ディズィーの素敵な冒険   作:オンドゥル大使

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ACT11「田舎に泊まろう 没テープ」

 

 ディズィーが行く場所は大抵、都会である。

 それは無論、彼女が有名人であるからなのだが、とある一つのトラブルが起因している事を読者の方々はご存知だろうか。

 ホウエンのローカル局が企画したあるテレビ番組のテープが編集部には届いている。

 私(N記者)はそれを開封し、再生してみたところ、五年ほど前に撮影されたものである事、テレビ局には納品済みのものでありながら本放送では使われなかった事を知った。

 いわゆる企画倒れ、というものである。 

 そのようなもの、星の数ほど見てきた編集部の私だったのだが、この企画の初期にディズィーが参加していた事を知って、私はそのテープを何回も観る事になった。

 どうやら、何回かに分けてその特集番組を組む予定であったのであるが、番組編成の都合で削除されてしまったらしい。

 私は証言と、このビデオテープを手渡してくれたF氏(彼は私と旧知の仲であり今でも飲み交わす)に謝辞を送ると共に、このビデオテープに刻まれた、おぞましき記録を紐解いておこうと思う。

 

 事の始まりはよくある田舎特集番組であった。

 田舎に泊まろう、というどこにでもありそうな番組スタンスである。

 私は最初の二回ほどなどは視聴途中に眠くなってしまうほど導入部も甘く、視聴者を取り込めない代物であったのに辟易したのだが、三回目からゲストを呼ぶ事になったらしい。

 それがディズィーだ。

 まだ、彼女がアングラロックバンドであった頃であり、化粧気も少ない。いや、ディズィーは元からだったか。

 ここに番組アナウンサーと彼女のやり取りを抜粋する。

『』がアナウンサーのものであり、「」がディズィーの言葉だ。

『いやー、ディズィーさん。晴れてよかったですね』

「オイラ、晴れ女だもんね」

『そんなディズィーさんに参加していただきます今回の田舎に泊まろう、ですが、やってきましたね。文明国カントーの南端。何物にも染まっていないという意味から付けられたという真っ白の町、マサラタウン。ディズィーさん、知っていました? マサラタウンは元々、マッサラタウンという名前だったんですよ?』

