ムー、日本、新生合衆国の3ヶ国を中心とした対グラ・バルカス帝国戦と将来の魔法帝国戦を見据えた多方面への軍事技術援助はクワ・トイネを初めとして第3文明圏各国へと順調に進んでいた。
それまでは日本と新生合衆国の2か国による新世界技術流出防止法等による保守的な法律とムーの世界各国への市場拡大が進んでいなかった事により、日本と新生合衆国の同盟国であってもそれらの軍事技術が提供されなかった国は多くある。
今回からは、軍事面や科学技術、経済での恩恵を受けた国達の様子を見ていこうと思う。
まず最初に目を向けるのはロデニウス大陸のクワトイネ公国の隣国であるクイラ王国の様子を見ていこう。
今や世界トップクラスの石油・鉱物資源産出国として名を馳せるクイラ王国はクワトイネと共に、日本、新生合衆国、ムーを中心とした科学立国から手厚い経済支援を受けている。
王国首都『バルラート』も各国から進出してきた大手貿易商社や石油元売り会社のオフィスが立ち並び、クイラ最大の港である『カースル港』には石油タンカーや石炭を運ぶ石炭船が多数往来し、王国各地からパイプラインを伝って集積された原油と石炭、天然ガス、地球では希少鉱物となっているレアメタルの様な地下鉱物資源等が運び出されている。
「うむ、ここ数年で我が国は此処まで発展できたか」
バルラート市内の日本の大手建設会社の手によって整備された街道を複数の日本製オフロード車に囲まれた高級セダンの姿がある。そのセダンのフロントとリアに装着されたプレートには、クイラの王族を示す紋章が描かれており、そのセダンが王族の所有物であり、それに乗り込めるのは王族と、お抱えの運転手のみである。
そのセダンの後部座席に座っている一人の男。
クイラ王国の最高権威であり、政治の長でもある国王『ダサーム・フイセン』は、フロントガラス越しに見えるバルラートの発展ぶりに感嘆する。
「陛下、本日の公務である日本国大使との後謁見お疲れ様でした。次のご予定についてご説明します」
前方の助手席に座っている国王補佐を担当する国王特別補佐官がフイセンに今後の予定を伝える。
「午前11時より、陸軍バルラート基地駐留部隊への観閲式への出席を予定しています」
「分かった。例の新兵器を間近で見られるのが楽しみだな」
フイセンが乗り込む国王専用車と、回りを取り囲む日本製オフロード車を改造した護衛車はバルラートを南にある王国陸軍バルラート基地へと向かった。
その頃、バルラート基地では、国王出迎えるため基地に駐留する陸軍首都防衛師団の兵士達が準備を行っていた。
基地の正門では首都防衛師団に属する儀仗部隊、音楽隊がフイセンを出迎えるためのセレモニーに備えている。
「師団長閣下!間も無く国王陛下がご到着なされます!」
「ご苦労!」
日に焼けたかのような浅黒の肌を持ち、着用しているムーから輸入した砂漠用の迷彩戦闘衣の上からでも分かる程の屈強な体つきに身長180センチを越える首都防衛師団の師団長を勤める『アル・アジド』中将は、フイセンの到着を今か今かと待っている。
「来た!来ました!」
部下の一人が指差した方向に目を向けると、フイセンを乗せた専用車と護衛車の車列がゆっくりと向かってきているのが見えてきた。アル達は気を引き締めて、出迎えに備える。
フイセンの専用車が基地正門前に敷かれた赤絨毯に横付けし、先に護衛官が専用車から降り、フイセンが乗っている後部座席のドアを開けると、中からフイセンがゆっくりと降りてきた。
「国王陛下に敬礼!」
アルの掛け声と共に待機していた首都防衛師団の兵士達はフイセンに向けて、右手の拳を胸に当てる王国式の敬礼をする。
「出迎えご苦労、将軍」
「こちらこそ。お待ちしておりました陛下」
「うむ」
フイセンはアルと握手を交わす。
「それでは陛下、観閲式の会場へご案内致します」
アルはフイセンを観閲式の会場へと案内する。
2人を取り囲むように護衛官と武装した首都防衛師団の兵士達が展開し回りを固めつつ、ゆっくりと式場へと向かい、特別に用意されたVIP用の壇上へと上がる。
「陛下だ!国王陛下がお越しになられたぞ!」
壇上に上がると、演壇前に広い道路を間に挟み、その奥に抽選で選ばれた市民達がフイセンを出迎える。歓声が鳴り止むと、フイセンは市民達の前に堂々とした出で立ちで壇上に用意されていた演説用のマイクの前に立つ。
『親愛なるクイラ王国臣民ならびに王国全軍将兵に………栄光あれ!』
そう一言、大きな声でそう発すると黙っていた市民達は再び歓声を上げ、音楽隊によるクイラ王国軍歌の演奏が始まる。
