雨をつれてくる男   作:破月

12 / 26
読めばわかると思いますが、作者は戦闘描写が下手くそです。
頑張ろうとして空回り、穴掘って埋まろうかと思うほどには下手くそです。
それを念頭に入れてお読みください。

2019/07/21 加筆修正

冒頭独白
それ以降原作軸(オリジナル展開)


拾弐 麦雨降る

 人は、眠っている時に夢を見る。夢の中では、人物や物事が機能するのを感じ取ることができるが、それらは実体を伴っていない。夢の中の物事には機能だけがあり、構造がない。また、夢の中に登場する人物や物事は、その夢を見ている本人の意思とは関係なく機能する、という意味で自律的だ。

 夢は自律的であって実態が伴わない、一種の模擬実験(シミュレーション)と考えていいだろう。夢の自律性は、模擬実験の器官である小脳の自律性を表しているのかもしれない。眠っている間は意識が弱くなり、視覚からの情報入力が途絶えるため、内部の模擬実験が活発になった時に、夢を感じ取るのだろう。

 夢と同様に、実体を伴わない人物や物事を、目覚めている時に感じ取ったとすると、それらは幻と呼ばれる。人の意識は、起きている間、感覚を通じて外界の物事に向けられている。しかし、意識状態が低下している時、つまり外界への注意が散漫になっている時には、意識はその人の内部情報に影響されやすくなっている。

 人の内部には、様々な記憶や想像上の物事が存在していて、脳は記憶や想像を自律的に模擬的検証を行う。そして人は、それらを外部に実体を持った存在であるかのように錯覚する。目覚めている時に感じ取る内部の模擬実験が、幻と呼ばれる。

 ――――と、小難しい話をしてきたが、ようは“夢”と“幻”は似て非なるものだということが分かればいい。実体ではないもの、頼りない儚いもの、ぼんやりとしたもの。それが夢であり、幻だ。ところで君は今、目覚めているのだろうか。それとも、眠りの中にいるのだろうか。

 

 

「それによって君の身に起きていることが、何なのか変わってくるだろう。果たして夢なのか、現実なのか、それとも幻なのか」

 

 

 さて、どれだと思う?

 

 

****

 

 

 雨の呼吸は、水の呼吸と雷の呼吸から派生した。どう派生させたのか、それを知るのは会得者の季節だけだ。だが、何ともなしにその二つの呼吸を思わせる技がある。それが、水の呼吸拾壱ノ型改め、雨の呼吸壱ノ型“神立”である。彼の()()()()()によって呼び出された雷雲を利用した、稲妻のように速く、恵みの雨のように慈悲深い、一撃必殺の抜刀術。

 ちなみに、現在、雨の呼吸の型は未完のものを除き、二つしか存在しない。壱ノ型“神立”と、もう一つ。炭治郎が一瞬で季節の姿を見失うことになった訳。雲もなく降る細かい雨――――弐ノ型、“天泣(てんきゅう)”である。

 

 

****

 

 

「逢えて嬉しいわ、津衣鯉」

 

 

 切っ先を向けられてなお、その鬼は笑みを浮かべてみせた。津衣鯉、と呼ぶ声は甘く艶やかで、愛情すら滲んでいる。その声に、嫌悪感を抱くようになったのはいつからだろう。目の前の鬼が、母から鬼へと変貌した時だっただろうか。いや、五年前に対峙した時か。それとも、今、この瞬間からかもしれない。

 

 

「俺も、貴女に会いたかった」

 

 

 季節がそう言えば、鬼は笑みを深くして嬉しい、と言う。けれど、鬼と季節の感情は行き違い、絶対に交わる事はない。何故か、と問うまでもない。元は人であろうと鬼は鬼、そして季節は鬼殺の剣士だ。禰豆子のような特殊な存在でもない限り、鬼と鬼殺の剣士の間に和解など有り得ない。有り得てはいけない。――――それでも。

 

 

「貴女を憐れむことくらいは、赦されるだろか」

 

 

 その言葉に、鬼は意外そうな顔をした。問答無用で斬られるとばかり思っていたからだ。我が子の不器用な優しさに、心の底から愛しさと誇らしさを感じた。――――故に。

 

 

「はやく、私を殺して欲しい(貴方を食べたい)わ」

 

 

