日本国召喚×不沈戦艦紀伊   作:明日をユメミル

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第46話

レイフォル解放から1ヶ月が経過した12月中旬。

各地で本格的な冬が到来し、雪が降り始めている地域も出始めている。

 

極寒のアイディーン試験場にも襲来した冬の寒さにより、気温が氷点下に迫っている。地面の土や草の水分が凍結し霜が出来ている中、試験場の車両テストに使われるエリアでは、轟音が響き渡っていた。

金属同士が擦れ合う独特な音と、ディーゼルエンジン独特の機械音を響かせながら、ワイルダー重戦車がマフラーから黒い排気ガスを吐き出しながら走っていた。

 

 

「今の所、問題なしか」

 

 

その様子を見守っていたマイラスは他の研究員達とワイルダーに関するデータを集めている。

 

 

「しかしコイツは機動性といい、火力といい、防御力もラ・シャルマンとほぼ同等。文句のつけようのない性能だな」

 

 

データ収集から1ヶ月の間にワイルダーはマイラスや軍上層部を唸らせる程の衝撃を与えていた。集められたデータからワイルダーの性能はほぼラ・シャルマンと同じで、ラ・シャルマンがワイルダーに勝っている所といえば大量生産のしやすさと、整備性が高い事、信頼性が高い事くらいであった。

ラ・シャルマンの性能に自信を持っていただけに軍上層部はワイルダーと言う脅威が現れた事に不安とショック受け、向こうがワイルダーを大量生産し再び戦端が開かれればラ・シャルマンでは機甲戦力に不安があると思われ始めていた。

既に陸軍上層部ではラ・シャルマンを上回る性能を持つ新型戦車の開発の必要性ありと議論され、先進技術立証室でも新型戦車のコンセプトについて研究と議論が開始されていた。

 

 

 

「しかし、ラ・シャルマンの生産がようやく安定してきたって言うのに、上層部は不安になりすぎなんじゃないでしょうか?」

 

 

部下の技術員がマイラスにそう言った。

 

 

「それ程にワイルダーは上に衝撃を与えたという事だろ?上は焦ってるのさ。ようやく満足できる性能のラ・シャルマンとほぼ同等の性能を持つ戦車を敵が出してきたんだからな。実際にワイルダーで撃破されたラ・シャルマンの数も無視はできないし」

 

「それはそうですけど、ラ・シャルマンにはワイルダーには無い利点はあります。生産性も良いし、信頼性も整備性もトップクラス。対してワイルダーは一部はほぼ手作り、性能はラ・シャルマンと同等ですけど大量生産には向いていません。ラ・シャルマンの利点を活かせばワイルダーには数で勝てるんじゃないですか?」

 

「そうかもしれん。地球の世界で起きた戦争でも、高度な科学力で高性能な兵器を装備した国と、工業力で大量の兵器を生産できて兵站もしっかりしていた大国との戦争でも、結果的には後者の勝利に終わってる。いくら兵器が高性能でそれが使いこなせても、結局は兵站がしっかりできていなければ宝の持ち腐れなのは歴史が証明している。たしかにラ・シャルマンは生産性や整備性、機械的信頼性は抜きん出てはいるが何れは限界は来る。古い考えや技術に縛られているとろくな事にならない事は地球世界の歴史を見れば分かる」

 

 

「……………………」

 

 

 

マイラスは日本に研修に言った時に図書館や書店で目についた日本と世界の歴史に関する本を読み漁っており、科学力が世界に与えた衝撃、発展までの過程を理解している。その上で科学力が戦争にも利用され、そこから培われた技術が国の発展や人々の生活にも活かされている事も知っている。

何かを切っ掛けに国や人々の認識が変わらない限り、国は発展せず、やがては大きな過ちを犯してしまうのではないかとマイラスは内心危惧しており、そうさせないためにも1技術者として科学の発展で国が進むべき道を切り開けるように微力ながら努力を続けている。

 

 

「私たちは技術者だ。科学は使い方を誤れば人を死に至らしめ、やがては国をも滅ぼす事にもなる。科学が本当に人々を幸せにできるのかどうか、我々にとっては永遠の課題だと私は思う」

 

「室長…………」

 

 

研究員はマイラスの考えを聞き、もうそれ以上は何も言わなかった。

 

 

「室長ぉぉ!!」

 

 

そこへ別の研究員がマイラスの元へ走ってきた。

 

 

「どうした?」

 

「間もなく時間です。会議室にお戻りください」

 