『前進、前へ!』
同時に、待機していた首都防衛師団と基地に駐留する第1師団各部隊による行進が始まる。
まず最初のプログラムは首都防衛師団に所属する歩兵部隊による行進だった。
『只今、入場してきましたのは当基地に所属する首都防衛師団歩兵部隊です』
ムーから輸入した銃剣を装着した30年式歩兵銃を手にした首都防衛師団の歩兵部隊は、同じくムーから輸入した砂漠用の迷彩戦闘衣とその上に防弾戦闘衣を着用し、頭には迷彩カバーに覆われた42式戦闘鉄帽を被っており、一見すれば武器は第2次大戦当時の物、それ以外は東西冷戦当時の西側の歩兵装備のキメラのような見た目をしている。
「国王陛下に敬礼!」
先頭に立っている指揮官の合図で歩兵部隊の兵士達はフイセンに向かって一斉に顔を向ける。そのままの姿勢でフイセンの前を通り過ぎる。
『続いて入場してきましたのは、首都防衛師団歩兵部隊に所属する狙撃部隊であります』
彼等の後に続いて姿を表したのは歩兵部隊に所属する狙撃兵による行進で、彼等の手には33年式狙撃銃があり、スコープも装着されている。
彼等も先の歩兵部隊のようにフイセンの目の前を行進しながら通り過ぎていく。
グォォォォォォォォォォォ
そしてその次に姿を表したのは、歩兵部隊に配備されている車両部隊による行進だった。
前方から順に43式小型機動車、カラッゾトラック、42式装甲車、カラッゾ350オートバイが列を成して微速行進していく。
此処までの軍事品を手にしているクイラ王国軍。
パーパルディア戦後に発生したロウリア戦争、対グラ・バルカス戦に危機感を覚えたクイラ王国は軍事力の力の入れ様は半端ではなかった。
クワトイネのように食料輸出で外貨を稼ぐように、クイラは掘っても掘っても枯渇する事を知らない潤沢な資源を輸出して獲得した所謂オイルマネーを武器に旧式から最新式までムーから買えるだけの軍事品を買い漁り、戦力として配備している。
無論それはこれらの車両に続き入場してきた、今回の観閲式で注目されている、ある車両も例外ではなかった。
『続きまして入場してきましたのは、我が国初の戦車部隊である第1戦車連隊隷下の各戦車大隊であります。そして今皆様の目の前に見える大型車両は、各大隊に配備された戦車と呼ばれる、最新兵器であります!』
会場に入ってきた第1師団第1戦車連隊隷下の戦車大隊に配備されているラ・シャルマンのクイラ王国輸出型であり、クイラ王国に伝わる戦士の名を冠した『バビーロ』中戦車だった。
タンカラー一色に塗装された車体と砲塔にはクイラ王国の国章が描かれており、戦車を初めて目にする市民達はその力強いに空いた口が塞がらず、フイセンも今回の観閲式の目玉であるバビーロの勇姿に感動を覚えた。
「素晴らしい!我が国にも戦車を配備できる日が来ようとは………」
フイセンは日本との国交開設後、日本政府の招待により招かれた富士総合火力演習を見学した事があり、そこで目にした陸上自衛隊の戦車の姿に感動したのを切っ掛けに、戦車マニアとなった。彼の戦車に対する愛は日本から買い集めた戦車に関する写真集や資料を眺め、更には日本から輸入した戦車のプラモデルを公務の合間で作ったりする程である。
無論、国王である彼は自国にも戦車を配備できないかと日本に戦車の輸入を要請した事もあったが、当時は新世界技術流出防止法によりそれは叶わなかった。しかしグラ・バルカス戦後にムーが自国の戦車を輸出する対象国の1国としてクイラ王国が選ばれたと知った瞬間、兼ねてから計画されていた軍の近代化計画に戦車の導入と配備に関する計画案を強引にねじ込む形で議会に通し、それが承認されると直ぐに交渉を行い、オイルマネーを武器にムーの言い値で戦車を含めた軍事装備を購入契約を交わしている。
そしてこの観閲式の2ヶ月前、遂にムーから待望の戦車が王国へと運び込まれた。現在は初期契約分で購入した200両が第1師団と首都防衛師団に配備されており、今後は他の車両や銃火器と合わせ最終的に600両を購入し、陸軍の全師団への配備を計画している。
衰える事を知らない資源大国クイラの経済力と財力が成せる術と、そしてそれを惜しげもなく使う決断力には誰もが脱帽し、一種の尊敬を念を向ける
「陛下、この式の後にバビーロへの体験搭乗を予定に入れております」
「そうか!それは楽しみだ!」
この観閲式の後、フイセンはバビーロに乗り込み愉快そうに乗り回していたのが目撃されている、
続く
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