雨をつれてくる男   作:破月

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予約投稿です。

2019/07/21 加筆修正

冒頭二つ独白
それ以降原作軸
無限列車-戦闘開始


拾壱 入梅すれば

「雨が嫌いだった。何もかもを攫って、洗い流してしまうようで」

 

 

 まるで丸裸にされている気分だ、と。そう言って、その人は顔を顰める。冬の雨と同じ名前を冠しているくせに、随分と矛盾したことを言うのだな、と思った。反対に、梅雨入りの雨と同じ名前を冠する己は、雨が好きなのに、とも思ったことを覚えている。

 

 

「“だった”、と言っているだろうに。話を聞かん奴だなお前は」

 

 

 整った顔立ちに剃髪、若草色の瞳、洒落た着流し。そして、右に差した刀と、片耳の欠けたお面を引っ掛けた人。雨の日にだけ現れる、魂だけの彷徨い人。

 

 

「今は、雨が好きだ。雨は良い、匂いが薄れるからな」

 

 

 嗅ぎたくもない、嫌な匂いを流してくれる。若い時分はそれが嫌で仕方が無かったのに、年を重ねるごとにありがたく思えて来た、と。そう言って、名も知らぬ、けれどどこか懐かしいその人は、清々しく笑った。

 

 

****

 

 

 鬼の首領、鬼舞辻無惨の血をふんだんに与えられ、夢心地でその鬼は嗤う。もっと血が欲しい。鬼舞辻の血が欲しい。なればこそ、殺してみせよう。花札の耳飾りの子供を、柱を、そして――。

 

 

「――ッ、津衣鯉」

 

 

 ハッとした。いけない、鬼の本能に呑まれてしまうところだった。頭を振り、先程までの考えを振り払う。この身は鬼に堕ちても、心はこれ以上堕ちぬと決めていたのだ。あの日、父母を、夫を喰らった、その時に。

 

 

「…早く、私を殺しにお出で……津衣鯉」

 

 

 息子に殺されるその日まで、絶対に、鬼には堕ちきらぬ(母であろう)と。決めたのだ。

 

 

****

 

 

「柱だっけ?その煉獄さん。顔とかちゃんとわかるのか?」

 

 

 善逸の問いに、大丈夫だと炭治郎が答える。伊之助は見当違いの方向へ行こうとしたため、炭治郎が着せた羽織の襟元を季節が掴んで引き摺っていた。するとまもなく、うまい!うまい!と繰り返している声が聞こえて来る。それを聞きながら、相変わらず声が大きいなあ、と季節は呟いた。

 声の方へ近づいていくと、目的の人物が弁当を食べていた。しかも、一つや二つではない数の空の弁当箱が、綺麗に積み重なっている。

 炭治郎と善逸が引いていたが、季節はこれを上回る大食らいの存在を知っているため、可愛いものだなとしか思わない。さらに、善逸は、本当にこの人が?という顔で季節を見上げてきた。頷くに留めて、うまい!うまい!と連呼する男を見やる。本当に相変わらずである。

 計十一箱の弁当を空にした男――――煉獄は、困惑する炭治郎たちにこう言った。

 

 

「うまい!」

「あ、もうそれは…すごくわかりました…」

 

 

**

 

 

 乗務員の女性たちが空箱を片付けるのを手伝いながら、季節は炭治郎の話を聞いていた。一介の炭焼きでしかなかったはずの父が、なぜか「ヒノカミ神楽」――――火の呼吸を使っていたこと。そのため、火の呼吸の使い手に聞けば、何か分かるかもしれないということ。

 しかし、しのぶ曰く、「火の呼吸」は存在せず代わりに「炎の呼吸」が存在し、「炎の呼吸」を「火の呼吸」と呼んではならないと聞いたこと。詳しい事は炎柱である煉獄に尋ねると良い、と言われたことを掻い摘んで説明した。

 それを聞いた煉獄は、一拍置いて、そういうことかと頷いた。だが、知らんと。

 

