日本とパーパルディアとの間で起きたフィルアデス戦争に於いて、戦火の一部となったアルタラス王国。
戦争序盤に於いてパーパルディア皇国による侵略を受けたアルタラス王国首都ル・ブリアスは、皇国軍の攻撃により廃墟と化し、王城に至っては皇国軍最大の攻撃目標に指定されていた事により、瓦礫しか残っていなかった。
しかし、日本の参戦によるアルタラス王国内の皇国軍は陸海空自衛隊の攻撃により壊滅、占領から半年もしないうちに解放された。
その後は日本とパーパルディアとの戦いとなった戦争中盤では、国内に建設されていたムーの空港を自衛隊が前線基地として使用し、それに関する支援に再建されたばかりだったアルタラス王国軍は参加していたが、戦争終盤までは特にこれといった出番は無かった。
戦争終結後、戦争に敗北したパーパルディア皇国はかつての属領に対する独立を認め、アルタラス王国についても王政崩壊後にパーパルディアのトップとなったカイオスの意向により公式な謝罪と賠償を受けた。
賠償で多額の資金を得たアルタラス王国は、日本と新生合衆国、更には日本の仲介によりムーをはじめとした列強各国からの手厚い支援の元、復興の道へと動き出した。
戦争で破壊されたル・ブリアスは日本の建設会社やインフラ企業の全面協力により、破壊された王城の再建、王都内のインフラの整備が進み、更には様々な企業の投資と、アルタラス王国内の鉱山で採掘される魔鉱石の大規模な輸出に乗り出した事でアルタラス王国は急速に復興を遂げた。
しかし復興に合わせて同時に抱える事になったのは軍事面については大きな問題があった。
かつての戦争によりアルタラス王国軍は保有していた戦力の大半を失い、再建された王国軍も自国の領土や領海の防衛すらままならない状態であった。
国土復興と同時に軍事力に関しても大規模な整備を進める必要に迫られ、早急な戦力強化が望まれた。
復興と魔鉱石の快調な輸出により潤沢になりつつあった国家予算から軍事力の整備に関する予算が承認された事よりアルタラス王国は従来の軍事力からより近代的な軍事力への進化を目指し、日本、ムー、新生合衆国へ軍事支援を要請した。
だが戦争終結当時、この3か国は武器輸出に関しては非常に神経を尖らせている状態であり、近代兵器の輸出に関しては当初の予想に反して前向きな回答すら得られなかった。
しかし早急な自国防衛に迫られていたアルタラス王国は何としてでも軍事力の近代化を図る必要があった事から交渉を続け、遂に1644年、その成果が実を結ぶ事となった。
「ルミエス女王陛下に、敬礼!」
アルタラス王国王都ル・ブリアス郊外に、自衛隊と新生合衆国軍が駐留するルバイル基地に隣接する、新生アルタラス王国陸軍ルバイル基地では、あらたにアルタラス王国のトップとなったルミエス国王が視察に訪れていた。
ルバイル基地に駐屯する首都防衛独立大隊の兵士達は、ルミエスに対して最高位の敬礼を見せる。
「国王陛下、お待ちしておりました!」
ルミエスを出迎えるのは、元王国第1騎士団長で、アルタラス王国解放で当時の地下抵抗組織を率いていた『ライアル』現陸軍元帥と、首都防衛独立大隊の大隊長を勤めている『リルセイド』少佐であった。
「ライアル、出迎えご苦労様です。リルセイド、お久し振りですね」
「はい。王国解放以来でしょうか」
リルセイドはフィルアデス戦争直前に王国を脱出したルミエスに従っていた元王族直属上級騎士であり、王国独立後はルミエスの指名で、首都防衛大隊の大隊長として出世していたのであった。
「本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます。それではこれより基地内をご案内致します」
