厳しい冬が世界各地で猛威を振るう中、中央暦1643年は終わりを告げ、中央暦1644年へと年号が変わっても世界情勢は依然として変わりを見せていなかった。
強いて言うなら、第3文明圏各国が領有する領海内に、ある変化が起きている事であろう。
場面はクワ・トイネ公国海軍本部へと移る。
「はぁ………またか」
海軍本部の長官室で執務をしている現海軍長官のパンカーレは手にしていた報告書の内容に頭を抱えていた。
報告書には自国の領海で最近多発している、海賊による破壊行為とシージャック紛いの事案が多発している事が書かれていた。
これらはパーパルディアが日本との戦争で敗北した直後から発生しており、今まではパーパルディアにより厳しい取り締まりが行われていたため問題になる程では無かったのだが、パーパルディアが敗北し軍事力が削減されると、鳴りを潜めていた海賊が各地で跋扈するようになり、海賊の中には戦後の混乱で行方不明扱いとなっていた皇国軍人が大勢加わっているため、彼等に訓練を施された海賊達が勢力を拡大している。
しかも何故かその事案はどれもロデニウス大陸各国が領有する領海内で集中的に起きており、同盟国である日本の領海内では一切起きておらず、さほどの海軍戦力を持っていないと思っているのか明らかに狙ってやって来ているとしか思えなかった。
「まったく………早く何とかしないとな」
「長官!」
そこへ、パンカーレの副官となっていたブルーアイが慌てた様子でやって来た。
「緊急事態です。マイハーク沖200キロ地点にて大型の不審船舶を確認しました。現在速度20ノットで航行中で、このままでは我が国の領海に侵入する恐れがあります」
そう報告するとブルーアイは海軍の航空機が撮影した不審船の写真を見せる。
「これは………軍艦じゃないか!?」
写真に写し出されていたのは海賊が使うような漁船を改造した一般的な海賊船とは異なっていた。
大型の船体にはマストが2つ、船体の側面には不鮮明ではあるが魔導砲が突き出ており、明らかに軍艦であった。
「魔導砲の数とマストの形状からして、コイツはパーパルディアのパールネウス級だな」
「まさか、パーパルディアが海賊に支援を?」
「いや、パールネウス級は既に退役している筈で、日本国との戦争の時は活動していなかったと聞く。そう言えば戦後の混乱で何隻かが行方不明になっていたな?」
「そう言えば………もしかして」
「あぁ………噂の脱走兵連中かもしれん。付近を航行中の艦艇は?」
「マイハーク沖120キロ地点で哨戒艇1隻が居ます」
「直ちに現場に向かわせろ!そして港に停泊中のコーメに緊急出動を直ちに下命せよ!」
パンカーレの命令は直ちにマイハーク沖120キロ地点で哨戒活動をしていた43号型哨戒艇の2番艇『43-2』号に無線通信により伝達された。
「艇長、海軍本部より命令が来ました」
43-2の通信兵が艇長に報告を入れる。
「分かった、繋いでくれ」
43-2の艇長である『スーイ・デン』大尉は艇長室の無線電話の受話器を取る。
「スーイです」
『こちら海軍本部。現在貴艇の南方向、距離90キロ地点で海賊船とおぼしき大型の不審船が確認された。直ちに現場に急行し目視にて確認せよ。尚、目標は30門の魔導砲を備えた軍艦と思われるため突発事態並びに相手側からの攻撃に厳重警戒せよ』
「了解!43-2、直ちに現場に急行します!」
無線電話を切るとスーイは艇長室にある緊急事態を知らせるブザーのボタンを押し、艇内用交信マイクを使って乗員達に命令を下す。
「艇長のスーイだ。たった今、海軍本部より不審船に関する情報が入った!これより本艇は現在位置より南90キロ地点に急行する!総員配置に就け!」
スーイの合図で乗員達はヘルメットとライフジャケットを装着すると、各々の配置に就いた。小型哨戒艇である43型には6名しか居ないため狭い艇内を乗員達は駆け足で配置に就いた。
スーイも艇長用のヘルメットとライフジャケットを装着して、操縦室へと入る。
「艇長、各員配置に就きました!」
副艇長の『ターケ・シイ』中尉が報告し、それを聞いたスーイは艇長席に座る。
「よし!現場に急行する!最大戦速!」
「了解!最大戦速!」
操舵手がスロットルレバーを前に押し込むと、リグリエラ・ビサンズ社製のディーゼルエンジン2基の回転数が上がり、43-2号は徐々に加速していく。
波を掻き分けながら43-2号は現場へと向かっていった。
続く
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