 相反する思いが溢れ出る。その瞬間、二人の距離は詰まっていた。油断などという愚かなことはしない。全集中“常中”によって身体能力を極限にまで高め、この一刀に全てを懸ける思いで刀を振り抜く。手応えは――――ない。まるで霧のように、鬼の姿は揺らめいて消えた。一瞬目を瞠り、すぐさま周囲に目を走らせる。…いつからだ。いつから、鬼は血鬼術を使用していた。

 

 

「津衣鯉、貴方は誰と逢いたい?お爺様(お父様)お婆様(お母様)?それとも――――お父様(あの人)かしら?私が逢わせてあげるわ、言ってごらんなさい?」

「――――ッ!!」

 

 

 カッと、目の前が赤くなるほどの怒りが湧き上がる。刀を握る手が震え、唇が戦慄く。…少しだけ、期待していたのかもしれない。十数年前と五年前、わざと季節を逃がしたような素振りがあったから。鬼となり人を喰らうようになろうとも、心までは鬼には堕ちきることはないはずだと。……信じて、いたかったのに。

 勝手なことだが、酷く裏切られた気分になった。勝手に期待して、勝手に失望した。そんな資格など、ないのに。初めから分かっていたことだ。自身に都合のいいことが起きる筈もない。

 分かっている。分かっていた。だからこそ、個人的な感情に振り回されるのは、今日、ここで終わりにしよう。そうしなければ、きっと、季節は前には進めない。

 

 

「…貴女の頸を斬る」

 

 

 背後から伸びてくる腕が、季節を柔らかく抱きこむ。

 

 

「やってみせて」

 

 

 季節の背中を押すような、励ますような声だった。温もりは一瞬で消え、客車に霧が立ち込める。五年前も、この霧に苦しめられたのだ。あの日、後ろに弟弟子と二十人余りの一般人を庇いながら戦った。一般人を避難させるのではなくその場に留まらせたのは、広範囲に広がる霧の濃さが原因だった。

 何とか鬼を退けることができたが、季節は重傷を負った。弟弟子と駆け付けた数名の隠に一般人たちを任せ、藤の花の家に全力疾走したあの日が懐かしい。全て伝えきる前に昏睡したのは、流石に情けなかったが。

 鬼の霧、これが原因だ。自然発生する霧とは違い、鬼が生み出した霧は噎せ返るほどの血の匂いがする。ねっとりとまとわりつくような、嫌な匂いだ。五年前よりも強く薫る鉄臭さに眉を寄せる。

 鬼の強さは、五年前と比べるまでもないだろう。人を喰らえば喰らう程、強くなるのが鬼だ。そして、この鬼の血鬼術はそれすら反映する。一体どれだけの人を喰らったのか、胸糞が悪くなる。

 反対に、季節は五年前ほどのキレはなく、精細さを欠く。しのぶにも、刀を使った訓練は筋力を戻してから、と言われていた。それでも、やらなければならない。折角、己の鎹鴉である万代が齎してくれた機会だ。ふいに出来る筈がない。

 刀を鞘に納め、腰を低く構える。そして、短く息を吐き出した。

 

 

「シィッ!」

 ――――雷の呼吸壱ノ型、“霹靂一閃”

 

 

 落雷のような音が響く。季節が繰り出した後にも、同じ音が六連続いた。おそらく、善逸だろう。いよいよ眠り鬼との戦いが始まったに違いない。ここで費やせる時間も、そう多くはない。

 

 

「そこに私は居ないわ」

 

 

 季節の死角、見えない左目の方から声が聞こえた。弾む様な、からかい交じりの声だ。チッと舌を打ち、軸足に力を入れて方向を転換する。その勢いのまま拳を振り抜くが、当然手応えはない。

 左目が見えないのに合わせ、面を常につけているため、視界不良には慣れているつもりだった。実際、五年前は面を着けていた状態でもそれなりに戦えていたのだ。しかし、広範囲に広がるのではなく、客車に充満する濃霧にはさすがに歯が立たないと感じた。

 その上、彼方此方から鬼の声が響き、狭い客車だと言うのに、鬼がどこにいるのかもはっきりとしない。万策尽きた、と思わないでもない。この状態でどうにか鬼を出し抜けるとしたら。

 

 

「(()()を使うか…?)」

 

 

 切り札がない訳ではない。完成には程遠いが、水の呼吸伍ノ型“干天の慈雨”を改良したものがある。干天の慈雨は、相手が自ら頸を差し出してきた時にのみ使う、斬られた者にほとんど苦痛を与えない剣撃だ。

