても、そう遠くなく命を落とすはずだ。

 父を、祖父母を喰らった鬼は、屋敷の手伝いの者すら喰い尽くしてなお、満たされぬ欲を持て余して叫んでいた。

 

 

「――母さん、」

 

 

 蚊の鳴くような声を拾い上げた鬼は、喜々としてその凶悪な爪牙を差し向ける。…けれど。その鋭い爪が、牙が、柔く細い喉笛に届く前に、強い藤の香りが目の前を覆った。

 

 

「立て!!」

 

 

 視界いっぱいの黒と、濃厚な血の匂い。死に体だった父が最期の力を振り絞り、鬼の前に躍り出たのだ。ほんの一瞬だけ鬼の目に灯った理性の光。それを横目に、父の声を合図にその場から駆け出した。

 

 

「生きて、」

 

 

 か細い、()の声に背を押され、転げるように。崩れ落ちそうになる膝を叩き、ただひたすら走り続けて。

 

 

「(――――母さん、父さん……っ)」

 

 

 その日、少年は初めて雨を呼んだ。

 

 

****

 

 

 十二鬼月は、上弦と下弦とに分かれている。順番としては、上弦の壱・弐・参・肆・伍・陸、下弦の壱・弐・参・肆・伍・陸。一番強いのは上弦の壱、一番弱いのは下弦の陸。下弦の鬼たちは片目しか数字が刻まれておらず、上弦の鬼たちからは蔑まれてるという。

 鬼舞辻無惨は、己の血を分け与えた者の思考を、読み取ることができる。姿が見える距離なら、全ての思考の読み取りが可能。離れれば離れる程、鮮明には読み取れなくなるが、位置は把握している。そう、()()()()()()()()()のだ。つまり、禰豆子が産屋敷邸に連行されたことは、鬼殺隊にとって深刻な事態だった。

 通常ならば、禰豆子が来た時点で産屋敷の本拠地は、鬼舞辻に知られていた。しかし今、鬼舞辻はそれを把握できていない。()()()()()()()()()()()()()、鬼舞辻の呪いを()()()()()()()()()()()、まだ()()()()

 

 

「下弦の伍である累が殺された。殺したのは柱に次ぐ実力者の男だ、あの男は既に死んだものと思っていたのだが……まあ、それはいい」

 

 

 艶やかな女がそう宣う。苛立ちの込められた声音に、女の前に伏す鬼たちは顔を青褪めさせ、冷や汗を掻く。

 

 

「私が問いたいのは一つのみ、『何故に下弦の鬼はそれ程まで弱いのか』。十二鬼月に数えられたからと言って終わりではない、そこから始まりだ。より人を喰らい、より強くなり、私の役に立つための始まり」

 

 

 訥々と、女は語る。鬼たちは身を縮こませ、より一層顔色を悪くするばかりだ。

 

 

「ここ百年余り、十二鬼月の上弦は顔ぶれが変わらない。鬼狩りの柱共を葬ってきたのは、常に上弦の鬼たちだ。しかし、下弦はどうか?何度入れ替わった?」

 

 

 そんなことを俺たちに言われても、と一人の鬼は思う。その思考を読んだかのように、女が続く言葉を催促する。殺気交じりの視線と共に先を促された鬼は、思考が読まれたことで、余計なことは考えまいとする。しかし、それも巧くはいかず、いたずらに、女の神経を逆撫でるだけに終わった。

 

 

「何がまずい?言ってみろ」

 

 

 否とも応とも言えずに黙り込む鬼を、女は変質させた腕で吊り上げる。泣き喚く鬼の言葉など一顧だにせず、女はその鬼を喰らった。他の鬼たちはなす術もなく、息を殺して黙している。次は己の身が喰われるのかもしれない。そんな不安さえ抱いた。

 

 

「私よりも鬼狩りの方が怖いか」

 

 

 その問いに、別の鬼が否と唱える。

 

 

「お前はいつも鬼狩りの柱と遭遇した場合、逃亡しようと思っているな」

 

 

 さらに、追い詰める様に女が言う。鬼はその問いにも否と答え、女のために命をかけて戦うとさえ言った。けれど、女はその言を認めない。

 

 

「お前は私が言うことを否定するのか?」

 

 

 それが答えだった。恐怖のあまり涙した鬼を、無情にも貪り喰らう。また一人、下弦の鬼が減った。また、別の鬼は絶望のあまり逃亡を図ったが、気付けば頸を斬り落とされ、女の手の内にいた。

 

 

「もはや十二鬼月は上弦のみで良いと思っている。下弦の鬼は解体する――――最期に何か言い残すことは?」

 

 

 蜘蛛の糸にも思える言葉に、縋った鬼はまだ役に立てると猶予を望んだ。女は具体的な答えを求め、鬼は女に血を求めた。しかし、それは悪手だ。手に持った頸を放った女は、血を求めた鬼を睥睨して言う。

 

 

「なぜ私がお前の指図で血を与えねばならんのだ、甚だ図々しい。身の程を弁えろ」

「……!違います!!違います!!私は」

「黙れ。何も違わない。私は何も、間違えない」

 

 

 命運は尽きた。女は冷え切った声で鬼の言葉を遮った。全ての決定権は己に有り、己の言うことは絶対であると。お前に拒否する権利はなく、己が“正しい”と言った事が“正しい”のだ、と。故に。

 

 

「お前は私に指図した。死に値する」

 

 

 そして、下弦の鬼は()()になった。

 

 

****

 

 

