ディズィーの素敵な冒険   作:オンドゥル大使

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ACT17「【踊ってみた】メガヤドラン音頭」

 

「ゆるポケブームって言って、ディズィーさん、理解出来るかなぁ」

 スタッフの一人が漏らした不安に、ディズィーの担当者は笑い飛ばした。

「空前のゆるポケブームなんだって言えば、ディズィーさんだって社会人だ、分かってくれるさ」

「でも……」

 濁したのはこの企画にディズィーが乗ってくれるのか全く自信がなかったからである。

 担当者は打ち合わせ室でディズィーに会うなり、彼女へと早速切り出した。

「ディズィーさんに是非、やっていただきたい案件がございまして……」

「なに? オイラ、大抵の事はやるよ」

 どうやらディズィーは前向きなようである。スタッフは今回の企画書をディズィーに手渡した。途端、彼女の表情が曇る。

「メガヤドランの着ぐるみを着ろ、って?」

 担当者が嘘くさい笑みを浮かべながら企画概要を話し始める。

「今、空前のゆるポケブームなんです。その火付け役であるメガヤドラン、ご存知でしょう?」

「確か、ポケチューブの動画再生回数が世界一になったとかいう、あの?」

 担当者はじっくりと、ディズィーの手応えを感じつつ口にする。

「メガヤドランは世界的ブームなんです。知ったところで言えば、ディズィーさんもお仕事で縁のあるイッシュのバンドもこれにハマっているとか」

 担当者の声音にうまくいくかに思われた商談だが、ディズィーは渋い顔をする。

「で、これを着ろって言うのが今回の仕事?」

「中の人に、なってもらいたいだけなのです」

 これはある種、侮蔑に近いのではないのか、とスタッフは感じていた。有名人のディズィーに着ぐるみをやれというだけで充分に失礼だ。しかも、ただ単に世間の煽りに便乗したメガヤドランの着ぐるみをやれ、というのは随分と無理に思える。

 ディズィーはペンを片手に、テーブルをコツコツと叩いた。

「メガヤドランがすごいブームなのは知っているよ。女子高生とかがみんな、キーホルダーを持ってる」

「ご理解いただけますかね?」

「でも、それとこれは別だろ? オイラがメガヤドランやるのって、それっておかしくない?」

「無論、それなりのギャラは払いますので……歌って踊れるメガヤドランの動画作り、協力してもらえないでしょうか?」

 ポケチューブにはメガヤドランのコスチュームで踊ってみた動画はあるものの、本当にメガヤドランの着ぐるみを纏って華麗に踊ったものは一つもない。

 時代を先取りした企画に、しかしディズィーは渋った。

「でも中の人ってさ、結構大変だって聞くけれどね」

 今回の肝はそこであると言ってもいい。ディズィーである事を隠しての出演。当然の事ながら彼女には失礼に当たる。

「それも含めて、ディズィーさんならうまくやっていただけると踏んでのプロジェクトです。いかがでしょう? 考えてはもらえないでしょうか?」

 うーむ、とディズィーが考え込む。やはりこのような企画、天下のディズィーには不適当だ。

 取り下げようとしたそれを、ディズィーは手に取った。

「とりあえず、考えるだけ、ね」

 棄却されなかっただけでもまだマシだろう。担当者はディズィーに日取りを連絡する。

「ではその日時に、スタジオのほうに来てもらえますか?」

 

 メガヤドランのゆるポケブームを牽引しているのは、主に女子高生だ。

 彼女らの言う「かわいい」がいつも正しいわけではないが、ティーンの支持層は圧倒的である。そのマーケティング規模も推し量るべき。

 担当者はそこにディズィーという大物を噛ませる事による相乗効果を狙っているのだが、自分からしてみればディズィーに無理をさせているような気がしてならない。

「来ないなぁ……ディズィーさん」

 だからか、担当者が何度もディズィーに電話をかけているのは、やはり無理があっての事なのだ、と理解していた。

 ディズィーの名は世界に通用する。そう容易く中の人で出演などするはずがない。

 後からディズィーが中の人をやっていた、と取り沙汰する事によって商業効果を上げよういう腹積もりは、ここに失敗したわけだ。

「あの……やっぱり著名人に中の人をやってもらって、その結果として大ヒットを得る、なんてのはやはり無理なんじゃ? そもそも、中の人なんて誰も気にしませんよ」

「いや、ディズィーがメガヤドランをやってくれるだけで数百万、いや数千万は狙える。大ヒットに繋がるんだ」

 だからと言ってディズィーがそう簡単にこの話に乗るものか。

 そこまで無鉄砲に自分を売り込むタイプではないのは見るに明らかだろうに。

 スタッフ達が諦めて取って返そうとするのを担当者が押さえた。

「まぁ待って! ディズィーさん、もうすぐ来るって言うし」

 嘘八百を並べたところでディズィーが来ないのはもう分かっている。スタッフ席から立ち上がろうとしたその時、一体のメガヤドラン着ぐるみが慌ててスタジオに入ってきた。

 担当者があっと声を上げメガヤドランに歩み寄る。

「遅いですよぉー、ディズィーさん」

 まさか、本当に来たのか?

