評価や感想も嬉しいです、きちんと読ませていただいております。
感想でご指摘いただいてることに関しましては、まあ、その……ね?←
肆までは五巻までの内容をざっくりと書きました。
伍以降は、じっくりと話を進めていく予定です。
2019/07/20 加筆修正
冒頭は独白
炭治郎視点から原作軸
柱合会議
――事後処理部隊、
鬼殺隊と鬼が戦った後の、始末をする部隊。構成する隊員は、剣技の才に恵まれなかった者たちが殆んどである。
――柱とは。
鬼殺隊の中で最も位の高い、
盛りを迎えた夏草の上に、恵みの雨が降り注ぐ。強すぎず、弱すぎず。多くもなく、少なくもなく。俄雨と言うには雲が厚い。豪雨と言うには雲が薄い。
「津衣鯉」
そんな空を、縁側に腰掛けて見上げ、薄っすらと笑っていたその人は。
「なぁに?父さん」
もう、この世にはいない。
****
(竈門炭治郎)
目が醒めた時、真っ先に目に入ったのは、お面をつけた横顔だった。
「おはよう、炭治郎」
左目の下に雫が三つ描かれた狐のお面をつけた人。季節さんは、目を覚ました俺にそう言った。剣士にしては細い手指が俺の髪を梳き、トントン、と二度額を軽く叩く。
「そろそろ膝を返してもらってもいいかな?」
「えっ」
「少し痺れて来た」
「えっ、アッ!?すみません!!」
一瞬、膝を返して欲しい、と言われて頭が理解を拒否した。続く言葉を聞いて、どうやら俺は、季節さんに膝枕というものをされていたらしいことを知った。その事に思い至ると同時に飛び起き、体中の痛みに声を挙げて蹲る。
えっ、痛い。凄く痛い。何だこれ。あまりの痛さに、涙が滲んできた。無理して飛び起きるから、と頭上から笑い交じりの声が聞こえる。季節さん、と呼んだ俺の声は情けなく震えていたけど、本当に体が痛いんだから、仕方がない。
「治療してやりたかったんだけど、時間がなくてね。そろそろ皆が集まる頃だろうから、行こうか」
「えっ」
何だろう。俺、さっきから“えっ”としか言ってない気がする。
「行こうか」
「ど、どこに?」
挙動不審な俺に、季節さんはにっこりと笑う。お面をしていても分かる。今、季節さんはすごい笑顔だ。しかし、その目は笑っていない。
「行 こ う か」
「――――はい」
詳細を明かされぬまま、圧に負けた俺は季節さんの後ついていく。…そういえば、ここはどこなんだろう。
「ここは産屋敷邸。鬼殺隊を率いるお館様――産屋敷耀哉様の邸宅だ。所謂、鬼殺隊の本部ってやつだね」
前を向いたまま、季節さんが言う。俺の疑問を見透かしたようなその言葉に首を傾げると、困惑してる匂いがする、と続けて言われた。そうか、それなら納得だ。季節さんは、俺のように鼻が利くらしい。
「とはいえ、鱗滝さんとか炭治郎とかと違って、感情の匂いしか嗅ぎ分けられないんだけど」
鬼が嗅ぎ分けられれば楽なのに。それは、有り余るほどの落胆の感情が込められた囁きだった。それから、庭園に面した座敷に着くまで、俺と季節さんの間に会話はなかった。
「――――遅えっ!!」
そう言ったのは、とても派手な格好の人だった。
玉砂利が敷き詰められ、丁寧に整えられた庭木が美しい庭園に、あまりにも不釣り合いな存在が数名。隊士なんだろうけど、見覚えのない人ばかりだ。その人たちから少し離れたところには、冨岡さんがいる。
「裁かれる側が何の拘束もされていないというのは、なんとも不思議な話ですね」
「この子が何かしようとしたら俺が抑えるから問題はないさ、しのぶさん」
「遅刻の上、病み上がりが随分と派手に粋がりやがる」
「確かに遅刻もしたし病み上がりだが勘は鈍っていないぞ、宇随」
「無事のご生還お祝い申し上げる!!しかし、俺も遅刻はどうかと思う!!」
「ありがとう、それから遅刻したことは素直に謝るよ、煉獄」
「(季節さん…元気そう、良かった…)」
「そんなに見つめられると些か気恥ずかしいな、蜜璃さん」
「あぁ…
「相変わらずぶっ飛んだ思考をしてるようで、安心したよ悲鳴嶼」
「…何だっけあの形の雲、季津は知ってる…?」
「うん、覚える必要はないが、あれは塔状雲というのさ、無一郎」
「拘束と言うなら、季節。お前と富岡も拘束されてしかるべきだろう」
「悪いことをした覚えがないが、さて、どうしようかね伊黒」
「――――、」
「立派に柱を務めているようで、兄弟子として鼻が高いよ、義勇」
かわるがわる。小気味よく。ここにいる全員と言葉を交わした季節さんからは、白々しい匂いがする。相手の人も、その白々しさに気付いているのか、目が怖い。
一触即発の空気に、咄嗟に腰に手を伸ばして空振り、刀がない事に気が付いた。そして、禰豆子がいないことにも。
「オイオイ本当に起きてきたのかよ!死にぞこないがご苦労なことだなァ!!」
「……君は、お館様の前以外でも取り繕うことを覚えた方が良いね、不死川」
敵意のある声と、匂い。季節さんの匂いも変わり、ほのかな苛立ちを薫らせる。面があることで表情の変化は分からないけれど、季節さんは確かに怒っていた。いつもは雨の匂いの他に、湖面のように穏やかで静かな匂いがするのに。それがどこかに消え去って、不死川と呼んだ人に怒りを向けている。