「もうそんな時間か。分かった、直ぐに行く」

 

 

マイラスはその場を別の者に任せて研究所へと戻り、そのまま所内の会議室へと入る。

会議室には既に、研究所に所属する若手の技術者が集まりマイラスに視線を向ける。

 

 

 

「先週私が君たちに出した『第2次主力戦車開発計画』に関する課題に関して、君たちのアイデアを報告してくれ」

 

 

マイラスの言葉に若手の研究員達は我先にと立ち上がり、そのうちの1人を指名する。

 

 

「先ずはそこの君から聞こうか?」

 

「はい!室長、次期主力戦車はグラ・バルカス帝国は勿論の事、後20年のうちに復活すると言われている魔法帝国にも対抗できる戦車を開発するための技術蓄積の点から考えても必要だと認識します。しかし魔法帝国の陸戦兵器に関する情報が少ない上、何を基準にすべきなのかがまだ不明瞭な以上、事を急ぎすぎるのは非常にリスクが高いかと思います」

 

「しかし陸軍からは魔法帝国復活までに高性能戦車の開発を急げと言っているんだ。まだグラ・バルカスなら科学力と我が国の生産力を以てすれば対抗できるが、魔法帝国の技術力に関してはまだ不明瞭な部分も多い上に、魔法と言う不確定要素も入っている。上層部も政府もそれを鑑みて相当焦っているんだよ」

 

「しかし、いきなりグラ・バルカスの如何なる戦車をも上回り、尚且つ魔法帝国に対抗できる戦車の開発となると相当な時間が掛かります。兎に角今は次期主力戦車開発と並行して既存のラ・シャルマンの改良にも力を入れるべきだと考えます」

 

 

研究員はマイラスにレポート書類を手渡す。

 

 

「先のレイフォル解放でラ・シャルマンの市街地における脆弱性が浮き彫りになりました。軍から提供されたラ・シャルマンに関する被害報告でも、撃破または戦闘不能となったラ・シャルマンの被害の大半は障害物の多い市街地における敵の奇襲や肉薄攻撃による物です。ラ・シャルマンは元のM4シャーマンと同様に車高の高さで市街地での戦闘ではかなり不利に立たされます。そこで私はラ・シャルマンの強化に力をいれるべきだと思います」

 

 

書類には、ラ・シャルマンの各種改良に関する提案が細かく記されていた。

 

 

「既にレイフォルの戦いでも使用された対市街地戦生存キットはその有用性が証明されています。被害報告でもキットを装着した車両とそうでない車両の損失数は目に見えて違いがあります。76ミリ砲の威力に関しても問題はありませんが、敵がラ・シャルマンと同レベルの戦車を開発配備が出来る技術力があるの言う事は更なる強化も可能と言う事でもあります。現行の戦車砲も何れは追い越されます」

 

「だがこれ以上大きな砲はラ・シャルマンには搭載はできないぞ。そうなれば車体から砲塔から設計を見直して新型を開発した方が早い」

 

「そこは充分に承知しております。ですので砲の直径は変えずに、ラ・シャルマンの火力を大幅に底上げする案が一番下にあります」

 

 

資料の一番下に記された項目に目を向ける。

 

 

「これは……対戦車砲か?」

 

 

そこに記されていたのは、陸軍管轄の砲兵工廠が現在実用化に向けてテスト中の新型対戦車砲とそれに使用される新型砲弾の概要だった。添付されている写真にはラ・シャルマンの76ミリ砲よりも長砲身を持つ対戦車砲が写し出されており、先端には発射煙を抑えるマズルブレーキも取り付けられている。

 

 

「はい。既に射撃試験を終えており、その性能は従来のラ・シャルマンの主砲の威力を遥かに上回っています」

 

「凄い数値だな。1000メートルの距離から厚さ100ミリの装甲板を貫通したとある」

 

「しかしラ・シャルマンにそんな火力必要でしょうか?過剰性能では?」

 

「しかし、早急にラ・シャルマンの火力強化となればこれしか手はありません如何でしょうか?」

 

 

 

マイラスは少しだけ腕を組んで考える。

 

 

 

「火力強化できるならそれに越した事は無い。ラ・シャルマンは発展の余地があるように設計されているからこの案なら直ぐに取り掛かる事が出来そうだ」

 

 

マイラスはこの案について前向きに検討するように指示した。

 

 

「ラ・シャルマンの改良についてはこの案で進めて行こうと思う。次に、次期主力戦車の開発コンセプトについてだが」

 

