演習がクワトイネ優勢に傾き、対抗部隊のムー陸軍は進撃してくるクワトイネ陸軍の攻勢を前に後退戦を強いられていた。
「いたぞ!あそこに隠れてる!」
雪中戦用に作られた白一色の迷彩服を着たクワトイネ兵はエアガンを手に雪の中を逃げ回るムー兵を追い回していく。
「調子に乗るな!」
追い回されている側も反撃するが、数で劣る対抗部隊側は徐々に押されていき、その日の夕方には演習場に設けられた対抗部隊の最後の拠点である、東の山間部へと追い詰められた。
「さて、此処からが勝負だな」
演習に参加しているクワトイネ陸軍第1師団の師団長を勤める『トメート・リコルピン』中将は、43式装甲車の指揮車型のハッチから対抗部隊が立てこもっている山を見てそう呟く。
既に夕日は西の空に沈みかけており、冬の日の入りの早さから辺りは暗くなりはじめている。今後は山岳戦に移行する事になるが、夜間での山岳戦は攻める側よりも守りに就いている側の方が圧倒的に有利であった。
夜では視界が効かない上に、この日は夜からまた雪が降るため空には雪雲が掛かり、月は完全に覆われてしまっている。月明かりによる視界が期待できないこの状況での山岳戦はクワトイネ側にとっては非常に不利である。
そこでクワトイネ陸軍はある策を講じた。
それは、山間部を演習に参加している3個師団全部隊が完全に包囲し、時間を掛けて徐々に包囲網を狭め、最終的には降伏判定か殲滅判定に追い込む算段であった。
それからのクワトイネ陸軍の動きは早く、各師団の部隊は山間部へ続く各経路や獣道、川、谷等を封鎖し完全な包囲網を形成した。
それから丸2日が経過した。
クワトイネ陸軍による山狩りは順調に進んでいき、対抗部隊に対する包囲網は徐々に狭まれつつあった。
この日も大雪の中、対抗部隊が潜伏している山の南側の山中をアスファルトで舗装された山道を、第3師団隷下の第15歩兵連隊所属の歩兵6個分隊36名を乗せた43式装甲車3台とその前方を誘導役の偵察隊が使用しているジープ、補給物資を乗せたトラック5台が移動していた。
「さみぃ……」
「腹減ったな…」
43式装甲車の車内の座席で互いに向き合いながら座っているクワトイネ陸軍の兵士達は、氷点下にまで下がっている車内で寒さに耐えていた。
彼等はこの先に居る警戒陣地に展開している部隊との交代をする予定である。
「今日で2日目か。ムーの連中、早く投降してくれよ」
「全くだな。こんな寒い中、これからまた2~3日は陣地に詰めなきゃならないからな。早く帰って暖かい飯が食いたいよ」
皆、冬の極寒の中をほぼ休み無しで演習を行い、クワトイネ側が優勢とはいえ兵員には疲れもピークに達してしまっている。
そんな中、彼等が乗っている車列が突然停止した。
「なんだ?」
自分たちが乗っている43式装甲車が停止し、何が起きたのかと分隊長が車長に問い掛ける。
「どうしたんだ?」
「先行の偵察隊から異常ありって報告が来たから止まったんだ」
「?」
分隊長は天井の警戒用ハッチを開けて外の様子を見る。同じく後ろに居た43式のハッチからも別の分隊の分隊長が身を乗り出して周囲を警戒している。
暫くしていると偵察隊の兵士が慌てた様子で走ってきた。
「この先で敵襲を受けた!ゲリラ戦になりそうだ!」
「分かった!総員戦闘配置!」
突然のゲリラ戦に部隊は直ぐに装甲車から降りて戦闘態勢に入った。
その直後、一両の43式装甲車に衝撃が走り、赤いトリモチが車体に広がった。同時に大量のBB弾が飛んできた。
「敵襲!」
左側の斜面方向からの敵襲に部隊は混乱する。大雪で視界が悪い上に、対抗部隊のムー兵達は巧みに隠れているためか、クワトイネ兵達には彼等は視認出来ていない中、応戦が強いられる。
極寒の中での演習は混沌としつつあった。
続く