ロウリア王捕縛作戦の第1段階であるギム奪還を成功させた陸上自衛隊第7師団は最前線基地をダイダル基地からギムへと移した。
「スゲェ……」
陸自と共にギムに入った公国軍の兵士達は、爆撃や砲撃で破壊された家屋や石畳の残骸を退かしていく施設科の重機や車輌を見て困惑している。
公国軍工兵隊も町の後片付けにシャベルや鍬、鐫やハンマーを手に馬車に残骸を載せて集積場に運んでいくが、手作業と重機での作業の速度には雲泥の差があり、改めて日本人は一体何者なんだろうかと公国兵達にそう思わせた。
そんなギムの町の中央に位置する広場には、施設科と師団司令部が設置したテント内の指揮所で大内田ら第7師団の幹部らと公国軍のノウ将軍ら公国軍幹部らは次の作戦へ向けてのブリーフィングを行っていた。
「確認します。当初の予定通り本日正午に作戦開始でよろしいですか?」
「あぁ。我々は囮だ。ここは目立つよう派手に動こうじゃないか」
「了解しました。各部隊に再度通達します」
第7師団の任務は敵に対する陽動と囮である。ロウリア王ハーク・ロウリアの捕縛作戦と連動したこの囮作戦は敵の注意を自分達に目が行きやすいよう正面から堂々と仕掛けると言う至極単純に聞こえる。
しかし兵力の数は依然として向こうが多く、しかも地の利も向こにあるため、それをたった千人と少しの規模しかない第7師団でそれらを全て受け止めなければならないのである。
しかし幸いにも自衛隊にはロウリア王国やクワトイネ公国にはない機械化戦力による機動力や火力、陸海空自衛隊のリアルタイムな連携力と言う大きなアドバンテージがある。
作戦通りにやれば問題はないとこの場に居る第7師団の幹部、取り分け、師団長を勤める大内田の表情に不安とな様子は見られず淡々としている様に見える、ノウ将軍は少し恐怖していた。
「大内田殿」
「はい」
「失礼な事を承知の上で尋ねたい。貴君らはあのロウリア王国の大戦力を前にして非常に淡々としている様子だが、恐ろしくは無いのか?」
「確かに私も含めて此処に居る者は全員初の実戦ですので、恐ろしくは感じています。ですが我々はこの作戦に自信と誇りを持っています。自分たちが立てた作戦に信用と信頼が無ければ端から此処には居ないでしょう。まぁ綺麗事のように聞こえるでしょうが……」
「いや、それを聞けただけでも安心した。やはり世界が変われど、兵士やそれを指揮する者は皆同じと言う事が分かればそれで良い」
そう言うとノウは一歩下がった。
「そう言えば、海自さんはどうしてる?」
「現在、ロウリアとクワ・トイネの領海線を越えてロウリア王国の領海に入り、作戦開始時刻には予定通りロウリアの首都北側にあるジン・ハーク港沖に到達できるかと」
「了解した。では今のうちに午前中に各部隊に休息を取らせるように」
「はい」
午前中は、ギムに居る作戦部隊には僅かな時間ではあるが休息が与えられ、全隊員は各々に体を休めて、正午からの作戦第2段階に備える。
「艦長、間も無く目標に接近します」
「うむ」
ロウリア王国より北へ60キロの海上に接近してきていた、紀伊率いる護衛艦隊は、ジン・ハーク港へ向けて進んでいた。
「改めて確認するが、我々の目標は港内に停泊している敵艦船と港北側にある敵海軍本部のみ。他のエリアへの攻撃は禁ずる」
「はい」
「よし!このまま目標に向けて各艦、最大限戦速」
護衛艦隊は最大戦速でジン・ハーク港へ向けて針路を向けた。
その頃、ダイダル基地から発進した航空自衛隊第203飛行隊と第3飛行隊は、西と北へ向けて二手に分かれた。
この2個飛行隊はそれぞれ、首都ジン・ハークの防空戦力の殲滅とジン・ハーク港への空爆を担っている。
ジン・ハークへは203飛行隊、港へは第3飛行隊が就き、それぞれの目標に向かう。
『こちらバフ、目標に向け飛行中』
基地から北回りに飛んで、港に向かって飛行していた第3飛行隊を指揮する『樋口浩介』3等空佐は、愛機のF-2戦闘機の操縦桿を握りながら、早期警戒機に報告を入れる。
「そう言えば、1981年にイスラエルがイラクの原子炉爆撃をやったよな?」
樋口は寮機に無線越しに話す。
『それがどうかしたんですか?』
「今、俺達ってその時のイスラエル空軍のF-16のパイロットみたいだなと、ふと思ったから」
『敵領内への攻撃と言う点じゃ同じですね。それに俺達が乗っている機体もF-16がベースですし』
「イスラエル軍のようにやれる自身はあるか?」
『俺達、こう言う時のために訓練してきたんですよ。今さら自信が無いなんて言いませんよ』
「変に気を張って、ドジ踏むなよ」
樋口は会話を終えて操縦に専念し、今度は早期警戒機に無線を繋ぐ。
「こちらバフ、エクセルへ。目標付近に航空戦力は?」