「へぇ、そうなんだ。何で変わっちゃったのかなぁ」

『何でも、ポケモンの権威であるオーキド博士のご先祖様、オーキド・マサラ氏の威光をたたえる意味で、マサラタウンと改名されたそうです』

「そりゃすごい」

 ここから先はどうとも知れない世間話が進むのだが、問題なのは開始二十分後である。

「ねぇ、あれ何?」

『あれ、ですか。あれはマサラマンションですよ。最近建てられたんです』

「ふぅん。マサラとマンションで二重にマがついてややこしいね」

 カメラが捉えたのはマサラタウンの背の低い建築物から異様に浮いている近代建築のマンションであった。

 他の家屋がシンプルな瓦なのに対して、マンションは黒色である。

 なおかつ、十五階建てでやけに目立った。

「日照権とか、あんなに高くってうるさくないの?」

『ところが、ですよ。このマンションはきっちりそういう事が保証されているんです。計算に継ぐ計算で造られた高層マンションなんですよ』

「へぇ。カナズミにもないや、あんな高いの」

 ここから世間話が挟まれる。本当ならばカットするべきものなのだがマスターテープなので入ってしまっているのだ。

『ディズィーさん、お邪魔してみます?』

「おお、行こう、行こう。だって田舎に泊まるんでしょ? あのマンションも田舎じゃん」

 カメラがその背中を追いかけて、アナウンサーとディズィーがマサラタウンを歩く。

 その道中、アナウンサーがディレクターにカットするように頼んでディズィーに言いやっていた。

『ディズィーさん、公私混同で申し訳ないんですが、妹がファンでして……。サインを』

「いいよ。サインくらい、スペシャルサンクス」

『やった!』

 公私混同するアナウンサーとディズィーはマンションに辿り着き、インターフォンを押した。

 しかし、誰も出ないのだ。

『あれー、おかしいですね。みんなお留守ですかね?』

「いや、それはないでしょ。洗濯物がある」

 二階のベランダに洗濯物がかかっていた。アナウンサーは持ち直してマンションの管理人にもちかけようとする。

 しかし、管理人室には誰もいなかった。

『あっれー、本当に誰もいませんよ?』

 アナウンサーがディレクターに確認する。ディレクターの電話連絡に管理人室の電話が鳴り響いた。

 ここでディレクターが変だと思いつつも回して(進めて)行くように指示している。

『では田舎に泊まろう、レッツラゴー!』

 アナウンサーがマンションのエレベーターに入り、ディズィーと共に揺られる。

 五階に辿り着いたが人っ子一人いなかった。

『変ですねぇ。洗濯物はあるのに』

「生活感あるのに何で人がいないんだろ」

 お互いに不可思議に思いつつも、ディズィーとアナウンサーは進んで行き、角部屋まで全部の部屋をいちいちインターフォンを押して回ったがやはり誰も出ない。

『お留守なんですかねぇ』

「マンション一戸が? さすがにそれはないんじゃないの?」

 ここでディズィーがディレクターにアポは取ったのか、と聞いている。ディレクターはアポを取った事、その指定時間も今まさに、だと説明した。

『じゃあ、行き違いなんでしょうか?』

「田舎だもんね。仕方ない」

 そのまま、ディズィーとアナウンサーはマンションを後にする。

 ディレクターは田舎に泊まろう企画が立ち折れる事を危惧してアパートを押さえておいたらしい。これからそこに向かうという。

『アパートかぁ。すいませんね、ディズィーさん。予算があんまりなんですよ、この企画』

「いいよ、そういうのは分かるし」

 歩いてアパートまで到着した二人とスタッフがカメラを窓際に置き、その場でじっと待った。

 ディレクターが何度もかけ直しているそうだが、微妙に話がかみ合わないらしい。

 スタッフがここで二人に話す。

 ――おかしいんですよ。さっきいたじゃないか、って言うんです。

「そりゃ、おかしいねぇ」

『おかしいですねぇ……あっ、ドッキリとか?』

 アナウンサーの言葉にディズィーも同調して笑う。そいつは違いない、と。

 しかし、もう一度訪れたものの、結局はなしのつぶてであった。

 マンションには誰もいないのである。

『おかしいなぁ』

「おかしいよねぇ」

 半信半疑の二人にディレクターは、では電話をかけながらもう一度マンションに入ろうと促した。

以下、ディレクターの電話記録を()で表記する。

『誰もいませんよ?』

(どうなっているんだ? 誰一人としていないじゃないか。なに? そんな事はないだと?)

「誰もいないし、それっぽい人陰もないよ?」

(だから誰もいないと……。なに、モニターを巻き戻して見ろって? 何を言っているんだ? ふざけているのか?)

『よく分かりませんがトラブルのようです』

「みたいだねぇ。いつだって割を食うのが現場なのはどこも同じか」

 ここでディレクターがうわっ、と声にするのがマイクに入っている。他のスタッフも同様に青ざめた様子でディズィーとアナウンサーを呼びつけた。

「どうした?」

『やっぱり無理ですか?』

 ――違うんです。よく見てください。

 カメラがそちらに向き、ディズィーとアナウンサーがモニターを覗き込んだのを克明に記録している。

 その瞬間、アナウンサーがその場で昏倒した。

 ディズィーは、へぇ、と興味深そうである。

「いつから観ていたんだ?」

 最初からですよ、とここで正体不明の声が入り、転がるカメラアングルと悲鳴が連鎖する。その中、撮影は打ち切られた。

 ブルースクリーンが後は残っているだけである。

 如何であっただろうか。これが、ディズィーが田舎の企画に呼ばれない、あるいは嫌煙されている理由ではないかと私は考えている。

 彼女は呼び寄せるのだ。

 だから、テレビスタッフの中でそれは通説のように語られている。

 私も話には聞いていたものの半信半疑であった。だが、このテープで確信する。

 ディズィーを告発するつもりはない。

 彼女の居場所を業界でなくそうだとかそういうつもりもない。

 ただ、この三面記事が一つでも目に留まり、彼女の評価を変える事を願っている。

 

(三月十日付けの週刊誌Yに掲載される予定の記事であったが、筆者共々、削除されている)

 

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