レイフォルの空港から離陸した5機の輸送機は、ヒノマワリ王国を越えてムーの領空に入る。
すると、ムー空軍のマリンⅡが近くの基地から上がってくると、各機に無線を入れてきた。
『これより貴機を先導する』
5機の輸送機を先導するマリンⅡは南へと飛行進路を変えそれを追うように5機も南へ航路を変える。彼等の目的地はマイカルにあるアイナンク空港ではなく、陸軍アイディーン試験場にある空港である。
規模が大きいアイナンク空港ではなくアイディーン試験場へと向かっているのかにはちゃんとした理由がある。
それは、グラ・バルカス帝国による諜報員からレイフォルより運び出したルークスやワイルダーの存在をなるべく秘匿するためと、アイナンク空港からアイディーン試験場までは直線でも数百キロは離れている事、ワイルダーを積載できるトランスポーターが存在しないため直接試験場へ運び込むためでもあった。
飛行ルート変更から1時間後、アイディーン試験場の空港へ着陸した5機の輸送機は積み荷を降ろす作業を開始した。
先ずはギャラクシーから、ルークスを降ろす作業から始まり、試験場に勤務する先進技術立証室職員と工兵達が貨物室からパレットに載せられたワイルダーを降ろす作業を開始する。
「ゆっくり降ろせ!大事なサンプルなんだからな!」
待機していた牽引車に引っ張られながら貨物室から運び出されたルークスは固定具が解かれていく。C-17、C-2、C-130Hからもルークス関連の機材とワイルダーが次々と降ろされていき、トラックへと載せられていく。
「少佐、積み降ろし作業終了しました」
「よし、じゃあ此処からは我々の仕事だな」
輸送機から降ろされたワイルダーは自走で、ルークスは6両のラ・シャルマンとラ・シャルマンの車体を流用した43式戦車回収車に引っ張られながら試験場にある研究所へと運ばれていき、本格的な調査が開始される事となった。
その頃、オタハイト港では………
「あれが敵の新型戦艦の成れの果てか」
オタハイト港、第1埠頭に停泊しているラ・カサミ改の艦橋に居るミニラルは双眼鏡で、沖の方向を見ていた。
沖にはレイフォル南方沖海戦で紀伊と対艦ミサイルの飽和攻撃で大破したグレードウォールと、レイフォル港で浮き砲台となっていたヘルクレス級戦艦『マシム』、オリオン級戦艦『ベラトリックス』以下の元帝国海軍第2艦隊所属艦で残存していた多数の艦艇が係留されていた。
周りには見物に訪れた漁船や釣り船、取材しようとやって来た新聞社やTV局がチャーターした船が押し掛け、ムー海軍の巡洋艦や沿岸警備隊所属の警備艇が民間船舶が近付かないように展開しており、お祭り騒ぎのような状態となっている。
オタハイト港に停泊している他の艦艇の乗員、埠頭や海水浴場に居た一般人達も沖のグラ・バルカス帝国の艦艇を見物しており、非番のラ・カサミ改の乗員らも甲板から見物していた。
「こりゃ訓練どころじゃないな」
「全くです………で、どうするんでしょうかね?あんなスクラップ同然の敵艦なんか」
「そりゃ技術調査のサンプルにだろ。敵の艦を入手できる事なんてそうは無いからな」
「上はグレードアトラスターのような戦艦を作ろうと?」
「流石に無理だな、我々があんな巨艦を作れるようになるのは先の話だ。作れるとしたら頑張ってもオリオン級、他の巡洋艦や駆逐艦も完璧とは行かないだろうが、作る事は不可能ではない。恐らくだが上は戦艦よりも中小艦艇を重視するだろう」
ミニラルの言葉にシットラスが何かを察したかのような表情になる。
「やはり、国産の魚雷開発が成功したという報道ですか?」
「多分な。魚雷なら当たり所が良ければ戦艦は一撃で行動不能になるし、駆逐艦や巡洋艦なら1発で沈められる。維持費と運用経費に金が掛かる戦艦を使うよりも多数の魚雷を装備した高速で尚且つ高機動な駆逐艦や巡洋艦を大量に揃え、空母や航空機等の戦力と組み合わせれば無理に戦艦を揃える必要は無くなる訳だ」
「となると、戦艦はお役御免の日も近いでしょうな」
シットラスの言う戦艦を必要としない時代は、まだ先の話ではあるが可能性としては非常に高い。
ムーの技術は既に原始的な魚雷を実用化できるレベルに達しており、政府も建造費と運用経費の掛かる戦艦の建造よりも航空機を多数搭載できる空母や魚雷を大量に装備した巡洋艦や駆逐艦、更にはフリゲートや高速の魚雷艇等の小型艦艇を優先して建造・配備するべきだという意見も出始めており、海軍もそれに関する戦略と戦術研究を開始している。
今日明日、戦艦がお役御免になる訳ではないが、魚雷が本格的に戦力化され、戦略と戦術が航空戦と魚雷戦を主としたモノが中心となれば、戦艦は生産性が乏しく建造費や運用経費などのコストパフォーマンスの悪い兵器として見られる時代は訪れる。現に、太平洋戦争や第2次世界大戦後に高性能なミサイル等の誘導兵器が開発された事により、冷戦中に戦艦を戦列復帰させた日本とアメリカを除き、かつて戦艦を保有していた世界の主要国は戦艦を新造も戦列復帰もさせていない。ムーも時代や技術が進歩すれば戦艦を代替できる兵器が次々と実用化されていき、やがて戦艦は廃れ必要とされなくなる時代が何れは訪れる。
根っからの戦艦乗りであるミニラルとシットラスはそんな時代が来ると思い、少し寂しい気分になる。
「まぁ今日明日に戦艦が無くなる訳じゃない。戦艦がまだ天下のうちは我々の仕事が無くなる訳ではない」
ミニラルはそう言いながら双眼鏡を降ろし、艦長席に座る。
「さて、午後の訓練の準備だ」
「了解!」
続く
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