リルセイドとライアルに連れられルミエスは、用意されていたムー製の43式小型機動車へと乗り込む。リルセイドの運転で視察に出発した。
「リルセイド、本日は何をお見せ戴けるのでしょうか?」
「はい。予てより編成が予定されておりました戦車、歩兵部隊の訓練をご覧いただきます」
ジープは基地内の戦車部隊の本部が置かれた訓練場へとたどり着く。
訓練場はかなり広めの敷地面積を誇り、戦車が訓練するには問題ないレベルの広さである。今ルミエス達が居るのは、訓練場の一角にある草地であった。
「静かですね」
訓練場は非常に静かで人の姿は無かった。
「いえ。既に一人の兵士が居ますよ」
「でも、それらしい姿は何処にも……」
ルミエスは辺りを見回すが何処にも人影は無かった。
「居ませんね……」
「それでは出てきて貰いましょう」
リルセイドはハンドサインを訓練場に向ける。
すると、訓練場の一角にある草地がモゾモゾと動き始める。
「え?」
すると、全身にギリースーツを纏った狙撃兵が草地の中から忽然と姿を表した。
完全に草地と一体化していた狙撃兵の登場にルミエスは驚きを隠せなかった。
「我が大隊が誇る狙撃兵です」
狙撃兵はムー製の33式狙撃銃を手に駆け足でルミエス達の元へやって来た。
「陛下、ご紹介します。この者は我が大隊の歩兵部隊に配置されている狙撃兵の中で最上位の成績を誇る、カリアス・ハウコック軍曹であります」
「カリアス・ハウコック軍曹であります!国王陛下にお会いできて光栄であります!」
ルミエスは彼の名前を聞いて何かを思い出した。
「あなたはもしや、前の戦争で皇国兵を100人近くを倒したと言う狙撃兵が確か同じ名前だった筈……」
「はい。彼がその狙撃兵です」
アルタラス王国軍で今やちょっとした伝説となっているカリアス・ハスコック軍曹。元王国軍の魔導銃の使い手を集めて編成されていた魔導銃小隊の一員で、フィルアデス戦争で所属していた魔導銃小隊が壊滅した後も、私物として手に入れていた愛銃であるムー製の単発ボルトアクションライフルを手に地下抵抗組織に属する事なく単独で皇国軍へと抵抗していたゲリラ兵である。
彼が伝説となっているのは、類い希な射撃能力であった。旧式の魔導銃を手に王国内の森林や市街地に紛れて、皇国駐留軍の兵士や統治機構の職員へ対する暗殺とゲリラ戦を展開しており、神業とも言える射撃能力で皇国兵と統治機構職員を確認されているだけで100名程を殺害している。
当時の皇国兵と統治機構職員からは、その姿を見せない彼の事を『キラーファントム』の名で知られており、一度外へ出て彼が居る場所に入れば二度と基地へと戻ってこない事からそう呼ばれている。
「陛下、先ずは彼の狙撃能力をご覧に入れましょう」
視察の最初のプログラムである狙撃訓練のため、ルミエス達は訓練場を一望できる監視塔へと上がる。
「あら?」
ルミエスは既にカリアスの姿が見えない事に気づく。
「彼は既に配置に就いています」
「見えませんね。何処に居るのか全く分かりません」
見回してもカリアスの姿は見えず、ギリースーツと迷彩服の効果が現れている。
草地の中で伏せの状態で待機していたカリアスは33年式狙撃銃を構え、スコープで800メートル先に設置された標的用の5つの壺を狙う。
「っ!」
引き金を引くと、6・5ミリ弾が発射された。超音速で飛翔する弾は800メートル先の壺に見事に命中し、壺は粉々に粉砕されてしまった。
初弾を撃ち終えると素早くボルトを操作し次弾を装填し、隣の壺を撃ち抜く。
「凄い!」
ルミエスは一発で壺を撃ち抜いていく、彼の噂が本当であったことを理解した。そしてあっという間に、壺は全て破壊され、彼の狙撃展示は終了した。
続く
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