「そこは自分が!」

 

 

今度は別の研究員が提案を出してきた。

 

 

 

「我が国のラ・シャルマンの性能は敵のワイルダー重戦車に対しては満足とは言えませんし、今後ワイルダーを上回る戦車が現れないとも限りません。ましてや後20年で現れる魔法帝国の陸上戦力が不明確な以上、様々な新機軸を取り入れた高性能戦車が必要かと思います」

 

 

その話を聞いたマイラスは立ち上がり、懸念を示す。

 

 

「まさか……地球世界のドイツ軍が使っていたとされる、ティーガーのような重戦車を作るべきだと?」

 

「確かにそれらの戦車は防御力や火力の面では非常に魅力的ではありますが、エンジンや足回りが脆弱です。そのような戦車は恐らく我が国では持て余すだけになります。それよりも走・攻・守のバランスの取れた車両の開発をした方がよろしいかと」

 

「では、どんな戦車を?」

 

 

 

そう言うと、その研究員は机の上に資料を置いた。

 

 

 

「日本国の大手書店で入手した資料を元に、次期主力戦車のコンセプトに合致すると思われる車両をリストアップしました」

 

 

マイラスはその資料をコピーした複数の書類を見る。

書類には、地球世界に於ける戦後第1世代や第2世代主力戦車に位置付けられている車両がリストアップされている。

 

 

「どれも魅力的な車両だが、どれも開発には多大な時間とコストが掛かりそうだな」

 

「室長、我々には日本国から供与された61式戦車と日本から輸入した先進的な技術があります。それらに使用されている各種技術の解析と実用化はかなり進んでおり、それらを発展させれば実現は可能かと思われます」

 

「成る程。ではどの車両をコンセプトに?」

 

「それは…………この車両であります!」

 

 

研究員が指差したのは、マイラスもよく知っている戦車だ。

 

 

「パットン戦車」

 

 

研究員が指差したのは戦後第2世代主力戦車に代表されるアメリカ製『M48/M60パットンシリーズ』だ。

 

 

 

「確かにこの戦車なら走・甲、守共に充分だし、整備性も発展性もある。純粋にラ・シャルマンの後継車両としては相応しいな」

 

 

マイラスはパットンの性能に魅力を感じつつ、次の資料に目を向ける。

 

 

「成る程。『74式戦車』とは……中々良いところに目をつけたな」

 

 

 

未だ、陸上自衛隊の戦車戦力を勤めている74式戦車。

低い車高に傾斜装甲を取り入れた車体と砲塔、そして車高の高さを自在に調整できる油気圧サスペンションを持ち、強力な105ミリ戦車砲と高性能な射撃統制装置と砲安定装置の組み合わせは、山がちで複雑な地形も多い日本国土と専守防衛と言う独特な事情を持つ陸上自衛隊の戦術や戦略に見事マッチしている戦車と言える。

日本と同様に、山・川・平原・起伏の激しい地形や軟弱な地盤もあるムー大陸での運用を考えると、74式戦車のコンセプトはムーでの運用に合致している部分も多い。

 

 

「これはすごいな!」

 

「この2つの戦車ならグラ・バルカスに対しても優位に立てるし、魔法帝国との戦闘にも威力を発揮できるかもしれないぞ!」

 

「しかしパットンは実物が無いし、74式戦車は日本国では未だ現役の車両だ。見るだけならまだしも、譲ってはくれんだろう」

 

「パットンならまだしも74式戦車と同レベルの車両となると何年掛かるやら」

 

 

課題は多いが、これらの新世代戦車が開発できればムーの戦車開発能力が大きく向上すると会議室に居る誰もが確信する。

 

 

 

「最終的に、魔帝戦までにはこれらの戦車と同レベルの戦車開発を目標にしたいと考えております」

 

「これなら上の連中も納得するだろうし、実用化できれば得るものは大きい。よし!君達2人の案を採用しよう!」

 

 

その後もマイラスらは様々な議論を交わし、次期主力戦車を含めた新技術の研究のための予算を取り付けるため、マイラスは軍上層部と政府がワイルダーの存在で危機感を抱いている今のうちに開発予算と人員確保を急ぐべきだと判断し、自信満々にそれらの資料を携えて翌週には軍上層部と政府議会との間で議論を交わした。そして直ぐにそれらの新型戦車開発とラ・シャルマンの改良案に関しての研究予算と人員の確保に成功したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く




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