 季節が水の呼吸で最も得意とするのがこれだ。故に、改良できないかと考えた。相手が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

「(…悩んでる暇はないな)」

 

 

 濃霧の奥から不規則に飛んでくる鬼の攻撃を躱しながら呼吸を整える。肺いっぱいに鉄臭さが広がるが、気にする余裕はない。五年前に抉られた左目が、ぴりり、と痺れを訴えた次の瞬間、鬼の顔が目の前にあった。偽物だと勘が囁くので無造作に振り払うと、呆気なく霧散していく。

 酷いわ、と言う声が聞こえた。酷いのはどっちだ。死んだ祖父母や父の姿を幻で見せ、それを季節に斬らせるのだから質が悪い。例え斬った手応えが無くても、いい気はしない。

 

 

「(終わりにしよう)」

 

 

 何度目か数えるのも億劫なほど、父の姿をした幻を斬った時、唐突にそう思った。その瞬間。

 

 

「ッ、」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「雨の呼吸、参ノ型」

 ――――“仁恵の虎雨(こさめ)

 

 

 気付けば霧は晴れていて、刀は半ばほどから綺麗に折れていた。血溜まりには頸のない体が沈み、その傍らには鬼の頸を抱えた父の姿がある。不思議なことに、右目には父の姿が映らず、左目にだけ映っていた。果たしてこれは、夢かうつつか、それとも幻か。

 

 

「と、うさん」

 

 

 季節の声に、父はにっこりと笑って頷いた。音もなく、良くやったお疲れ様、とその口が紡ぐ。その時だった。全身を襲う激痛に息を呑み、ハッと()()()()()

 

 

「……どこから、」

 

 

 客車の床に転がり、天井を見上げながら呟く。いったい、どこからどこまでが現実で、どこからどこまでが夢、幻の類だったのか。確かなことは、左目の視力は皆無で、鬼の体が既に灰になりかけているということ。ドン、という地鳴りのような音が聞こえて、右目に煉獄の顔が逆さまに映った。

 

 

「やったか!」

「うーん、そうらしいね」

「煮え切らぬ返事だが、結果は明らかだ」

「…うん、そうだね。その通りだ」

 

 

 ――――()は死んだ。例え、季節自身が確信を持てなくても、それが事実だ。




煉獄 杏寿郎
 もりもり弁当を食べて、炭治郎との言葉のキャッチボールをあえて失敗させていた人。最後尾車両に季節母子(おやこ)がいたので、原作と違い担当した車両数は4。それでも多い事には変わりない。無事使命を果たした季節を労わっているところ申し訳ないのだが、現段階では、生存ルートか原作ルートか。まだ分からんぞ?油断大敵!

季節 津衣鯉
 ()を討ち取り、ひとまず肩の荷を降ろせた当作主人公。この後、上弦の鬼との戦いが控えているが、ぶっちゃけ面倒くさいから来ないでほしいと思っている。なんなら、さっさと帰還して婚約者とのんびりしたいとすら思っている。しかし、作者は主人公に受難を与えるのが好きなので、これで終わる筈がないのは確か。
 元雷柱のお爺様のもとで一年ほど修行した事があるが、生憎と善逸同様壱ノ型しか習得できなかった。しかし、壱ノ型習得後に雨の呼吸の手がかりをつかんだので実質±0どころかプラス要素しかない。お爺様には、「雷の呼吸の使い手としては最低限以下の素質しかもっていない」と言われてちょっとしょっぱい顔をしたのは余談である。

・雨の呼吸 壱ノ型 “神立”
 雷の呼吸と水の呼吸を合わせた技。雷雲がないと使えないという欠点があるが、条件がそろえば一撃で相手の頸を狩る。まさに一撃必殺神速の抜刀術。

・雨の呼吸 弐ノ型 “天泣”
 簡単に言えば隠形の術。ちなみに、天泣とは天気雨のことである。雲がないのに雨が降る。つまり、ないのにある。返せば、あるのにない→(そこに)在るのに(居)無い、的な?

・雨の呼吸 参ノ型 “仁恵の虎雨”
 水の呼吸伍ノ型の改良版、鬼が自ら頸を差し出さずとも、心の中で懺悔を示す、あるいは死にたいと思っていれば、その刃は届く。未だ完成には至らず、今回成功したのは奇蹟に等しい。今後登場する可能性は低く、この話のためだけに考えた感すらある。
 ちなみに、虎の雨、という名前の雨があったりする。興味がある方はググってみてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。