 スタッフ達の疑念の眼差しを他所にメガヤドランは人のするようにぺこりと頭を下げた。

 中にディズィーが入っているのか、身振り手振りで申し訳ない、と謝る仕草はどこか微笑ましい。

「じゃあ撮影、始めちゃおう!」

 メガヤドランを纏ったディズィーはしかし、ここに至るまで練習もしていないはずだ。

 きっとNGを連発するに違いない。もっとも、それすらも「おいしい」として後々NGカットとして売り出すのは最早確定事項であるが。

 みょうちくりんな音楽が流れ出し、メガヤドランがふらり、ふらりと千鳥足で踊り出す。

『メガヤドラン音頭』と呼ばれているメガヤドラン現象の火付け役の音楽であった。

 このリズムに乗るのは難しく、子供でも真似出来ると謳われているが実のところ、とてつもなく体力を消費するのだ。

 それを素人のディズィーがやり遂げられるはずがない。

 そう思っていたのだが、メガヤドランを纏ったディズィーの動きにはキレがあった。

 初めてとは思えないほど、躍動感に満ち溢れている。途中でお尻を振る仕草があるのだが、それすらも愛嬌の一つとして組み込んでいた。

「オーケー! さすがです、ディズィーさん! まさかマスターしてくるなんて」

 自分も意外で仕方なかった。

 ディズィーにはもう少しプライドがあるかと思ったが、彼女は仕事のためならば妙なプライドなど捨てるだけの器量があるのだろう。

 続いて新たな動画の撮影に入った。今度はディズィー達のバンド「ギルティギア」の十八番である名盤の音楽に合わせてメガヤドランが踊る、という代物だ。

 メガヤドラン用に巨大なギターが用意されているのだが、これが大人二人分ほどの重さなのである。

 当然、それに伴うメガヤドランのNGはこの場合、期待されていた。

 メガヤドランが盛大にミスればミスるほど、ここでは面白いのである。

 しかし、メガヤドランを纏ったディズィーは巨大ギターを掲げ、ギルティギアの名盤に合わせて踊り始めた。

 さすがに担当者も面食らったようである。まさかここまでディズィーが仕事熱心だったとは思いもしない。

 まさかのノーカット、NGなしに拍手さえ漏れたほどだ。

「い、いやぁ……ディズィーさん、そこまでやりこんでいただいて感激だなぁ。このメガヤドラン動画、絶対完成させましょうね!」

 メガヤドランを纏ったディズィーは愛嬌たっぷりに頷き、引き続き動画撮影に入る。

 三本の動画を撮ったのだが、メガヤドランに入ったディズィーは疲れている様子すら見せない。

 これがプロか、と驚嘆したほどである。

 全員がメガヤドラン動画の撮影を終え、ディズィーが舞台の袖に入った。

 自分は企画発案者として、ディズィーに一度挨拶するべきだと感じていた。何よりも、これほどまでの動画を撮影させてもらったのだ。

 彼女には感謝しかない。

 担当者がスタッフ全員を集めている間に、彼女はメガヤドランの着ぐるみを身に纏うディズィーに追いついた。

 なんと、廊下でもメガヤドランの着ぐるみを脱ぐ事はない。改めてそのプロ根性に感嘆さえ起きる。

「ディズィーさん! その……私達の無茶な企画に賛同してくださって、その……ありがとうございます!」

 精一杯声を搾って、頭を下げる。謝辞しか思い浮かばない彼女へと、メガヤドランのディズィーは手を差し出した。

「えっ、その……握手、ですか?」

 自分のような一介の動画スタッフが大スターと握手など、と謙遜しようとしたが、メガヤドランの読めない瞳と共にディズィーはずい、と手を差し出す。

 おずおずと握ったその手は、思ったよりも湿っていた。

 まるで本物のメガヤドランのようである。

「あの、改めてその、ありがとうございました!」

 メガヤドランのディズィーは手を振って廊下を抜けていく。

 ここまでのプロとしての在り方には最早感激しかなかった。ディズィーはやはり本物なのだ。

 本物のプロとは、ここまでするのが大前提。

 スタジオへと戻った彼女はその時、スタッフ達が寄り集まっているのを発見した。

 誰もディズィーの送り迎えをしないのか。あれほどの動画を撮ってもらったのに、感謝しないほうがどうかしていると感じた。

 しかし、歩み寄って愕然とする。

 スタッフ達の中心にしたのは当のディズィーであったからだ。

「あっ、あの時の」

 指差されて彼女は困惑する。つい先ほど、ディズィーの背中を見送ったばかりではないか。

「えっ、ディズィーさん? さっき私と廊下で……」

「いや、こっちもよく分からなくってさ……。ディズィーさん、今スタジオに来たばっかりだって言うんだよ。でもさっきの完璧な撮影をしてくださっただろ?」

 疑問に呻る担当者にディズィーは腕を組んで首を傾げた。

「何で? なんかみんな、もう動画終わったみたいな空気だけれど、オイラ、車が遅れて、今来たところだよ? 何だってもう片づけてるのさ?」

 ディズィーはきっと、自分達を脅かそうとしているのだ。担当者と多くのスタッフはそう感じて、まぁまぁとディズィーに言いやった。

「騙し合いは抜きにしましょうよ。そうだ! ディズィーさんの大好物、打ち上げに用意しますから」

「打ち上げって……オイラ、何もしてないよ?」

「まったまたー」

 スタッフ全員がディズィーの凝った嘘を信じ込む中、彼女だけが先ほど握手した感触を思い出していた。

 少し湿った、あの手。

 何も語りかけてこない、無感情な瞳。

 あれは着ぐるみではなかったのか? 

 問い質すも、それを確認する手段はなかった。

 

【踊ってみた】メガヤドラン音頭 コメント欄

 

SP名無しさん

>すごいな、これ。本物のメガヤドランみたいな質感だぞ

 

自称関係者さん

>>これの中の人、ディズィーだって噂マ?

 

実質名無しさん

>621 らしいぞ。まぁ、公にはしないみたいだけれど

 

モロボシさん

>完成度SUGEEE!

 

ギルティギア好きさん

>さすがディズィー。俺達に出来ない事を平気でやってのける!

 

ルチアファン第一号さん

>汚いなさすがディズィーきたない。

 

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