 

「“ヒノカミ神楽”という言葉も初耳だ!君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいが、この話はこれでお終いだな!!」

「えっ!?ちょっともう少し…」

「俺の継子になるといい、面倒を見てやろう!」

「待ってください!そしてどこ見てるんですか!」

 

 

 キャッチボールが失敗しているどころではない会話に、季節は思わず笑みを浮かべた。にやつく口元を隠す様に手をあてて、二人の様子をそっと窺う。あれで、煉獄本人の中では会話が繋がっているのだ。確かに突拍子もないことを言いだすが、ちゃんと理に適ってもいる。

 思っていることを言葉にせず、本当に思っているだけの冨岡に比べれば可愛いものだ。気付けるかどうかは、勿論慣れもあるのだろうけれど。炭治郎の話が落ち着いたとみて、今度は煉獄が自身が持つ知識を話し始めた。

 

 

「炎と水の剣士は、どの時代でも必ず柱に入っていた。炎・水・風・岩・雷の五つが基本の呼吸だ!他の呼吸はそれらから枝分かれしてできたもの。霞は風から派生し、雨は水から派生している」

 

 

 煉獄の言葉に炭治郎が確認するような視線を寄こすので、頷いてやる。ちなみに、正確には、雨は水単一の派生ではなく、水と雷を掛け合わせたものである。しかし、それを言及する必要はないだろうと、季節は黙っていた。

 

 

「溝口少年、君の刀は何色だ!」

 

 

 誰だよ、溝口って。炭治郎のことであるのは確かだが、全く掠っていない名前に笑いを禁じ得ない。炭治郎に申し訳ないと思いつつ吹き出し、その子は竈門だよ、とやんわりと煉獄に教えてやった。

 一瞬、煉獄は目を見開いて季節を見たが、炭治郎が黒、と答えたことで視線を外した。恐らく煉獄は、季節が、季節である事に気づいていなかった。隊服を着ていることから、鬼殺隊士であることは分かっていただろう。だが、煉獄は季節の素顔を知らなかったために、声を聞くまでは気づかなかったのだと考えられる。狐面の効果は、意外とすごい。

 

 

「黒刀か!それはきついな!」

 

 

 きついんですかね。ワハハ、と声を挙げて笑う煉獄の横顔を見つめながら、炭治郎は尋ねた。すると煉獄は、黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない、と言い切った。どの系統の呼吸を極めればいいのかもわからないのだ、と。確かにそんな話を聞いた覚えがあるな、と呟いた季節に、炭治郎も言葉を失ったようだった。

 列車が動き出し、立っていた季節も席に腰を下ろす。煉獄の目の前に座った季節は、煉獄からの突き刺さるような視線を無視して炭治郎に言う。

 

 

「俺の刀も、他と違う色に変わったからね。水の呼吸がてんで駄目だった、って訳じゃない。けど、雨の呼吸を会得してからは型にはまった感じがしたかな」

「そうなんですね」

「そういうわけで、炭治郎。君は煉獄の所に行くといいよ」

「どういうわけです?」

「そうだな!俺の所で鍛えてあげよう、もう安心だ!」

「面倒見がいい人ですね……?」

 

 

 会話がひと段落すると、ところで、と煉獄が切り出した。

 

 

「初めて拝見したが、季節は随分と顔が整っているのだな!」

「え…初めて…?」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、宇随の方が整ってると思うよ?」

「いやいや!宇随に負けてはおらんさ!初めて任務を共にするが、顔を見られるとは思わなんだ!」

「え!?初!?」

「俺の呼吸は雨雲を呼ぶからねぇ…炎を起こす煉獄とは相性悪いし」

「然もありなん!!」

「それより誰か窓から身を乗り出してる伊之助(この馬鹿)を叱って!?」

 

 

 情報過多で混乱している炭治郎を横目に、伊之助の背中にしがみ付きながら叫んだ善逸に季節が頷く。

 

 