何故だろう。そう思った瞬間、不死川さんが手に持つそれに意識が引っ張られた。――禰豆子の箱だ!無意識に動いた俺の体を、季節さんが止める。肩に爪が食い込むほど強引に。
「鬼を連れて来るなんて、ふざけたことしやがったのはどこのどいつだ?…てめェか?季節ィィ!!」
「ああ、俺が連れてきた」
「あ゛ァん?」
俺は思わず、季節さんを振り返った。理由は分からないけれど、俺を庇っているらしい。
「俺が頷くとは予想外だったか?」
眉を寄せて、不死川さんは季節さんを睨み付ける。
「この屋敷に鬼を連れてくるのは御法度、確かにその通りだ。ここにいるのが、
「……あ゛?」
「君が持つ箱に入っている鬼は、
「――――はァ?」
何を言い出すんだろうか、この人は。俺や不死川さんだけじゃなく、この場にいた全員が、そんな顔をしていた。
「だから殺す必要はない」
「…んな話はしてねェ。俺は、鬼をつれてきた愚か者は誰かって聞いてんだよォ…!!」
頬を引き攣らせ、地を這うような声で、不死川さんは言う。季節さんは気にした様子もなく、コテリ、と首を傾げた。
「だから、それは俺だ」
「っざけんな!?鬼をつれた隊士はてめェの横にいる餓鬼のことだろうがァ!!そいつ以外にこの鬼をこの屋敷連れ込めるやつがいるか!!」
「さっきまで炭治郎には意識がなかったし、鬼の箱を持ってくるよう隠に指示したのは俺だ」
「ッ!!ッッ!!!!」
うわぁ、と。言葉では言い表せないほど凶悪な顔をしている不死川さんを見て、何人かが顔を引き攣らせる。
「先んじてお館様から許可もいただいている。だから――」
不意に、雨の匂いがした。
濡れた土と草の匂い、少しだけの生臭さ。ざわりと空気が動いて、空に雲が集まってくる。気のせいだろうか。季節さんの体の周りを、小さな水の玉が渦巻いて昇っていくように見えた。そして、その姿が消える。
「返してもらうよ。大事な弟弟子の、大事な妹が入っている箱だからね」
ほんの一瞬の出来事。季節さんの手には禰豆子の箱が抱えられている。一呼吸の間に箱を取り戻したらしい、全く見えなかった。他の柱の人たちも、季節さんの動きを追えていなかったようで。数人が顔をしかめ、宇随さんが流石、と口許を歪める。
手元から箱を奪われた不死川さんは、怒りの匂いを強く、濃くさせると、刀に手を掛けた。けれど、それが抜かれることはない。不死川さんより速く、季節さんが抜き身の刀を不死川さんの首元に突きつけたからだ。
「お館様がいらっしゃるまで、まだ時間がある。刀で語り合うのもいいが、俺達には立派な口があるんだ。話をしよう不死川、俺が昏睡していた間のことを聞かせてやるよ」
酷く寒々しい声だった。
「臨死体験と言うものをしたんだ」
不死川さんの返事を待たず、季節さんは話し始める。俺と出会った時のことだろうか。でも、五年も昏睡状態だったというから、五年分の話をするんだろう。少しだけ興味を引かれつつ、季節さんから禰豆子の箱を受け取る。季節さんは刀を修め、周囲を見回してから口を開いた。
「最初の一年は、隊士たちについて回った。その中で、実体がなくても雨は降らせられる、ということが分かったから、腹いせに宇随に頻繁について回った」
「任務中やたらと雨が降ってたのはてめェのせいか!!!?」
「正直すまなかったとは思っているが、後悔はしていない」
「あ゛あん!?」
格好が派手な宇随と呼ばれた人が激怒する。
「二年目は、宇随に付きまとうのも飽きたから、しのぶさんの屋敷にいた。人には触れなかったが物には触れたからね、屋敷の掃除とか備品の整理をしていたかな」
「洗濯物の乾きが悪かったので感謝しづらいです」
「ううん…それは申し訳ない」
「はい」
しのぶさんと言う人が笑顔で毒を吐いた。
「三年目は、川の傍にいた。何ともなしに眺めていたら、声を掛けられたんだ。“強く生まれた者としての責務がまだ残っているのですから、早くお戻りなさい”とね」
「――――うむ。その通り、まだ責務を果たしきってはおらん!」
「最低でも、母の頸を落とすまでは死ねないよ」
「それから先も生きねばな!」
煉獄さんとやらが、柔らかく目を細めた。
「四年目は――――鬼舞辻を探していた。北に南に、東に西に。何の手掛かりも掴めなかった。途中、鬼と遭遇することもあった。……物に触れるくせに、どうしてか刀には触れなくてね。目の前で人が鬼に喰われているのに、何もできないんだ。あれは、本当に頭にきた」
「は!!そいつは昏睡してたてめェが悪ィ!!ザマァ見やがれ!!」
「君は本当に口が悪いな?」
「てめェに言われる筋合いはねぇ!!」
箱を取られた腹いせか不死川さんがいい顔で笑う。
「五年目に育手が暮らす狭霧山に行った。そこに炭治郎がいたから、稽古をつけてね。あとは……お館様がご存知のことだから、別に、君たちに語る必要はないかな」
「――――そうだね、津衣鯉」
頭がふわふわするような、不思議な高揚感を抱かせる声が、聞こえた。