次回からは新編を投稿します。
レイフォル陥落から数日が経過し、未だに物資不足による混乱が収まる気配が見えないグラ・バルカス帝国帝都ラグナ。
あちこちでは市民が軍や政府に対しての抗議デモを起こし、それに対処する警官隊との間で熾烈なぶつかり合いが起きている。
「ひっこめ警察!」
「国家の犬めぇ!」
「政府と軍はなにもしてねぇだろぉぉ!」
大通りを棍棒や角材等を手にする数えきれない程の市民達が、行進を阻止しようとする警官隊へ向けて罵声を浴びせかける。
対する警官隊はそんな市民達へ向けて警告を送り続ける。
『直ちに解散しなさい!直ちに解散しなさい!解散しない場合は我々は実力行使を行います!』
拡声器から響く警官隊の指揮官の声に市民達は耳を貸す事はなく、むしろ逆効果で神経を逆撫でしている様に見える。
「構わねぇ!突っ込めぇぇぇ!!」
そして遂に市民達は数の暴力で警官隊に向けて突撃を開始した。
「えぇい!放水開始!」
警官隊は市民達へ向けて高圧放水を開始する。消防車から放たれる高圧の放水攻撃で市民達は圧倒され、突撃の勢いは弱まった。
「検挙!」
その隙に警官隊が突撃し、市民達を次々と拘束していく。
そんな喧騒の中、ラグナの中央官庁街にあるニブルス城では、レイフォル陥落に関する緊急の臨時国家安全対策会議が開かれていた。
「以上が、レイフォルに関する報告になります」
グティマウンによる作戦失敗により失脚した前陸軍大臣に変わり現陸軍大臣となっていたジークスは、レイフォルから帰還したランボールから提出されたファンターレからの報告書とランボール本人の報告書を元に作成した最終報告書を読み上げる。最終報告書に記載された内容に、会議室内は重苦しい空気が漂う。
「ヒノマワリに続いてレイフォルまで………」
「新型超重戦車や新鋭艦グレードウォールを投入しても勝てなかった……………我々は容易ならざる敵を相手にしているのか」
ここ一年で外征している帝国陸海軍の敗報が続けざまにもたされ、帝国本土とレイフォル間での通商破壊に起因した産業力と経済力の低下、帝国陸海軍の活動力の低下、第2文明圏による一方的な国交断絶、既に帝国上層部に現状を楽観視している者は一人もおらず、ほぼ全ての者が頭を抱えている状況である。
「今後について皆の意見を聞きたい。意見がある者は余の事に関しては遠慮する事なく申してみよ」
今まで沈黙を守っていたグラ・ルークスの言葉に、会議室に居る全員は何とか意見を出そうとするが、咄嗟には浮かばない。
そんな状況が30分程続き、やがて室内の緊張がピークに達した時、ある人物が手を挙げる。
「何か良いアイデアがあるのか?」
「はい」
手を挙げてその場で立ち上がったとある議員はその場に居た者達に質問を投げ掛ける。
「皇帝陛下、そして此処にお集まりの皆様、『潜水艦決戦思想』と言うのはご存知でしょうか?」
「あぁ…確か、カイザル閣下が考案なされた潜水艦の隠密性を最大限に利用した極秘プロジェクトでしたか?」
「はい。現在我が国が実戦配備しているシータス級とハイドラ級はその構想の元に設計、建造、配備されています。そこで私は、その思想に基づいて第3文明圏と第2文明圏国への通商破壊または敵本土への奇襲攻撃を実行すべきかと」
議員の提案に会議室がざわめく。
「ミレケネス閣下、その作戦は現実的に実行は可能なのでしょうか?」
「一応、現在就役しているシータス級とハイドラ級は合計50隻全てが実戦配備を完了しています。5個の潜水艦部隊が編成できますので、訓練と作戦計画が整えば実行は可能です。しかしそれにはかなりの準備期間が掛かります」
「どれ程掛かる?」
「最低でも5年は掛かるかと」
「5年か…………もう少し期間は短縮出来ないのか?」
「不可能です。この惑星はユグドよりも遥かに広く第1、第2文明圏への奇襲攻撃となれば、潜水艦のみでは実行はできません。それに作戦を実行に移すには様々な条件や地ならし等の準備が必要になります。戦略、戦術の大幅な見直しに、この惑星の海洋情報収集、各国の潜水艦に対する認識や対潜戦術情報、潜水艦戦力の更なる拡充に要員の訓練、その他にも条件を満たさなければならない事が沢山あります」
ミレケネスの言葉に誰もが腕を組んで唸る。それ程までに作戦の実行には手間も暇も掛かるのである。
「それに此度の戦闘で陸海軍は相当数の兵力も戦力も失いました。戦力の建て直しに兵員の拡充が必要であり、それ以上に優先されるのは国土防衛です。その事も考えると更に時間は掛かると思われます」
「しかしミレケネス閣下、このまま敵に対して受け身をとるような真似は……」
「ならば代案がおありで?」
ミレケネスの目に睨まれた議員らはそれ以上なにも言えなかった。
「…………パルゲール、そなたなどう考える」
グラ・ルークスは前任が外交失策により解任された後、現外務大臣となった『パルゲール』に問い掛ける。
「今回は向こうと我が国は相当な被害を被っています。ミレケネス閣下の言う通りに我が国の戦力の建て直しや兵力の拡充を考えますと時間は1日でも1時間でも1分でも時間が必要です。ここは敢えて我々から停戦交渉を持ちかけ、相手側の条件を全てではないにしろある程度は飲んだ上で休戦に持ち込めれる事が出来れば」
「時間稼ぎと言う訳か?」
「はい」
グラ・ルークスは暫く沈黙しどのような判断を下すべきかを思案し、再び口を開く。
「致し方あるまい」
「それでは閣下!」
「あぁ。パルゲールよ、これより外務省が中心となり相手側との交渉に望むがいい」
「はっ!」
大役を仰せつかったパルゲールはグラ・ルークスに帝国式敬礼をする。
「陸海軍は直ちに兵力の回復と計画の策定を極秘裏に進め、情報局は情報収集を全力を以て開始せよ。ただし他国に秘密が漏れる事はあってはならん故、他国からの防諜と情報管理はより一層徹底するように!」
グラ・ルークスは各省庁のトップらに次々と指示を飛ばし、各員は皇帝からの指示を一言一句聞き漏らしがないようにメモをとる。
「各自は各々の部署で務めを果たせ。くれぐれも申しておくが敵を挑発するような行為や言動は厳に慎むように!だがこれは我が国がユグドに居た時の栄光を取り戻すための試練!今は耐えて耐えて耐え抜くのだ!」
この時点で第2文明圏エリアは一時的にではあるが平穏を手に入れたが、その裏でグラ・バルカスは新世界を揺るがす恐るべき計画を実行に移すための準備期間に入ったのである。
続く
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