「そうだね。鬼がいつ出てくるか分からないし、大人しく座っていた方がいいと思うな」

「彼の言う通りである!!」

「――――え?」

 

 

 サアッと。善逸は血のひく音が聞こえてきそうな程、一瞬で顔を真っ青にさせた。そして思わず伊之助から手を離し、季節と煉獄へと詰め寄った。鬼の居るところに向かっているのではなく、この列車に鬼が出るのだと分かると、案の定降りるのだと騒ぎだした。

 そんな善逸は放置し、煉獄は、短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明になっているのだと説明した。

 

 

「数名の剣士を送り込んだが、全員消息を絶った!だから柱である俺が来た!」

「俺も似たようなものかな。鎹鴉が指令を持ってきて、慌てて君たちを追いかけたんだ」

「はァーーッなるほどね!!柱が二人も!!そりゃあ大事ですね!?降ります!!!!」

 

 

 顔を青くしたばかりか、涙まで流し始めた善逸。けれど、煉獄も、季節も気にすることはなかった。それよりも、煉獄は季節がこの列車に乗っていること自体が不思議でならなかった。

 

 

「別の鬼を探していたのではなかったか」

 

 

 そうだとも、と季節は答えた。そして、恐らくこの列車に乗っているだろう、と続ける。

 

 

「鎹鴉が言っていたんだ。それに、俺も、何となくそうなんだろうなと感じている。……血を分けた母子(おやこ)だからかな?」

 

 

 だから、と。常に面の下に隠れていた素顔に笑みを乗せて、季節は煉獄に言う。

 

 

「俺は俺の責務を全うする、君は君の責務を全うすると良い」

 

 

 煉獄の肩越しに生気のない車掌の姿を見つけると、季節はすぐさま立ち上がって移動を始めた。急な行動に炭治郎が驚いていると、季節の気配が希薄になり、瞬きの一瞬でその姿が消える。柱合会議でも目にした光景だ。

 どこに、と首を巡らせたところで車掌がやって来て、切符の確認のために手を伸ばしてくる。ふと、鼻を擽った嫌な匂いを確かめようとした時には、全てが遅かった。

 

 

「拝見しました……」

 

 

 車掌の声を背中で聞き、炭治郎たちが夢の世界へと旅立ったのを見送った季節は、自らの目的のために動き出す。

 

 

「……煉獄を死なすまいと思って来てみれば、」

 

 

 何の偶然だろうか。本来であればこの場に存在しない季節がいるから、例の鬼もまた、この列車に乗ったのだろうか。それとも、これがこの世界での正しい道筋だったのだろうか。そんなことを考えながら、潜めていた息を深く吐き出し、背中に隠していた刀に手を伸ばす。

 

 

「まさか、こんな所で再会するとは思わなかったよ」

 

 

 乗客の居ない最後尾車両に、その鬼は居た。窓際に座り、飛ぶように流れていく景色を見つめるその姿は、五年前どころか十数年前の姿とも変わりない。――――否、変化は確かにあるのだろう。その目の色や、鋭い爪や犬歯など。変わっていない訳が無いのだ。

 込み上げてくる苦い何かを唾と一緒に飲み込み、己の方へと視線を寄こしたその()に切っ先を向ける。

 

 

「――――――――母さん」

 

 

 ()は、嗤って季節(息子)を迎えた。




竈門 炭治郎
 原作主人公。ひたすら「えっ」と言わせたいだけだった。戦闘はまるまるカットされるが、怪我の程度は原作通り。この後、上弦がスタンバってるとは思ってもみない。

我妻 善逸
 汚い高音のスペシャリスト。でっかい傷があるけど、季節さんめっちゃ整った顔してる(イケメン)じゃん許せない(羨ましい)。禰豆子ちゃんは俺が(ry

嘴平 伊之助
 猪突猛進ボーイ。常にテンション高め、話を聞かない。窓から身を乗り出すのは危ないからやめなさい、飛び降りて競争するのも駄目です、大人しくしてなさい。
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