訓練を開始した第3小隊は地下室に設けられた市街地戦訓練場に展開し訓練を開始した。
今回の訓練は、重要人物を人質にとった犯罪者が市街地のビルに立て籠り、それを制圧するというシナリオで進められる。
監督所から訓練の様子を見学するルミエスの目線には人質役の人形にナイフを突きつけた犯人がビルの3階にある部屋に立て籠り、窓から外に向けて威嚇するように叫ぶ。
「身代金と逃走用の馬か車を用意しろ!」
完全に外へ注意が向いている犯人の死角から、ビルを囲むように黒ずくめの戦闘装備に身を包んだ第3小隊の隊員が現れた。小隊はビルを四方から取り囲むように展開し、1階の入り口や裏口、窓の鍵を素早く解錠し、そこからビルへと入っていく。
ビルに入った第3小隊と犯人の様子は、内部に設置されている監視カメラにより記録され、それらの映像は全て監督所内にあるテレビモニターに写し出されている。
「動きが素早いですね」
「彼等は屋内戦闘のプロです。事前に建物の間取りは全て頭の中に入っているので、出来るだけ時間のロスを削減し効率的に展開できるよう訓練されています」
モニターに写る第3小隊の動きから、ルミエスには彼等が日本で相当に厳しい訓練を受けているのが分かった。そうでなければこんなに素早い動きなど出来ないからだと理解しながら、モニターに釘付けになる。
『部隊配置完了、これより情報収集を開始する』
すると、屋上から3名の隊員が腰から下げていたロープの先にあるフックを屋上の冊子に引っ掛け、そのまま壁に足をつけながら、犯人が立て籠っている窓の上まで音を建てないように降りていく。
窓の上まで降りると、紐に繋がれた小さな手鏡を慎重に降ろし3階の室内の様子を伺う。
「あれは何をしているのですか?」
「犯人制圧に向けての情報収集です。あの紐の先には小さい鏡が括りつけていて、鏡に部屋の様子を写させているのです」
隊員達はそのまま偵察を続けながら、ビル内に展開している突入部隊に3階の様子を伝え続ける。
そして、現場指揮官の判断により突入が指示され、いよいよ突入に向けたカウントダウンが始まった。
「突入10秒前」
隊員達は44式の安全装置を解除し、3階の部屋の前にある扉を開ける準備を開始する。
屋上の隊員達も窓からの突入に備えて降下準備に入った。
「5、4、3、2、1、0、今っ!」
カウントが0を指した瞬間、ドアの前に居た隊員が37年式散弾銃で扉の蝶番を破壊し、正面の隊員が扉を吹き飛ばすバッテリングラムと呼ばれる丸太サイズの大型棍棒で扉を吹き飛ばし、スタングレネードを投げ入れる。
「突入!」
室内で爆音と閃光が響き渡ると小隊は突入した。屋上窓の隊員達もほぼ同時に窓を蹴破って突入した。
突入と同時に犯人は頭と体にペイント弾を受けて、怯んだ瞬間に数名の隊員が犯人を拘束し人質の安全確保に成功する。
「終わったのですか?」
「はい。犯人が発砲する事なく人質は無事に助け出されました」
任務を終えた第3小隊は人質と犯人を連れてビルから出ていき、そのまま何処かへと消えていった。
「では陛下、続いては狙撃班による射撃訓練をご覧ください」
次のプログラムである第3小隊の狙撃班による射撃訓練が開始される。ルミエス達は隣の射撃場エリアへと移動した。分厚い防弾ガラス張りの監督室越しに伏せ撃ちの状態で待機していた狙撃班の隊員が目に入った。
『各員、射撃用意』
狙撃班の訓練を担当する担当官がマイクを使い、狙撃班の隊員に指示を出し、狙撃隊員は33年式狙撃銃に実弾を装填し、スコープを覗き込むと、前方300メートルに配置された人型標的の頭部に照準を合わせる。
「撃て」
合図と同時に狙撃班の隊員がほぼ同時に射撃した。
複数の狙撃銃の銃声が重なり、銃口から曳光弾が1つの標的に重複し標的の頭部に命中する。
狙撃班は瞬時にボルトを操作し次弾を装填すると再び射撃する。
「息がピッタリですね」
狙撃班の射手が同時射撃とボルト操作を行う様はまるで動きが完全にリンクした機械のようである。
『射撃終了』
担当官が射撃終了を告げる。
標的が回収され、ルミエス達の元へと届けられる。
「これは……」
標的の頭部は多数の穴がある。特に鼻から額にかけて命中痕が集中しており、彼等の練度の高さが伺える。
その後、潜水訓練、潜入訓練等を見学したルミエス達。
名残惜しみつつも409部隊の視察を終え、最後に基地の全将兵に対する訓示が行われる。
「偉大なる全将兵の皆さん。本日は訓練で忙しい中、私のために時間を割いていただきありがとうございます。本日お見せ頂いた訓練で皆様が国防のために、努力をしているという事が伝わりました」
壇上の上でマイクに向かってそう話し、スピーカーから放たれるルミエスの声が全将兵に伝わっている。
「かつてのフィルアデス戦争にて我が国は皇国の手に落ちてしまいましたが、日本、アメリカの手により主権を取り戻す事が出来ました。そして皇国の影に怯える事なく本当の意味での独立を手にした我が国の主権と独立を守る貴殿達の努力は、安全保障において非常に重要な要素になります。今後も我が国の独立と主権を守るための存在として、国民から信頼される存在としてより一層の努力を期待しております」
そう言い終えると全将兵は一斉に敬礼し、ルミエスもそれに対して王族が使用する敬礼で返した。
基地の視察を終えたルミエスは帰路に就いた。帰りの車の中でルミエスは深い考えに浸っていた。
(やはり我が国に特殊部隊の設置は必要だった。将来的に来る新たな脅威に向けて本格的に備える必要があるわね)
ルミエスは車内でそう考えながら、409部隊の今後についても考えなければならないと真剣な表情だった。勿論、通常戦力についても規模を拡大させる必要もある。フィルアデス戦争勃発時の失態と悲劇を二度と繰り返させないためにも国防の重要性について、より一層取り組まなければならないと感じた。
(彼等には国防の一翼を担う存在になってもらわなければ…………かつての様な悲劇を起こさせないためにも)
その後、アルタラス王国の次年度の軍事予算が大幅に拡大された。拡大された予算によりアルタラス王国軍は陸海空軍の規模の拡大と兵器開発、輸入、更には409部隊の練度向上にも予算が費やされた事により、訓練施設の規模拡大、部隊訓練内容の充実が図られたのは別の話であった。
続く
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