グレードウォールに降り注いだ40発のASM-1Cは次々と直撃、破壊力こそ戦艦の艦砲程では無いものの、真上からの攻撃は殆ど想定されていないグレードウォール。その防御力の低い上部構造物を破壊するには、40発のASM-1Cの飽和攻撃は充分過ぎる破壊力を持つ。
「対艦ミサイルの飽和攻撃か。イージス艦のありがたみがよく分かるな」
紀伊の艦橋からもグレードウォールに次々と命中していくASM-1Cの飽和攻撃の光景が見えている。
飽和攻撃に晒されるグレードウォールからは爆炎が次々と上がり、あっという間に甲板上は黒煙に包まれていく。
「全ミサイル、命中確認!」
全てのASM-1Cが命中し、飽和攻撃が終了すると、紀伊の乗員達の間に緊張が走る。
「どうだ?」
艦全体が黒煙に包まれたグレードウォール。万が一に備えて、紀伊の全主砲はグレードウォールに向けたまま警戒態勢を維持する。
「敵艦視認」
やがて黒煙が少なくなり、グレードウォールの様子がハッキリしてきた。
「おぉ……」
黒煙の向こうから見えてきたのは、上部構造物を無惨にも破壊され尽くしたグレードウォールだった。
主砲塔は砲身を紀伊に向けたまま動かず、副砲塔は真上から圧を掛けられたかのように押し潰され、煙突は真ん中から上が吹き飛び、マストはその上にのしかかる様に倒壊している。
更に後部艦橋は射撃指揮所と測距儀がまるごと無くなっており、前部艦橋は第2艦橋から上の正面部分が大きな爪に引っ掛かれたように抉られ、いつ倒壊してもおかしくない状態だった。
「あれでは艦の幹部クラスの人間は誰も生きてないな…………」
「あの状態ですからね………どうします?」
「返答があるとは思えんが、降伏を呼び掛けてみてくれ」
紀伊はその場でグレードウォールに向けグラ・バルカス語で発光信号を送った。
そして、発光信号を受けたグレードウォールでは………
「………何が起きたんだ」
甲板から2層下にある区画で、上甲板へ続く直通の階段下で気を失っていた一人の水兵が頭を押さえながら起き上がる。
「耐衝撃姿勢の命令が………上はどうなってるんだ!」
彼は階段を掛け登り、上の区画へ入るための隔壁を開ける。
「うわっ!」
開けた瞬間、大量の黒煙が入り込み、慌てて隔壁を閉じた。
「おい!そこの水兵!」
丁度そこへ、階級が上の数人の水兵達がやって来た。
「上はどうなってる?」
「分かりません。隔壁を開けると黒煙が酷く確認出来ませんでした」
彼は上官にそう報告する。
「分かった。直ぐにガスマスクを装着しろ!改めて確認に向かう!」
「はっ!」
そう指示され彼等は背負っていた酸素ボンベから吊り下げていたガスマスクを装着し、再び隔壁を開けて黒煙と熱波が立ち込める中、上甲板へ続く階段を駆け上がり、扉を開けて甲板へ出る。
「これは!?」
外に出てみると、彼等の目には無惨に破壊された上部構造物が写る。
「嘘だろ………」
「先任!艦橋が」
誰がそう叫び、真上を見上げると、大きく損壊した艦橋が目に入った。
「か……艦長………長官………」
「なんて事だ…………」
誰の目からもアケイルをはじめとした艦長や艦の幹部達はもう生きてはいないと分かり、絶望する水兵達。
「どうする?これから………」
「どうするって………誰か先任士官を探すしか」
「機関長なら生きてます!機関長を呼んできます!」
生きているであろう機関長を呼び寄せるため数人が艦内へ入っていく。
「おい!見ろ!」
「どうした?」
「敵艦から発光信号だ!」
薄くなってきている黒煙越しに紀伊から発光信号が送られてくる。
「何て言ってるんだ?」
「帝国語だ………『降伏せよ。本艦は貴艦の救援の用意あり』って言ってる」
「降伏だって!冗談じゃない!誰が降伏なんてするもんかよ!」
若手の水兵がそう叫ぶ。
「でも、もうこの艦に戦闘能力なんて残ってない。どうやって戦うんだ?」
「それは…………」
主砲はまだ撃てるかもしれないが、レーダーや測距儀をやられては命中など望めない。何とか損傷を免れた対空砲が数丁残っているが、戦艦相手には意味は無い。
「おい!状況報告せよ!」
そこへ機関長がやって来ると水兵達は彼に状況を報告した。
「そうか………この様じゃ、戦うのはもう無理だな。これ以上犠牲を出すのも意味はない」
「それでは……」
「あぁ………降伏しよう」
グレードウォールは大破、戦闘不能により降伏した。大勢の犠牲を出しつつも沈没は免れ、乗員達は全て国連軍の捕虜となり、レイフォル沖南方沖海戦は終結した。
続く
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