 結局、何の対策も浮かばぬままその日が来た。

 今日、炭治郎たちは蝶屋敷を発つ。昨夜、しのぶが経過観察のついでとばかりに、知らせてくれたのだ。

 なんでも、炭治郎に“ヒノカミ神楽”について聞かれたが答えられず、お詫びに炎柱へと繋ぎをつけたのだと言う。その炎柱からも返事が届き、今日、駅で待ち合わせとなっているそうだ。鬼の調査のついでに話を聞こう、ということらしい。

 その後は汽車内で起こる人減りについて、炭治郎たちと調査する。つまり、それは。

 

 

「――さて、どうするかな」

 

 

 炎柱――――煉獄杏寿郎の死が、直ぐそこにまで迫ってきている、ということだ。この事実を覆すことは、不可能ではないにしろ、とても難しいだろう。錆兎やカナエが生き延びたという変化がもたらす影響よりも、遥かに大きな影響があるのではないだろうか。

 とはいえ、錆兎とカナエの生存が何にも影響を与えなかった、という訳ではない。錆兎が生きていることで、冨岡はほんの少しばかり口下手が改善された。カナエの生存は、良い意味でしのぶを吹っ切らせた。

 それでも。冨岡が一言どころか、二言も三言も足りていないのは常のことで。鬼と仲良くしましょうと言いつつ、しのぶは内心怒りをぐつぐつと煮滾らせている。それは、変わることのない事実だ。

 閑話休題(それはともかく)

 本来の筋道に沿うことの良し悪しを考えるべきだ。本来の道筋を辿れば、今後の流れの把握は難しくないし、炭治郎たちが悔しさをばねに飛躍することが出来る。逆に、煉獄という強力な戦力を失うことになり、目の前で煉獄を失った炭治郎と伊之助の心に傷を残すことにもなる。

 一方で、道筋を逸れたらどうだろう。煉獄が生き残る。それによって、いずれ起きる鬼舞辻の産屋敷邸襲撃時に、こちらの戦力が一つ増えることになる。()()()()()()()()の季節も合わせれば、二つ増える。十分な増強、と言えないのが悔しいところだが。

 だから、季節は悩んでいた。それこそ、()()()()()()()()()()()()()、ずっと悩み続けている。

 

 

「いや……悩んでることこそが、答えか」

 

 

 隊服の襟を詰め、綺麗に畳まれていた羽織に袖を通しながら、季節は苦く笑った。

最後に、狐の面に手を伸ばして。

 

 

「うーん、今日はやめておこう」

 

 

 生憎と、今はまだ、雨が降りそうにない。

 

 

****

 

 

(竈門炭治郎)

 

 善逸、伊之助と一緒に蝶屋敷を後にし、鎹鴉から教えられた駅に着いた。しのぶさんに頼んで連絡をつけてもらった炎柱の煉獄さん。会うには“無限列車”という汽車に乗らなければいけないらしいのだけど、指定された汽車がどれか分からない。

 そうこうしている内に、まだ指令が来ていないことに善逸が騒ぎ、あまりの人の多さに慣れず静かだった伊之助が汽車を見つけて騒ぎだす。そのうち、伊之助が汽車に頭突きをして駅員さんが集まって来てしまった。さらには、刀を所持している事が駅員さんにばれて、警官まで呼ばれそうになる始末。

 慌てて逃げて隠れ、俺が伊之助の刀を隠している間に、善逸が汽車の切符を買って来てくれた。善逸がすごい頼りになって、ちょっとだけ見直した。善逸に渡された切符を仕舞い、ようやく見つけた待ち合わせの汽車に乗り込む。

 

 

「うおおおお!!腹の中だ!!主の腹の中だ、うぉおお!!戦いの始まりだ!!」

「うるせーよ!」

「確かにうるさいねえ。列車の中では他の人の迷惑にならないよう、静かにするように」

「そう――――えっ」

 

 

 騒ぐ伊之助、一喝する善逸、そして善逸に同意したのは。

 

 

「季津さん!?」

「やあ」

 

 

 蝶屋敷にいる筈の季津さんだった。俺達が出発する時に、見送ってくれていたのに、どうしてここにいるのだろうか。伊之助の頭を被り物の上から押さえつけ、ニコニコと笑っている。……ん?何とも言えない違和感に、季津さんの顔を見つめていると、善逸がエ゛ェーーーッ!?と声を挙げて季津さんを指差す。

 

 

「季節さん!?嘘でしょお面は!?」

「あっ!」

 

 

 善逸が声を裏返しながら指摘した。確かに、いつも着けているお面がない。狭霧山で一度だけ見たことのある、季津さんの素顔が惜しげもなく晒されていた。

 整った顔立ちに、柔らかな新緑の色をした右目。それと不釣り合いなのが、抉られたような傷痕が残る左目。その下に隠れている瞳は白く濁り、何も映すことはない。良い意味でも、悪い意味でも人の目を惹く容姿をしている。

 見ていてあまり気持ちの良いものではないだろうから、とお面の下に隠されていた素顔。それを、どうしてはずしているんだろうか。別に悪いという訳ではないけれど、どういう心境の変化があったのか少しだけ気になる。

 不思議に思って首を傾げていると、季津さんと目が合った。しぃっ、と口許に人差し指を当てて笑う。その顔があまりに穏やかだったから、俺はなにも言わず頷いた。




鬼舞辻 無惨
 鬼の首魁、ラスボス。全ての鬼の生みの親。パワハラに定評のある、恐怖政治型上司。ジャイアニズムが服を着て歩いているような存在。男性、女性、あと子供の姿を季節のことは五年前に殺したと思っていた。しかし生きていたからと言って、大して脅威とは思っていないが、はたして……?
 美人上司は憧れるけれど、絶対に部下にはなりたくないと作者は思う。
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