平穏と不穏
これは、マキがウルトラマンノアと分離したすぐ後―――
二人の仲間アンゲル、リーゼと共に地球にやってきたときのことである。
マキは目を覚ました後、再開を果たした二人の仲間に、彼らが眠っていた間の出来事を話して聞かせていた。
「―――と、いうわけで宇宙は救われたんだ」
「へぇー、私たちが意識失ってるあいだに、そんなことになってたんだね」
「それで、ここはどこなんでしょう」
アンゲルがキョロキョロと辺りを見回す。小高い丘のようなそこからは、遠くまで街並みが見渡せる。
マキが何かを察知し、遠くに目を凝らす。
すると、遠くから高速で近づいてくるものがある。それはいくつかの宇宙で見かけた人間の発明品、車だ。どうやらこの宇宙の地球にも、御多分に漏れず人間が暮らしており、文明もそれなりに発展しているようだ。
道路を走って車は、マキたちのいる方へ近づいてくる。
黒くて武骨な印象を与える車は、マキたち三人のいる丘の近くに停車した。
「マキさん、リーゼさん、あれはいったい……」
「俺が様子を見て来よう」
アンゲルとリーゼを待たせ、マキは車に近づく。
車からは一人の青年が降りてきた。
「この辺のはずなんだけどな……おや」
マキに気づいて青年が手をあげる。マキはやや警戒しながら話しかける。
「こんにちは。俺はマキ。ここには来たばかりなんだが……あなたは?」
「どうも。僕はゴダイ・マドカ。神話研究学者だ、よろしく」
そう名乗った男をマキは観察する。ラフな格好に身を包み、眼鏡を着けている。いかにも知的そうな風貌だ。
一方、マキは旅のものと言わんばかりのぼろい布を纏っている。アンゲルは黒い衣装をまとっておりまだマシだが、リーゼは赤いアーマーのようなものが装着されたスーツを着ている。
つまり我々三人は、どう見ても怪しい。傍からみれば不審者も同然だ。今までは宇宙崩壊の危機を前にそんなことを気にかけてはいられなかったが、これからは服装にも気を使った方がよさそうだ。
そんなことを考えていると、マドカと名乗った男はアンゲルとリーゼにも手招きする。
「唐突な質問で悪いけど、君たちは……宇宙人かな?」
三人は顔を見合わせる。この男は、自分たちが宇宙人であると確信を持ったうえで、接触を試みてきたという事だ。当然、それだけの自信と力が無ければできることではない。
「どうしてそれを?」
「ああ、僕には少し特殊な力があってね。それで、君たちが宇宙からこの星に来るのが分かったんだ」
マキは今までの旅の経験から、この男が巨人の力を持っていると察知した。それは、以前出会ったウルトラマンダイナやルシファーとの決戦で現れた黄金の巨人に似たオーラを感じさせた。
「それで、私たちになんの用?」
リーゼがぶっきらぼうに聞く。マドカはそれを気に留めず、穏やかな口調で返答する。
「ああ、君たちが何の目的でこの星に来たのか知っておきたくてね。何せ、この星は五年前に怪獣たちにだいぶ痛めつけられたからね」
「それなら大丈夫です。ぼくたち三人は旅の途中でここを訪れただけなので」
そう話すアンゲルにマキは困ったように言う。
「しかし、俺の目的はもう終わってしまったし、石像もないから移動もできないんだが……」
そんな様子の三人に、マドカは提案する。
「こんなふうに地球に突然来る友好的な宇宙人は稀にいるんだ。良かったら住居とか紹介するよ」
亡命や観光、移住など様々な理由でこの星には宇宙人がやってくるようだ。それを、この国は秘密裏に許可しているようだ。
五年前に怪獣……邪神と呼ばれる存在に脅かされたこの世界だが、一方で巨人に助けられた。
これを受けて政府は、公にはしていないが友好的な地球外生命体を保護し、かなりの自由も与えている。
マキたち三人は、この取り決めに従って住居と戸籍を与えられた。しばらくはバイト生活に追われそうだ。
しかし、地球の危機の際に貢献すれば、特別手当が出るらしい。
巨人の力は失ったマキ。リーゼは格闘に優れ、アンゲルは光線の反射ができる。何もできないというのは歯がゆいものだ。
「でも、アンタは宇宙を救ったんだから、ちょっとくらい休んだっていいでしょ」
「僕たちが活躍して補助金をもらってきますよ」
こうしてマキたち三人は、ひとまず安息の地を得た。今まで宇宙を飛び回り、息をつく暇もなかった彼らにとってやっとつかんだ平和な生活であった。
この星には怪獣も出現せず、静かな日々が流れていった。時々、マドカは様子を見に来た。神話研究学者は暇なのだろうか。
その日も、マキはバイトを終え、国の支給した住居に帰ってきた。すると、別室のアンゲルとリーゼ、さらにマドカと知らない女性がリビングに集まっていた。テーブルを囲んで皆座っている。卓上には何かの資料。
「そちらの女性は?」マキが聞く。
「はい、私はミズオ・ユリカという者です」
女性がスッと立ち上がり、自己紹介をする。
「彼女は僕の知り合いでね。警察官なんだが、君たちのような……いわゆる宇宙人にも理解のある人だ」
マドカは眼鏡を拭きながらユリカを紹介する。
「それで、ミズオさんと貴方はどうして今日ここへ?」
その問いにマドカは、マキに資料を渡してから答える。
「最近、密輸や密売を主導していた裏ルートの異星人グループが横行していてな。警察が手を焼いていたそうなんだが……」
「先週から昨日にかけて、メンバーのほとんどが惨殺死体で発見されたんです」
ユリカは説明を引き継ぎながら、さらに資料を広げる。
「それならば大した問題ではありませんでした。確かに、惨殺という方法は問題ではありますが」
資料にはいくつかの写真と地図。事件現場のものだ。それには、この住居の付近のものもあった。
「一番の問題は、密売グループに所属していない宇宙人も殺害されていたことなのです」
「その人は、犯罪には?」
「全く関わりのない宇宙人たちでした……ただ」
「?」
「その宇宙人は、一般には侵略や悪事を行い、危険視されている宇宙人だったのです。バット星人や、マグマ星人のような……」
つまり、亡命や移住など、ただ地球にやってきた無実の宇宙人を、出身だけで危険視し殺害した。そして―――
「キール星人。リーゼさんも狙われる危険があります」
「そんな! リーゼはそんな悪事など」
思わず声を荒げるマキを、リーゼが宥める。
「まあまあ。たしかに、うちの出身はあんまり褒められたところじゃないからさ。でも、黙って殺されるつもりもないよ」
マキは落ち着いて、ユリカに聞いた。
「それで、犯人の目星はついているんですか」
ユリカは、さらに一枚の写真を取り出した。そこには、夜闇に紛れて犯行を行う赤い通り魔の姿があった。
血に濡れた槍を構え、その全身も赤に包まれている。
「これは……」
「レッド星雲・レッド星出身。その男の名は、レッドマンだ」
「ウルトラマンティガ 邪神の降臨」の世界編
スターシステムを採用し、拙作の「ウルトラマンティガ 邪神の降臨」の世界と登場人物を登場させました。
もうちょっとだけ続くんじゃ