『航空目標は捉えていない。貴隊はそのまま目標へ向けて突入せよ』
「了解。全機に告ぐ!間も無く目標に到達する!気を引き締めろ!」
第3飛行隊は爆撃の手順通り、敵にギリギリまで発見されないよう、海面スレスレにまで高度を下げる。
「見えた!」
視線の先に陸地が見えた。第3飛行隊は速度を上げて突入を開始した。
「高度3000まで上昇!」
そのまま一気に上昇し、爆撃態勢に入る。
「ターゲットインサイト。ドロップ、レディ…ナウ!」
主翼下のパイロンから大量の子爆弾が詰め込まれたGBU-87クラスター爆弾が投下された。ゆっくりと落下していく爆弾本体は目標の軍船が停泊している船着き場の頭上で破裂、大量の子爆弾をばら蒔いた。
数で勝る敵に対して短時間で一気に絶大な火力を叩き込めるクラスター爆弾は、動きの無い2000隻近い木造の海軍船を悉く破壊していく。
「スゲェな……」
5機から投下されたGBU-87の数は15発、1発につき202個の子爆弾が封入されているため、降り注いだクラスター爆弾の総数は3000発以上にも及ぶ。
子爆弾1個の威力は低いが、木造で作られている船なら子爆弾数個でも直撃すれば破壊できる。
港内に居る2000隻近い船を短時間で行動不能に追い込むために投入されたクラスター爆弾は作戦立案者の思惑通りの成果を見せる。
「ターゲットインサイト、レディ……ナウ!」
最初の5機から続いて、更に5機のF-2が最初の攻撃と同じ数のGBU-87を投下、更に数百隻の海軍船を無力化した。
爆撃開始から僅か10分で当初の作戦は完了した。
『こちらエクセル!北方向から多数の航空戦力を確認した。爆撃が完了した機体は直ちに交戦を開始せよ』
樋口はレーダーや警戒機からの情報で首都から敵の航空戦力の接近している情報を受けて、爆弾を全て投下し終え軽くなった機体を以て、向かってくる敵航空戦力せん滅に動く。
「目標数24か、問題ない」
既にF-2のレーダー探知圏内に入ってきている敵目標に対して、AAM-4使用の指示を出した。
目標を振り分けて、レーダーロックを掛ける。
「FOX-1!」
全機からAAM-4が発射され、総勢20発が目標に向け超音速にて飛翔していく。
「ターゲットスプラッシュ!」
狙い通り、発射した全てのAAM-4は20の航空目標をレーダー上から消し去った。残った4つの目標は速度を維持しながら向かってくる。
「engage!」
樋口は全機にそう呼び掛け操縦桿を握り締める。
既に目視圏内に入って来ていた、ロウリア軍のワイバーンをロックする。
「FOX-2!」
操縦桿の赤いトリガーを引くと、主翼端のAAM-3が撃ち出され一瞬で音速に到達した。
敵も何かに感づいたのか回避しようとしたがAAM-3はそれを追尾、近接信管が作動して爆発し2騎を撃ち落とした。別のF-2から発射されたAAM-3が残りの2騎を撃ち落とす。
『敵航空戦力全滅を確認した。全機直ちに現空域から離脱せよ』
「了解。全機、RTB」
任務を終えた第3飛行隊は、アフターバーナー全開で現場から離脱していった。
「応援に来た竜騎士隊が全滅だと!」
港にある海軍本部庁舎から一部始終を見ていた、基地司令のホエイル海将は、港内で炎上する1000隻の軍船と、西へ向けて去っていく第3飛行隊を見て愕然とした。
「海将!」
「どうした!?」
部下の一人が単眼鏡を覗きながら震えていた。
「沖の方角から船のような島のような巨大なモノが近づいてきています!」
「何っ!?」
ホエイルは首から提げていた単眼鏡で沖を見る。
「な!何だ………あれは!」
沖の水平線に、ここからでもハッキリと分かる程に、巨大な船が向かってきていた。
それはまるで1つの島のように大きく、甲板にはムー国の戦艦のような見た目の巨大な回転砲塔が3つあり、更には天にも届きそうな高い構造物が見える。
「まさか………シャークンの艦隊を撃滅したと言う日本国の巨大船か!?」
ホエイルは沖に現れた巨大船、紀伊の姿と威容に恐れおおのく。
「何だ?」
紀伊は、港から20キロ以上離れた地点で回頭、左舷を港に向け3基の主砲塔を港に向けた。
ホエイルはそれが、自分に向けられている事に気付き、部下に指示を出した。
「来るぞ!早くここから離れろ!急げ!」
ホエイルの指示通りに部下達が動き出した瞬間、紀伊の全主砲が雷よりも遥かに大きな轟音と黒い煙の塊を吐きながら火を吹いた。
「何が……」
ホエイルが視線を向けていた港内に、巨大な水柱が3本上がり、既に虫の息だった軍船や軍の港湾設備を包み込んだ。
続く
久しぶりの紀伊登場です。
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