狙撃訓練展示が終了し、今度は戦車と歩兵による訓練展示が開始される。
訓練場の東側からターラ中戦車で編成された戦車小隊と、それを護衛する歩兵部隊がやって来た。
「この訓練は、我が国が他国からの侵攻を受けたとのシナリオで、それを水際で防ぐための防衛戦闘を想定しております」
現在のアルタラス王国軍は、フィルアデス戦争の教訓から本土防衛に特化した専守防衛戦略に舵を切っており、訓練も防衛戦闘に特化した訓練を中心に行われている。今回の視察に於いて、ルミエスにその自国の防衛力についてより一層の理解を深めて貰おうと企画されたものである。
訓練場にやって来た地上部隊は砂浜に見立てた砂場に到着すると、工兵部隊が日本製の建設車両と機材を使い、戦車が入るための掩体壕、歩兵部隊が使用す塹壕を堀り始める。
日本製のパワーショベルが砂場に穴を堀り、その土をダンプカーの荷台に乗せていく。掘り起こされた穴を工兵が工事用機材を使い戦車が入れるため穴の回りを固め、ダンプカーから降ろされた土を袋に詰めて土嚢を作り歩兵用の塹壕に積み上げていく。
「よし!良いぞ!」
掩体壕と塹壕を完成させた工兵部隊は戦車を掩体壕に、塹壕に歩兵部隊を入れていく。
歩兵部隊は土嚢を盾にガエタン6・5ミリ軽機関銃と12・7ミリ重機関銃を設置し、歩兵は土嚢に30年式歩兵銃を立て掛けて何時でも射撃できるように備える。
「各部配置完了!」
配置が完了し、戦闘態勢に入った。
それから暫くは静粛が辺りを包み混む。
「静か……ですね」
「もうそろそろの筈ですが………」
その時、何処からか爆音が聞こえてきた。
「始まりました。敵襲です」
連続した爆音が響き渡り、同時に防衛陣地に赤いスモークが焚かれる。
「敵襲ぅ!戦闘用意!」
爆音が響く中で歩兵部隊は機銃と歩兵銃に弾丸を装填し、射撃態勢に入った。
すると、防衛陣地の奥から敵役の部隊が姿を表した。敵部隊はパーパルディア皇国軍を模倣しており、かつての皇国軍の兵士のように鎧を身に纏い、剣を手に、皇国軍のものと似た紋章が描かれた旗を掲げながら突撃を仕掛けてきた。
「射撃開始!」
歩兵部隊による射撃が開始された。放たれる大小のペイント弾は敵部隊を真っ赤に染めていく。
『砲撃開始!』
掩体壕から砲塔だけ覗かせていたターラ中戦車も空砲による砲撃を開始した。
無論、放たれるのは空砲のため音だけではあるが、これが実戦なら既に敵側には多数の死傷者が出ている。
「怯むな!進め!」
敵役もやられてばかりではなく、押しの一手で防衛陣地へと迫る。
しかし、距離が縮んでいく度に歩兵は次々と脱落していき、何とか防衛陣地の鼻先までにたどりつけたのはほんの僅かな数しか居なかった。
「よし!着剣!」
歩兵部隊の指揮官は好機とばかりに、歩兵銃に着剣を指示し、部隊のライフル手達は歩兵銃の銃口に訓練用のゴム製銃剣を装着する。
「突撃に、前へ!」
それを合図に、全員が一斉に陣地から飛び出し、銃剣の刃先を向けながら走り出す。
敵役はその場から逃げるように防衛陣地から離れていき、やがて防衛陣地周辺から姿を消した。
『只今の訓練、勝者……防衛部隊!』
訓練場内にそうアナウンスが流される。
「終わったのですか?」
「はい。訓練展示、終了いたしました」
ルミエスは初めて見る近代戦闘訓練に圧倒されていた。
彼等は予めシナリオが作られ、そのように行動するよう指示されていたとは言えルミエスには勇ましく頼もしいように見えた様であった。
「それでは陛下、これより次の場所へとご案内致します」
監視塔から降りたルミエスは次なる場所へと移動した。
訓練場から南へ向けて移動するジープの中で外の景色を見ていたルミエスはある事に気がつく。
「そう言えば、人通りが少なくなった様な気がするのですが」
訓練場から出て直ぐは、基地内で別の訓練をしていた兵士と、基地職員と大勢すれ違っていたが、南へ向けて進む度に人通りが無くなっていき、比較的明るかった雰囲気も徐々に暗くなっていくのを感じた。
「陛下、事後報告になるのをご容赦ください」
ライアルは表情を変えて、ルミエスにそう断りを入れてから、少し小さめの声で話をはじめる。
「例の部隊が日本国での訓練を終えて帰国しました」
「例の部隊と言うと………彼等ですか?」
「はい。何分彼等の存在は国家機密なので、情報漏洩を避けるため、陛下の本日の基地視察予定には入れておりませんでした。申し訳ございません」
「謝らないでください。私もその辺については理解していますし、彼等にそう命じたのは私なのですから」
「お気遣い感謝いたします」
ルミエス達が話す"例の部隊"とは何なのか。
それは今、彼女達が向かっている次の場所にその秘密が隠されている。
訓練場から数百メートル離れ、四つのエリアのうち、南に位置する南エリア近くへ到着したルミエス達。
「此処が彼等の……」
目の前にはコンクリート製の分厚い壁が南エリア一帯を囲うように作られ、他のエリアからは中の様子が見えないように完全に遮断されている。
唯一の入り口となっている南門も鋼鉄製の分厚い扉で厳重に閉じられ、その前には実弾が入ったドラムマガジン付きの44式短機関銃で武装した歩哨2人と警備詰所が建っている。
「止まれ!!」
門の前にジープを止めると、歩哨2人が44式の銃口を向けてきた。2人のうち1人が銃口を向けながらゆっくりと近付いてくる。
「陛下!?これは、失礼しました!!」
歩哨は車内のルミエスの顔を見ると、直ぐに銃口を下げてアルタラス式敬礼で謝罪する。
運転席に居たライアルは歩哨に話し掛ける。
「すまない、聞いていると思うが…」
「はい。門を開けますので少々お待ちください」
歩哨はそう言うと直ぐに懐からIDカードを取り出すと門の脇に備えられたセンサーシステムにスキャンさせロックを解除する。開閉スイッチを押されると、重厚な門がゆっくりと開いていく。
「どうぞ、お通りください!」
門が半分だけ開き、そう促されるとジープは門を潜って中に入った。
続く